「助けて!スパナー!」

勢いよくスパナの部屋に押し入ってきたのは、ボンゴレ10代目その人だった。

「またか、ボンゴレ」
「もー!本当に何なんだよあいつはー!」

急な来訪者にスパナが特に驚く様子はない。
何故なら、これはもう日常ともいえる風景だからだ。

ボンゴレ10代目沢田綱吉がミルフィオーレ、というか白蘭に捕まってから、綱吉は白蘭の目を盗んで逃げ回っているのだ。
そして最近、こんな風にスパナの元を訪れることが多くなった。

(ウチの部屋はあの人の管轄外だからなぁ)

それでも、それはただの時間稼ぎにしかならないのだけれど。
結局いつも最後には白蘭に見つかって、連れて行かれてしまう。

必死に隠そうとしているようだが隠れていない首の赤い傷跡がちらちらと見えて、捕まったあとに何をされているかは一目瞭然だった。

(でも、あの人にそんな執着心があったなんて以外だ…)

何にも執着を持たない冷酷なだけの男だと思っていたのだけれど。
綱吉が来てからの白蘭の彼への執着っぷりには驚かされていた。

「それにしても、今日も面白い格好してるな」
「それは言うな」

そして、白蘭の見事な性癖っぷりにも。
綱吉は今、着物に身を包んでいた。
勿論白蘭に無理やり着させられたのである。

「それがジャッポーネの着物か。綺麗だな。ボンゴレ、よく似合ってる」
「嬉しくない」

この前は確かセーラー服だったし、体操服の時もあった。
白蘭を白い目で見ながらも、中々見る機会のない綱吉のジャッポーネコスプレをスパナは意外と楽しんでいた。

「うん。でも本当に綺麗だ」

その中でも今日の着物は群を抜いて綺麗だと思う。
見惚れてしまう位に。
一瞬我を忘れていたことに気が付いて、スパナははっとした。

そうだ。
綱吉と会ってから、他にも驚いたことがある。


「ボンゴレ」


白蘭だけじゃない。
自分にも、その執着心があったこと。


「スパナまでそんなこと言…」

語尾に届く前に、綱吉は言葉を失っていた。
背中に軽い衝撃を覚えて、天井を仰いでいる。
スパナに押し倒されているのだと気付いた時には、もうその顔が眼前まで迫ってきていた。

「なぁ、ボンゴレはどうしてウチの所に来るんだ?」
「そ、それは…」

だけど、綱吉はそれ以上何も言うことが出来なかった。
どうしてスパナの所に来てしまうのか。
そんなこと解らないし、考えたこともなかった。

だけど、気が付けばここに来てしまう。

「ボンゴレ」

スパナの声色が変わったことに気が付いて、綱吉は息を飲んだ。

「ウチだって、男だよ」

何を考えているのか読めない瞳に、じっと見つめられる。
綱吉は言葉を忘れていた。

「このまま、どこかに二人で逃げようか」

スパナの口から飴が抜き取られて、そのまま唇が落ちてくる。
甘い香り。
綱吉は、目を閉じた。


どうしてそうしたのかも、わからなかった。

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