黒バス 実渕玲央
日常。
「馬鹿馬鹿しいと思わないでね」
と、わたしは前置きしてから話し出す。
彼女は心得たとばかりに真直ぐな視線をこちらに向けた。
「あなた、わたしに飽きたりしない?」
「え、それはどういう意味ですか」
「そのままの意味よ」
彼女はわたしの言葉について真剣に考えているようだった。
彼女はわたしの言葉をいつでもしっかり受け止めて、考えてから返してくれる。
馬鹿正直で、誠実で、いい子だ。
そんな彼女だが、わたしの真意についてはわからなかったようだ。
もう一度「どういう意味ですか」と聞き返してきた。
「あなたがわたしを好きだというのは、わたしが他の男と少し違うからじゃない?」
「まぁ、理由のひとつかもしれないですね」
彼女が頷く。
「もの珍しいから興味がわくのと、恋愛感情をごっちゃにしてるってことはない?だとしたら、きっといつかあなたはわたしに飽きるわよ」
彼女は眉間に皺を寄せる。
真剣に想いを述べたつもりが、「馬鹿じゃないですか」という彼女の言葉にさらりと交わされてしまう。
「実渕さんて、意外と馬鹿だったんですね」
「何よそれ」
「だって、」
私が実渕さんに飽きるなんてある訳ないでしょう
良かった、と安心する。
普段何も言わないけれど、たまにこうやって彼女の気持ちを確かめる。
馬鹿馬鹿しい限りだが、彼女はいつでもそれに付き合ってくれる。
「やっぱり、わたしはあなたが好きだと思うわ」
そうですか、となかなかに素っ気ない返事が返って来たが別に気にしないわ。
おわり