‐Novel(T)‐
□会いたい
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「もうそろそろ移った方が良い」
毎度聞くその言葉にただ受け流し、悲しいなどとは一切思わなかった。 わたしにとっては滑るようにあっという間の短い時間だと言うのに、その言葉をかけてくる人は毎回違った。
もう、悲しむ必要は無い。
深く交じわらなければいいのだ。
「あんなに頑張って庭の手入れをしたのに… そう思いませんか ぽち君」
わふ! とぽち君は喜ぶように尻尾をぱたぱたと忙しなく振るようにして見せた。 その温かいぽち君の体を持ち上げ膝の上に置いた。
「わかってるんですか 貴方は…」
思わず笑みが広がる。
ぽち君だけが、いつも側にいる。 それでいいじゃないか。
「よく、覚えておこう……」
この庭を、家を、人々の顔を――… わたしにしか出来ない事が、必ずあるのだから…
「さぁぽち君、荷造りをしましょう」
そう声をかけるとぽち君は走って行ってしまって、直ぐに戻ったと思って見れば自分のご飯皿をくわえて帰ってくるのでした。
【会いたい】
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