文章

□愛情で撲殺
1ページ/1ページ






街中で遭遇して喧嘩、というのはマンネリ化してきた私達の日常だ。
意識したわけでもないのに無駄にシンクロしているらしい私と奴の思考は私が外出する度見事にかぶり、会いたくもないのに顔を合わせ、その態度に腹立ち殴り掛かるというそれ。(しかし勝負がついた試しはなく気付くと五時の鐘が鳴っていてそれはいつも中断させられる)


けれどここ二、三週間は顔すらも合わせていない。そのことに気付いたのが今からぴったり二分前。ああ、そういえばアイツ生きてるのかな、と。
心配なわけではないし、会いたいわけじゃないんだから別にどこかでくたばってくれたほうが大いに結構、そう思って(グッドバイバイ私のライバル、お前は最高の相手だった)私は傘を片手に大通りへ出る道をとことこ歩いていた。いや、だかよく考え直してみると、確か私と奴の思考はシンクロしていて、(腹立つことに)私が外出する度出会う。そうそれはいつものリアル。つまりは、


「あ、チャイナじゃねーかィ。おひさー」
「……」

タイミングが良すぎるのと言動が気持ち悪かったのとで殺意ゲージは上昇しまくった。おいこら殺されたいのかてめっ。

「……何がおひさーアルか気持ち悪い」
「おひさーチャイナーまじHB」
「なにHBて」
「久しぶりの略。俺が考えた」
「…精神科行くアルか?」

ひでぇなぁ、俺傷ついたんだけど。全く傷ついたそぶりを見せずに無表情な顔と声で答えた。
なんだ、生きてたのか。
当たり前のような、いや当たり前じゃないかもしれないけれど、そんなことを考えて、ほっとしたわけでもなく。ああ、そう。生きてたの。

こんなに淡々としていては喧嘩のしようもない。そうだ帰ろう、もう帰って寝るんだ。私は踵を返してもと来た道を歩いて行こうとした。

「おい帰るのかィ、つれねぇなァ」
「喧嘩でもしたいアルか」
「いやー別にな」
「……今日お前、」

おかしいネ。どうかしたアルか。紡ぎ出そうとして、口を開きかけて何故だか私は息を呑んだ。それがどうしてなのかとかなんて全くわからないけれど。けれど強いて言うなら、表情。


「……」
「…チャイナぁ」

いつもの無表情。そう、これは笑顔でも泣き顔でもなく、無表情。無表情なんだけど、いつものとは違う。説明のしがたい、いつもとは違う何かに、私は息を呑んだ。

「……っなんかお前イライラするネ!」

いつまでも進まない会話に時間が止まってしまったような錯覚。私はしびれをきらして奴の胸倉を掴み上げた。

その無表情に一発重いのをくらわせてやろう、そうだそうしよう。かかげた拳を振り下ろそうとして掴まれて制御されて、あ、と思ったときにはくい、と顎を人差し指で持ち上げられていた。

「……な、にす」
「…」

表情はいつもの無に戻っていて、私が叫んだ三秒後、にやりという腹立たしい擬音を頭のどこかで聞いて、その顔は笑っていて、私は掴まれた拳を振りほどいて、盛大に重いのをくらわせてやった。





愛情で撲殺





それでも触れられたたった一点へ集中する熱と紅潮する頬と高鳴る胸は、ねえ、何なの。














[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ