07/19の日記

20:29

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「僕、本当は可愛い物が好きなんだ。だから人形だって好きだし、それに甘いものだって好きだ。そんなの流砂は知らなかったでしょ?自分と同じを押し付けるばっかりで。でも理貴は違ったんだよ。自分の好きな物を認めろって言うわけでもなく、でも今のままで居ろよとも言わないし。ただ、『欲しいものは本人が望まないと手に入らない』って言ってくれたんだ。僕、それが嬉しかった」


ダンッ!!
流砂は思い切り目の前にあったテーブルに左手を叩き付けた。
乾いた音を立てて、テーブルの上にあったコーヒーカップが床へと落ちて割れた。
膝に肘を当てた状態でソファーに座りながら組んだ両手で顔を隠しているため、その表情は見えない。


「何度も言ったよな?僕はエスパーじゃない。だから辛いことは辛いって、嫌なことは嫌って言ってくれなきゃ分からない………っ」
「それを言うのなら、僕だって何度も言おうとしたさ。その度に僕の邪魔をしたのは流砂だろ?」
「それでもっ!」
「それでも何だよ?もう時間は戻らないんだよ、流砂。僕は既に理貴を選んだ。だから、もう…………流砂とは今まで通りになんて戻れないんだよ。じゃあね、流砂」


そう言って類は流砂に背を向けて扉へと向かった。
咄嗟に手を伸ばしては見たが、その手はただ虚しく空を掴んだだけだった。



















ー捨てた人間と、
捨てられた人間。
『何よりも大切な君』
そう呟いたのは誰だったんだろう?

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20:27

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類は流砂からまるで人形を隠すかのように人形を後ろ手に持ち直すと、頬を少し膨らませた。


「“それ”なんて言い方は酷くない?どっからどう見ても可愛いテディベアの人形でしょ」
「そんなのは分かってるよ。僕が聞いてるのは、その『どっからどう見ても可愛いテディベアの人形』をどうしたのか、なの。明らかに類の趣味じゃないでしょ」
「どうしてそう思うの?」
「僕の趣味じゃないから。僕らはいつだって一緒でしょ?」


さも当たり前のように、軽く首を右に傾けながら流砂は言った。


『違うよ』


声にこそ出さなかったものの、唇の動きだけで類はそう告げた。
違わない。
その感情は何かの間違いだ。
だって僕らはいつでも一緒なんだから。


「類、ふざけないでよ。類の趣味じゃないんだから類の物じゃないんでしょ?君の事は僕が一番分かってるよ」
「それが間違ってるんだよ、流砂。僕と君は一つじゃない。別々の人間なんだ。別々の人間が、相手のことを完全に理解なんてできない。本当は分かってるんだろ?」


淡々とした口調で類はそう告げた。
流砂を見つめるその瞳は昔の深くて暗い色じゃなくて、澄んで輝いていた。
それに自分の居場所を見つけたその姿はいきいきとしていて、何故かとても幸せそうだった。
そんな類の姿が、流砂の頭の中で一人の人物と重なった。
山瀬 理貴(ヤマセ リキ)。
空手を五歳の時からやっている格闘家で、二人の仲の良い幼なじみの少年だった。
いつも三人で遊んでたよな。
そんなことを頭の片隅で考えながら、流砂は困惑した表情で類を見つめた。


「理貴…………なの?」
「そうだよ」


花を綻ばせるように類は笑って見せた。
兄弟でありながら、一度も見たことのなかった彼の満面の笑み。
それを浮かべさせることのできる彼がなんだか羨ましくて、それに悔しくて流砂は唇を噛み締めた。


「何で僕じゃないの?僕の何が不満なの?僕は僕の全てで君を必要として、愛してきたよ?なのに、なんで…?」
「これね?理貴がくれたんだ」


類は後ろ手に隠していた人形を右手で突き出すと、左手で流砂の手を掴み、無理矢理人形を掴ませた。



あー…、まだ続いちゃいますね(^_^;)
日記で文字制限が……

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20:25
短編ー
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メルマガで投稿した短編を少しばかり日記にあげます。
本当はきちんとコーナーを用意してやりたいんですが、それはもうちょっとレパートリーが増えてからにしたいと思います。
それと、リアルタイムでちょっとした暇潰しネタ帳みたいのをやりたいと思います。
………主に、私や友人を全て男にしただけなんですけどね(^_^;)
かなり私の私生活です。






『何よりも大切な君』


『二兎を追う者は一兎も得ず』
だから僕は君を選ぶ。















それは激しく雨が降り注ぐ、とある日の午後の出来事だった。


「僕は選ぶよ」


双子の兄弟の弟である類(ルイ)が兄の流砂(リュウサ)に唐突に告げた。


「いきなり何?」


学校から帰ってきて寮の自室に入るなり、開口一番に告げられたその言葉に、流砂は眉根を寄せた。
また類の悪い癖が始まったよ。
自分の脳内で考えを纏めて話す癖に相手も自分の考えている事を理解しているのを前提に話すから、明確なまでに言葉が足りない。
流砂は小さくため息をつくと、すぐ近くにあった二人掛け用のソファーに腰を下ろした。


「ちゃんと言わなくても分かってるだろ?」
「分かるわけないじゃん」


バッカじゃないの?
流砂はそういう意味を込めた視線を類に向けた。
それが通じているのか通じていないのか、静かに類は首を横に振った。


「いや、分かってるはずなんだよ。流砂は認めたくないだけでしょ?」
「だから分かんないっての。僕はエスパーじゃないんだからさ」
「…………それでもいいよ。精々現実逃避でもしてれば?」


類はポンッと右手を軽く流砂の頭の上に乗せた。
その、まるで小さい子供をあやすかのような動作に顔を歪めながら、自分と全く同等の大きさのそれを振り払う。


「兄貴は僕なの。子供扱いしないでよ」
「大して変わらないじゃんか」


類は苦笑すると、流砂が座っている二人掛け用のソファーの半分を占領しているテディベアの人形を取って、まるで壊れ物に触れるかのように優しくそれを抱き締めた。


「そういえばさ、それ、何なの?」


顎で指すようにして、流砂は人形を見た。
いつの間にからか、二人の共同スペースであるリビングのソファーの半分を占領していたテディベアの人形。
勿論そんなに大切そうにしているのだから、恐らく類の物であると予想しての事である。



次の日記に続きます。

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