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PS. 一番は千歳やで。
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「なぁなぁ。わいさ、ずっと気になってんねん」
「じゃ、どうでもええことやね」
「なん、白石ひどいやん!」

白石の周りを跳ね回る金太郎は、まるでお菓子を買ってもらえず駄々をねる子供にしか見えない。

「ほんならこの優しい謙也様が聞いてあげようではないか!」
「え、うん」
「その反応が、え?やわ」

白石大好きっ子も困ったもんやなぁ。
いや羨ましいとか、そういうことではない。金太郎はみんな平等に好きなことは知っている。その中で特に白石が飛び抜けているのだ。好きと、大好き。これの違い。
たまにいらっとはするけれど。温度差に。

「でも謙也は分かるかなぁ」
「仮にも先輩や。金ちゃんよか分かるわ」
「うん、じゃあ聞いてな?」

若干渋々といったところか、ちらっと白石を見てから話を出した。きっと白石も聞いててね、という意味だろう。白石は特に反応を見せず、そのままベンチに座りだした。

「氷帝にー、四天にー、たつうみやん」
「たつうみ?あぁ、立海な」
「あ、それ。全部さ、最初の2文字を取ってるやん」
「おん」
「でもさ、コシマエの学校は青春やなくて青学やん。なんで?」

え、なんで?いや、なんでだろ?
あれだ。青春ってだけはおかしいからだ。応援でも、青春ーってのはおかしいもん。うん。

「おかしいからじゃね?」
「えー、そしたらなんでそんな名前付けたん?」
「だって、え。あれや、学校ってのは青春の代名詞やからや」
「じゃあ別に青春でもえぇやん」

ああ言えばこう言う。
まさにこの状況だ。純粋に分からない、という顔をしているので、余計腹が立つ。嫌いとかそういう意味ではなくて。白石は我関せず、といったように助け船は出してくれない。
ここで分からない、と言ってしまえばこっちの負けだ。

「青春より青学の方が言いやすいからやん?」
「えー?そう?やっぱり知らないんちゃう?」

いやまあ確かに知ったかになるけれど、金太郎に分からないと言うのは癪だ。でもここで意地を張ってもなんの特にはならないので、素直に認めよう。

「あー、はいはい、知らんよ」
「やっぱ知らないんやん。じゃあ白石は知っとるん?」

君は白石に聞かないと気が済まないのね。まぁいいけど。
そこでやっと白石は金太郎を見て若干溜め息を吐いた。

「金ちゃんが質問しとる内容は午後の紅茶をなんで午後ティーって呼ぶのってのと同じや」
「そっか」

え、なんか違くね?金ちゃんもそれで納得?え?
まあそんなことは言えず、ただ金太郎を見るだけだった。彼は本当に納得したようで、そっかそっか、と繰り返している。

「氷帝の向日くんをおかっぱっちゅーのとか、跡部くんをキングとか、謙也の従兄弟を眼鏡とか、それと一緒」
「そっか!白石が聖書とか、謙也がスピードスターとかのと同じやな!」
「そうそう」
「さっすが白石やわ!よっしゃ!すっきり!小春とラリーしてくる!」
「………」
「………」

軽い沈黙。
なんかもう内容違うよね。
金太郎は言った通り小春とラリーを始めた。

「…なぁ」
「うん?」
「テキトーやろ?」
「やってオレだって知らんし」

あぁそう…。お前が嘘教えてえぇんか。
もしもこれが謙也が言ったことだったら、最終的には信じるだろうが、素直には信じないだろう。

金太郎にとって白石は先輩とかよりも、良きお兄さんというポジションなんだろう。
白石がお兄さんならオレだってお兄さんというポジションじゃないか、と思うが、なんとなく先輩止まりだと分かる。

「てか最近金ちゃんにちょい冷たくない?」
「自立せなあかんからなぁ。頼ってくれるのは嬉しいけど、頼れる先輩はオレだけやないやろ」
「気付いてたんか」
「そりゃ分かるわ」

ユウジと財前の打ち合いが終わり、白石の番が回って来たので、この話は終わり、というようにコートに入っていった。
入れ違いにユウジと財前がこちらにやってきた。

「おう、お疲れ」
「先輩もさぼってないで、なんかしたらどうすかー」
「コート待ちや」
「で、白石となんの話してたんや?」
「金ちゃんのことやけど」
「あぁ白石依存症な」
「そんな名前付いてるんかい。そういりゃ、金ちゃんてユウジと財前にはあんま質問しないよな」

というか見たことないかも。大抵聞くのは白石に千歳、小春の3人で、たまに謙也という感じだ。
2人は顔を見合わせ、直ぐにこちらを見た。

「そりゃ」
「上下関係をしっかりしてるからすわ」
「上下、関係?」
「必要以上に話し掛けるなとか、自力で考えろとか」
「今取り込み中オーラだしたり」
「…つまり面倒なのね」
「適当に流せばええんやろうけど、かったるいし」
「嘘付くのも面倒っすわ」

この2人は本当に先輩デスカ?
確かにそこから金太郎の自立が始まるのかもしれないが、かえって誰かの依存度があがるだけではなかろうか。

みんなが金太郎を甘やかしている分、甘やかさない人も必要だろうが、どちらも両極端だ。関わるか、関わらないか。

「…あ」
「物忘れすか」
「スピードスターっちゅーのも伊達やないなぁ」
「せやろ?最近はみんなの名前も…ってちゃうわ!」
「ノリツッコミいらんわ」
「おもろくもないわ」
「自分ら冷たすぎ」

このコンビはとことん容赦がない。そりゃ金太郎も質問的な会話は避けたいはずだ。
でも分かったことがある。自分は真ん中の立ち位置だと。適度の甘やかしのはずだ。白石、千歳、小春、銀は金太郎を甘やかし、ユウジと財前は甘やかせないというか関わらない。それなりにバランスを取れている。

「オレって重要ポジションやん」
「なにアホ抜かしてんすか」
「重要ポジションは小春や、小春」
「てか先輩いなくても大丈夫なんで重要じゃないすよ」
「お前なぁ…」
「財前クンの愛情表現や」
「てか財前こそ先輩に甘えるべきや」

…視線に殺意を感じます。
もうちょい後輩らしい後輩がほしいというのは自分だけだろうか。

「やっぱオレも金ちゃん甘やかそうかなぁ…」
「そんな後輩に構ってほしいんかい」
「なら構ってあげますよ。せんぱーい、腹減りました。奢ってくださーい」
「それちゃうわ…。なんかなぁー、白石が羨ましいわ」

懐かれている後輩がいて、勉強出来て、いるだけでモテて、部活も絶好調で、青春ライフ満喫じゃないか。
自分なんて後輩に懐かれないわ、勉強は中の中だし、あんまモテないし、部活も普通だし。

更に癪なのは白石はモテたいと歌っている。どういう神経だ。てかそれ以上モテてどうする。どうしたい。しかし今はテニス一筋で恋愛なんて興味ないし、積極的な女の子も嫌いだ(本人談)。なのに、モテたいと。

「だぁーっ!癪やっ!ひとっ走りしてくるわ!」
「は?」
「あの人、言ってから行動するまで相当早いっすよね。てか言葉より行動の方が早いわ」
「謙也もさ、損な性格しとるよなぁ」
「そうすか?」

分からない、と疑いの目でユウジを見れば、顔には、ほんと哀れ、と書いてあるような気がする。

「あいつに告白しに来た女の子を、何を勘違いしてか白石に送り込むわ、金太郎がほんまに謙也に相手してほしいんに、白石に回すわ。無意識の優しさって損やなぁ」
「はあ、そうすか」
「なん、お前やって思い当たる節があるやろ」
「……さあ?つかなんで勘違いって分かるんすか?それもお得意な観察力?」
「ん、今から分かるで」

顎で指した先を見れば、走ってこちらにやってくる金太郎が見えた。重い気持ちを押さえながらも、代わりに溜め息が出る。

「ユウジぃー!聞いてや!あり?財前逃げへんの?わい来たのに」
「人をなんだと思ってるんや」
「まあええわ。あんなー、さっき謙也にいんすぴれーしょんっちゅー意味を聞いたんや。そしたら白石に聞けやって回されたんやで!?英語得意っちゅーから聞いたんに…。てか最近謙也構ってくれへん。冷たいわ。わい悪いことしたか?気分悪いわ。ちゃんと言ってくれればええんに。なん聞いてもしら――」
「分かったから一旦お口チャックや!」
「あう」

大人しく聞いていたユウジだったが、まだまだ続くであろうマシンガントークにを喝を入れて止めた。
なるほど、勘ではなく、金太郎自ら愚痴りに来てるのか。

「そんな構ってくれへんのか」
「うん。白石に聞けば他当たれって言われて、謙也に聞けば白石に聞けって…。結局聞けず仕舞いや」
(うわ、自立の意味無…)
「よくよく思えば最近白石も冷たいんよ。返事適当やもん。他当たれって言うし。構ってくれへん。…愛想尽きた?」
(結構勘ええな。あ、野生の勘か)
「…財前君、心の中での会話はやめようや」

だって金太郎の悩みの事に口を挟むのなんて癪だし。
でもなんか意外かもしれない。金太郎がユウジに相談(いや、愚痴か?)を持ちかけるなんて。
そうだ、謙也は金太郎に構ってほしいと言っていた。なら嫌がらせをしようじゃないか。

「じゃ、代わりに構ってやってもええよ」
「はあ?」
「財前が?ほんま?ええん?」
「ま、なかなかに楽しいやろうし」
「わーいっ!5年に一度あるか無いかやから、構ってもらうで!白石も謙也も構ってくれへんし」
「…性格悪」

財前は口を少し上げた。何やら若干痛い視線を感じたので、横目で見てみれば、案の定、いつの間にか走り終わった謙也と、ラリーを終えた白石が見ていた(というよりも睨んでいた)。
わざと金太郎の頭を乱暴に撫でてやり、その場を離れて2人の元へ行った。

「なんすか?」
「いや…、金ちゃんて、ユウジと財前にあんなになついてたっけ?」
「さあ?どうやろ。…あぁ、先輩らと違うて、ちゃんと相手するからちゃう?」
「……白石、こいつ腹立つ」
「自立するきっかけならええやん」
「ならあんま睨まんといてな、ぶちょーさん。じゃ、練習してきます。金太郎と」

もうこれは嫌味でしかない、という笑顔を残し、ユウジと話していた金太郎と練習に入った。

「………」
「………」
「…なぁ」
「うん?」
「あれはなんていう嫌がらせや?」
「分からんが…、なんか金ちゃんが財前とユウジになついてるって、なんか癪かも」
「あいつ絶対わざとや。楽しんでるで、心中」
「…他の先輩に頼るんはええことやけど、それはそれで寂しいなぁ」
「子離れ出来ない親やな」
「ま、鈍感でなつかれない先輩よかましやな」
「………」
「………」
「…なあ」
「うん?」
「試合しようや」
「そうしよな

挑発に乗るなんて大人げないなぁ、と思いつつ、今日も1日変わらない日だなぁと思った。


―――――――――――
どんな話にしたかったかもよく分からない。収集つかない!





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