儚く咲いた一輪花

□abbandono
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「姫様にそこまで慕われているなんて、その人は幸せモンですねぇ」

『慕うとか、そんなんじゃありませんよ。
きっと彼も私には手を焼いてるかと』

「可愛い人ほど手を焼きたくなるものでさぁ」

『だと良いけどなぁ』



可愛いとは思われたいけど、それよりも彼を支える人物になりたい。

あぁ…抱いた感情は好意じゃないのかも。
彼を絶望で染め上げたくないだけ。

あたしが彼の胸に秘めた、不安や苦しみを少しでも和らげれる存在になろう。
私がここにいる理由は、それで充分だ。



『…ありがとうございます』

「ん?何かしましたかい?」

『あはは!何となくですよっ。
あ、そうだ忘れてた』

「どうしました?」

『あたしを姫様だなんて呼ばないでください、堅苦しいじゃないですか。
それに海璃って名前がありますし』

「ああ、こりゃ失敬!」

『じゃ、あたしはこれで。
また来ますね!』

「待ってますよ、海璃様!
次は意中の人と一緒で来てくだせぇ!」



だからそんなんじゃないのに。
私は小さく笑いを溢して店を後にした。

大通りを歩いてると、後ろから小さな衝撃。
振り返ってみると、あたしの腰の高さくらいしかない小さな男の子がいた。



「海璃姫さま見ーっけ!」

『君は確か...南吉くん?』

「うん!前はありがとう!」

『ふふ、どー致しまして!』

「こ、こら!南吉!」

「うわぁ!」


突然現れた南吉くんのお母さん。
...に、首根っこを掴まれてる南吉くん。

そうそう、これが親子だね。
トリップする前の親に見せてやりたい。



「も、申し訳ございません...!
何度も海璃様にご迷惑を...」

『大丈夫ですよ。
迷惑だなんて思ってませんから』

「し、しかし...
あっ...私、あの時の手拭いを返したくて。
あの時は本当にありがとうございました」

『あぁ、良いですよ!
それはもう差し上げます!』



手拭いかー、名前も違ってくるんだよね。

南吉くんのお母さんは、前に傷の手当で使った手拭い...ハンカチを取り出していた。
いつも持ち歩いていたのね。

現代から持ってきてたハンカチだし、別に一枚くらいなくなったって困らない。



「そんな!
このような高価な手拭い、頂けません!」

『良いんですってば、まだありますし。
南蛮の人から貰ったって言って売ったら、かなりの値段になりますよ』



なんせ未来の布だからね。
相当高価な筈だ。

驚いた表情をしてる南吉くんのお母さん。
そこに追い打ちでも掛けるかのように、あたしは喋った。



『これはもう、おばさんの物です。
煮るなり焼くなり好きにしちゃってください。
どんな形にしろ、この手拭いが役立ってくれたら、あたしも手拭いも嬉しいです!』

「そんな...ありがとうございます...!」

『あはは、お気になさらず。
それじゃー南吉くん、また今度遊ぼうね!』

「ほんと!?やったー!
僕、待ってるからね!」

『うん、それまで良い子にしてるんだよー』



そう言って、あたしは2人に手を振って別れを告げた。

南吉くん可愛いなぁ...
ここにきてショタコンが出てきちゃうよ。




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