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□世界が刻むリズムで
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たとえばの話をしよう
もしも君が、僕が、普通の中学生で。
僕はマフィアなんかに関わりを持たなくて、犬や千種はただの仲の良いお友達。
君は僕と繋がる事も僕を知ることも無く、ただの女の子。
そして本当に偶然、運命とかじゃなく、僕等が出会うことになったとしても。
「君は、僕を愛してくれますか?」
「骸様……?」
カラカラ、カラン。
手に握る風車が揺れる。それは先に眼鏡の彼から貰った。
なぜくれるの、と問えば何も答えず彼は去っていく。
廃屋の中でもしっかりと風は凪いで、手元のそれを揺らす。
カラン
「骸様は、その普通の中学生に成りたいのですか?」
「クフ、例えばの話ですよ」
やや冷たい風が身体の間をすり抜ける。少しだけ身震いをした。
精神上でのみ話す相手に実体は無い。
現実世界でお互いに顔を見合った事は無い。
愛し合っているというのに、互いに触れた事すらも、無い。
「私は、普通の中学生、というのがどんなものなのか、わかりません」
「そうですか?」
「はい、だって、私は普通の女の子じゃないんだもの」
「僕からしたら、君は十二分に普通ですけどね」
カラカラ ン
ふぅ、と息を風車に吹き掛ければくるくると回り出す。
これがこの世に生きる誰かの運命の歯車なら、私はその誰かの運命を相当捩曲げただろう。
「私はきっと、あなただから愛したんだと思います」
「僕を選んだと?」
「いえ、」
「あなたに選ばれたの、」
途端、強い風が通った。
今までにないほどに風車は回転する。
「あっ」
「僕が、君を選んだ」
「……違ったかしら…?」
西日が廃屋の隙間から射してくる。
朱い光が線に成って漏れたその空間に、塵が反射して更に光を生み出した。
カラン、カラ
「クフフ、大体合ってます」
「なら良かった、です」
私が普通の女の子だったとしても私はあなたを愛する自信があります。
でももしあなたが普通の恋を望んでいるとしても、わたしに出来ることは何も無いんです。
「せめて、僕が身体を持っていれば、」
カラン、カラカラ
風車が刻む、リズムはどこか淋しそうだった。
世界が刻むリズムで
(ほんとうは、すごくつらいんです)
(それをがまんして、ささえてくれる世界が、あなた)
END
せめて僕に身体があれば、
君を抱きしめたり、手を繋いだり、キスしたり出来るんです。
僕を嫌になったら、いつでも僕を棄てなさい、クローム。
それが、僕の望みです
pupilla様出品