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□サイコ












 別にどこかのパーツをとって(例えば目やら鼻やら髪やら)愛おしい美しいとそんな陳腐な話ではないのだ。ただ「ロシア」という存在を愛している。愛している。

「ねえ、フランス君」

 ソファの背もたれ越しで伸ばされた手に応える。ふとした瞬間に振り返るような、少なくとも自分にとってひどく自然な。そのてのひらを引き寄せて手首にひとつ口づけを。
(狂気の沙汰とはよく言ったもので、それ以外の何物でもないことなど自身が一番よく知っている)
 きゅ、と震えるように白い指先にちからがこもった。大丈夫だよそんなに怖がらなくても逃げないよ逃げないよ逃がさないよ、告げるように微笑を浮かべてけれど俺はなにも言わない。(ああだってそんなことを言ったら君は離れていってしまうでしょう)




"サイコ"





「ロシア」
「ああ、フランス君!」

 ある意味いつも通りの笑顔を翻して、ロシアは廊下の真ん中で立ち止まった。会議場の白い廊下は鈍い足音を繰り返す。俺は少し離れた場所でひらひらと手を振った。
 調子はどうだとやわらかい声を選んで口を開けば、もちろん絶好調だよと変わらない返答。最初に出会ったときからそうだ、それしか言わないのは何故なのかと知る由もなければ考えるまでもない。

「上司が暗殺されかけたって?」
「ああ、でもあの子はそんなに簡単に殺されないよ」

 ロシアがからからと笑った。殺されるわけがない、と。俺は少しだけ眉をよせる。

「随分な信頼じゃないの」
「ふふ、そういうわけじゃないけど」

 そういうわけじゃないけど。

「っておいそこのバカ2人! 時計持ってねえのかよ早くしろ!!」
「……なーんだよイギリス、相変わらずうるさいなあ」

 怒声に振り返る。「ああ、ねえ」薄桃色のマフラーが右脇を掠めて(何故だか。心臓が跳ねた)思い出したように言った。

「昨日リンギーリンにお酒もらったんだ。いっしょに飲もうよ」
「…………、ああ」

 僅かに俯いてぐい、と。その肩を引き寄せる。引き倒すような勢いになったのはロシアの足が案外に速かったから。

「うわあ、なあに?」
「愛してる」
「、………………?」

 北国はきょとん、と目を丸くして、それからひどく嬉しそうに笑った。

「知ってるよ、ありがとう」








"サイコ"




(僕もだよ、と絶対に言わない。)



 


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