Present

□微かな香り
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【微かな香り】











「兄様… あのコレ、もらってくださいまし…」

そう言ってリヒテンが差し出してきたのは小さな四角い紙の箱。


「リヒテンこれは……?」
「は、はい… 兄様が誕生日だと聞いて、私…」


誕生日……だと?
そんな、我が輩のためにリヒテンが?

遠慮と嬉しさとの二つが葛藤を続けている時、ふと見ると頬の紅潮したリヒテンがいるではないか。


「あの、それ……」


「あ、あぁ ありがとうリヒテン。とても嬉しいのである」


全部飛んだ。嬉しさの勝利。

そして箱を少し開けてみるとどこか懐かしいものを思い出させるような香りが漂った。



「アーモンド… おお、インペリアルトルテである」



ん、インペリアルトルテ…?




「リヒテン、お前これ…」


「兄様私っ花に水をあげてきます…!」











“恥ずかしい”











そうしてくるりと背を向け走ってリヒテンは行ってしまった。





「ど、どうしたのであるリヒテン……」
















「はぁ… 兄様にどうしてきちんと言えなかったのでしょう…」



――それはつい先ほどのことである。




『……崩れてしまいました…』


兄様にと思って一生懸命作ったケーキ。

可愛く可愛く。 可愛く可愛く。 可愛く可愛く仕上げたくて飾り付けをしていたのですが… 盛り付けすぎてしまい、ケーキの形が崩れてしまったのです。


これはだめ… 出せません…


とはいえ、食べ物を粗末にはできないので作ったケーキは冷蔵庫にしまい、作り直そうとしたのです。その時、裏口の戸から2、3度ノック音がし、声がしました。


『すみません、リヒテンシュタイン。失礼かと思いますがここを開けてはもらえませんか?』


そこに居たのは小さな箱をもったオーストリアさん。



『これを彼にお渡しなさい。 ぁ、いえ… 渡してほしいのです』



それだけ告げてオーストリアさんは行ってしまいました。オーストリアさんが見えなくなったあたりから女性の声も聞こえます。

それを聞きながら箱を少しだけ覗いてみると、ふわっとした香りに包まれた… とてもとてもシンプルで、それなのに可愛らしいケーキがありました。



そうして私は先程、兄様にケーキを渡したわけですが……







「兄様、私… なんだか切ないです」




















不思議に思いながらリヒテンの分も取り分けるのに、皿を取り出そうとすると泡立て器が目にはいる。


はて… 最後に使ったのはいつだったか……



「…おかしいのである。インペリアルトルテに泡立て器は―――…」


違和感。

冷蔵庫に何故か手がのびる。




















「……やはりそうであるったか」



















「私… 最低です……」


これでは兄様に顔向けが――…




「リヒテン」


「に、兄様… なんでしょう」




すると兄様は机の上の"私が見慣れた不器用なケーキ"に手を向けて笑って言ってくださいました。



「先程のトルテより立派なケーキがあるのだ… 一緒には食べないか?」




はにかんだ兄様。


冷蔵庫の中にある紙の箱。


私の作った不格好なケーキ。





断ることなんて、できません。



「はい兄様。喜んで。」












これ以上の幸せが、兄様に訪れますように。








「ありがとうである。リヒテン。」


「はい兄様……」










我が輩      である
     幸せ
 私       です













>>HAPPY BIRTHDAY…!!
 

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