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伝える:金太郎
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「好きってどうやって伝えるん?」
「ぶっ!」
「げほげほっ!」
「いきなりどしたと?」
「謙也も白石も汚いー」

いや、だって、この金太郎から好きという単語が突然出てきたのだから蒸せてしまって当たり前だろう。好きな子でも出来たのだろうか。

皆で食堂という少しリッチなところで昼食を取っている時だった。授業の話が一段落したところで、まるで授業の話を続けるかのように、当たり前に切り出したのだ。

「あら、好きって伝えたい人がおるん?」
「おん!」
「誰や。オレがチェックしてからやないとあかん」
「そこは自由にさせようよ…」

白石は本気で言ったつもりだったが、謙也により制止を掛けられた。気になるというよりとても心配なのだ。金太郎はほんの少しだけ頬を赤らめて、にっこり笑った。

「秘密やで。で、どう伝えるん?」
「そうね、自分の好きなお花か、相手の好きなお花を一緒に添えて、一言かしら」
「そうか!じゃオレも小春にそう…」
「いやんユウくん」

おばちゃん特有の“あら奥さん”という手をして、語尾にハートを付けていた。金太郎は不思議そうに見つめていたが、ユウジに向き直った。

「ユウジは?」
「オレ?ハグしてストレートや!」
「先輩のやんじゃなかったんすか」
「どっちもやるんや」
「そういう財前は?」

きっと全員に聞くつもりだろう。財前は面倒臭そうにしていたが、悪乗りをして口を開いた。口元が怪しく笑っている。

「ほっぺにちゅー」
「ぐぇほっ!」
「げほっ…」
「きーたーなーいー…」

しょうがないじゃないか。まさかあの財前が悪乗りしてそんなことを言うなんて思ってもいなかったんだから。

「でもちゅーかぁ…。さすがにそれは出来んな」
「はぁ…、よかった…」

財前を軽く睨むと、舌を出して外方向かれた。
生意気な後輩め。可愛い後輩に何教えやがんだ。

「千歳と謙也と白石は?」
「んー…、気持ちを込めて素直にかな。あとは好きな食べ物あげるとかばいね」
「食べ物で釣るんかい。オレはとびっきりの笑顔で伝えるな」
「うわー、イタイすね」
「や、みんなイタイやろ」
「白石はー?」
「特に別に何もせえへん」
「わ、つまらん」
「無駄のない男やね〜」

気持ちを伝えるに派手も地味もないだろう。今は彼女云々よりもテニス一筋だが。

「で、いつ気持ちを伝えるん?」
「明日!」
「早いな」
「陰から見てるからな」
「悪趣味やな」
「白石だって気になってるくせに」

そりゃ、気になる。あの金太郎が自ら恋愛ごとに進むのだから。気にならない方がおかしい。

「別に見ててもええで」
「恥ずかしくないん?」
「平気や」
「おっとこ前さね」
「えへへ」

何に対しての照れ隠しか分からないが、とても可愛らしい笑みを浮かべた。
こんな可愛い顔で告白なんてされたら、きっと相手は縦に振るに決まっている。
自立してしまうのは少し悲しいかな。

その後は金太郎は落ち着いており、寧ろ自分達の方がそわそわして落ち着きがなかった。


「…なあ、金ちゃん行動起こした?」
「いや、特には…」

それは金太郎が告白をする、と宣言した当日の昼休み、謙也が耳打ちをしてきた。みんなの目線は美味しそうにたこ焼きを頬張る金太郎を見つめていた。

謙也が不安がるのは当然だ。なんせ本人の許可を得ているので、ずっと、言葉を良くすれば見守って、悪く言えば覗いていたのだから。

「やっぱりこういうイベントは、王道な放課後なんかね」
「あの金ちゃんが部活よりも恋愛優先にするん?」
「それ程夢中、とか?」
「知らんわ」

部活よりも優先してしまう程夢中になるとは、少しは大人になったと喜ぶべきなのか、はたまた悲しく思うべきなのか。

「放課後、楽しみやね」

こちらの心境など知りもしない謙也が無邪気に言った。しかしこっそり小春が、今の蔵リンに金太郎さんの話題はタブーよ、と言ったのはきちんと聞こえていた。


「ほんまアイツ、今日告白するん?」

放課後になり、痺れを切らしたユウジが若干苛立ち気味に言ってきた。コートに集まり、部活が始まるのを待っている。苛立つということはそれ並に気に掛けているのだろ。

「というか金太郎さん見失ったわね」
「ちょ、放課後担当は千歳やろ」
「すまんたい。可愛い猫がおったから…」
「金ちゃんより猫が大切なんやな…」

特に反省している態度もなく、謙也に呆れられてもへらっと笑っていた。
白石に関しては、もう雰囲気が怖く、会話も参加せず、尚且つ話し掛けにくい。多分やたらと首を突っ込みたがる謙也たちに呆れているのだろう。又は金太郎がテニスよりも恋愛を取ったのが気に入らないのか。

あえて空気を読まず、ますます白石の機嫌が悪くなるようなことを財前が言った。

「今頃コクハクでもしとんちゃうすか」
「あらん、残念。見たかったわ」
「みんなおったー」

噂をすればなんちゃら。ご機嫌な様子で金太郎がこちらにやってきた。周りは花が舞っているのが見えるぐらいルンルンだ。
いち早く食い付いたのは謙也だった。白石が怖いが、気になるものは気になる。

「告白したん!?」
「……コクハク?」

状況が飲み込めていないのか、目をぱちくりさせた。それにもお構い無く謙也は食い付く。

「そや。したん!?」
「コクハク…ってなんそれ」
「は?昨日散々言ってたやん!気持ち伝えるって」
「ああ!今からやで」

わざわざ皆に伝えるために部活に顔を出したのだろうか。やはり金太郎よりも、みんなの方が緊張していた。
確かに言われてみれば、何か後ろに隠し持っているようだ。

「今からその子を見定めやね」
「うん?よお分からんけど…、なあなあ白石」

うわ、こんな時に白石に用かよ。
誰もがそう思ったが、金太郎は全く気にせずにこにこ笑っている。

「なん、早よ行かんと時間なくなるで」
「それあかんわ。あんな!」

話を理解していないのか、まだ行く気配がない。しかしお構いなしに、とても可愛らしい笑顔と共に差し出されたのは綺麗にラッピングされた小さな花束と、出来たてのたこ焼き。

「なん、どしたんや、それ」
「あげる!」
「オレに?」
「おん!」

状況がよく分からない。しかしそれを受け取れば、金太郎はとても満足そうに笑っていた。仕舞には、

「いつもおおきに!」

と、言ってぎゅうーっと抱きついてきた。正直みんなの頭には、はてなが浮かんでいる。
控え目に言い出したのはやはり謙也だった。

「あの、金ちゃん?今のは?」
「うん?昨日いっぱいみんなから聞いたやん。それ」
「恋愛についての?」
「れんあい?なんそれ」
「え?昨日聞いたの…」
「好きって伝える方法?」
「おん、それ」
「だから、これ」

………。
よく分からない。よくどころではない。全く分からない。そんな中、千歳が、ほお、と呟いた。

「金ちゃんば言っとる好きって、恋愛とかそげんじゃなくて、尊敬とか大切とか、家族愛に近い好き?」
「?よお分からんけど、白石にはめぇーっちゃ感謝しとるから、ヒゴロの感謝の気持ちや!めっちゃ大好きやもん」

やっと話が見えてきた。始めから恋愛事ではなかったのだ。
言われてみれば、金太郎は好きと云う単語しか言っておらず、告白や好きな子がいると勝手に解釈したのは自分達だ。
金太郎は感謝を伝えたかっただけなのだろうが、どう伝えたらいいのか分からないので、みんなに聞いたのだろう。言葉足らずで誤解を招いたが。
そう思ったらなんだか笑えてきた。

「ははっ、金ちゃんの気持ち、ちゃんと受け取ったで。おおきにな」
「おん!」
「金ちゃんに彼女かと思ったら、ちゃうかったかー。ま、白石は安心したんだろうけど」
「なして今日言ったと?」
「んー?それは、」


いつも、毎日思っている事だけど、たまには、言葉で、行動で示したかったからだよ。


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