傍らの花
□標的1.転生
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重々しい溜め息をひとつ。
それを吐き出したところで何が変わるわけでもないと知っていながら、彼女は微かに目を伏せる。
彼女は真琴。
現在二十二歳の、大学四年生だ。
とは言え、単位が取れていないわけでもなく、寧ろ比較的宜しい成績での卒業が決まっていた。さらに言うなれば、この不景気の中就職先も運良く決まっているので、内定取り消しにでもならない限り何等問題はない。
未だに彼氏はいないが、友人と呼ぶに値する人間はちらほらいる、……のだろう。
他人から見れば、一見順風満帆な人生を送っていると、本人も自覚している。
しかし、表には見えない所に真琴の溜め息の原因なるモノがある。
――それこそが、家庭の事。
正確に言えば、母親の事だった。
真琴の家は、かなり前から母子家庭だ。
それは真琴の記憶に父親がない程に。
それでも母は必死に働いて、働いて働いて。真琴を養う為に朝から晩まで働き詰めだった。
まあ、そのぶん家事全般は全て真琴が熟しているのだが…。とにかくそんな日常だった。
しかしいつからだっただろうか。そんな母が変わりだしたのは。
始めは、少し服装が派手になっただけだった。
そのうちに、化粧が濃くなり、金遣いが荒くなった。
だが、その頃はもうアルバイトで稼ぎだしていたので、特に何とも思わなかった。
しかし、今さらながらに思うのだ。
あの時諌めていたなら、何かが変わっただろうかと。
どうしても、信じられなかった。
信じたくなかった。
日に日に窶れていく母を、いつの間にか減っていく預金額を、その行動の意味を。
合わなくなった、生活リズム。
しかし、それに安堵してしまう自分。
苦しさに耐え切れず、逃げたいと思う事がなかったわけではない。
それでも真琴には、支えがあった。
人に言ったら笑われてしまうような、そんな小さな支え。
けれど、憧れた。
温かな家族。
信頼できる仲間。
大切な、モノ。