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□春咲くころ
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くころ


春が近づいてることを知らせる強風が吹き付けていた。暖かい陽射しに和む暇も与えず砂を巻き上げたその風は容赦なく俺達へとそそがれる。

横で佇む派手な桃色の頭は(自称地毛)この一年間で喧嘩して喧嘩して、そういえば喧嘩以外に何しただろうか。とにかく喧嘩というものを通して絆を深めた仲だった。しかしその絆に篭るものが友情ではなく殺意という恐ろしいそれであったりもするのだが。

「…風強っ」
「もう春だかんな」
「ねえ屋上嫌アル脚に砂あたる。教室帰っていい?」
「春だかんな」
「会話しようネ」

風の強い屋上にスカート履いた女と言ったら男のロマンだろ。最低。軽く力の入った右ストレートは俺の鳩尾を横に五センチほど外れて突き刺さった。若干痛い。

瞬間、風が止んで辺りに広がるのは暖かな空気と日光で、今日ついさっき終えた高校二年の修了を告げる式のことも全部俺の記憶から吸い上げた。あったかい。

その瞬間見計らって派手な頭は(ロマンティックが止まらなそうな色だよな、一度言ったことがあるが留学生の彼女には意味がわからないらしくスルーされた。これは去年、入学式のあとのこと)コンクリートに寝転んだ。俺はというとそれを見下していて、女のくせに制服汚れるとか気にしないのか。そう言った。

「春風に囲まれて着いた汚れは勲章ネ。気にしないアル」
「あれアンタってそんな電波なオンナだったのかィ」
「電波はオマエだロ。趣味悪いアイマスクしやがって」
「海藻に命懸けてる奴に言われたくない」
「オマエ酢昆布なめんなヨ。今日オマエの夢に酢昆布出て来て絞め殺すからオマエのコト」

くだらねえ。実にくだらない。薄く笑いながら嫌味を言い合うこれは挨拶のようなもの。気付けばすらすらと出てくる悪態は日本語として成り立たないようなものばかりだったけれど、その場が楽しければ気にしないお気楽主義の俺達は当然スルー。


しばらくしたらやはり風は強くなってきて、寝転ぶ戦友のスカートが軽くめくれ(残念なことに何も見えなかった)、舌打ちと同時に無意味なチャイムが校内に鳴り響くのが聞こえた。腕時計の短針はもう十二を指していた。

「もう昼じゃねーかィ」
「まじでか。どうりでお腹空いたわけネ」
「そろそろ帰るか」
「あ、待つヨロシなんか食べに行こうヨ」

しばらくの沈黙。マックでいいかィ。いいヨ。短いそれを済ませて踵を返す。来年の今はもう高校生ではいられないのだ。そんな実感が何故かふと込み上げて、一年半ほど世話になっている屋上の地面を見つめた。そしてとことことついてくるピンク頭も。


「来年もよろしくな」

返ってこないのはコンクリートからの返事で、彼女のほうからは小さくおう、とだけ聞こえた。それは桜が咲き乱れるまであとひとつきかかる頃。




















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