文章

□中毒
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抱擁されている、のだろうか。

背後から抱き抱えるような体制で、この魔人は耳元へ顔を埋めている。吐息が耳へかかり異様な熱が頬に集中した。
午後の空気が窓から入って来て、肺を通って口から抜ける。酸素だけを取り込んで。それでも頬の熱は収まらずに心臓と連動して染まり続けた。

私はこいつにとっての何で、何の為の抱擁?

きゅう、と服が衣擦れを鳴らして、軟らかい肌に指先が少し食い込んで、力強く、つよく抱きしめられ、。何も言わない。何も、言えない。


「……ヤコ」

耳元でまた熱を感じて、低い音が私の名前を紡ぎ出す。
その音に答えるべきか、否か迷い、私は沈黙の応答を選んだ。

「ヤコ、」

ただ名前だけを呼び、呼ばれ、抱擁され、熱を感じる。その、行動は、そう、それはまるで、


(恋人みたいじゃん)


「ヤコ」

珍しく痛みも与えてこない。ただ、優しく、強く締め付けるだけ。
どんな顔してるかは、知らない。


「……ヤコ…」
「ネウロ…」

甘く低い音だけが空間を奏でて、その誘惑に耐え切れず声を出した。すこし掠れてしまった、つまり私はやはり何か特別な感情を、こいつに抱いている?


「やだ…よ……」
「ヤコ」
「ネウ……」
「ヤコ」

自分の名前なのに、自分の名前に聞こえない、まるで、身体を麻痺させる呪文みたいに。


「違う…」
「ヤコ」
「…ちがう……」

違うの、私は、私は。
貴方の恋人に、なれないでしょ。



「ヤコ」

でもどうしてこの男は。

(名前を呼ぶ)
(抱きしめる)
(愛しく想われる)

叶うなら、適うなら、私でもいいのなら。



「ヤコ」











END







ざくろ石さまに捧げます
脳噛 ネウ⇒ヤコ






 

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