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□IMITATION BLACK
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高松城上陸戦の為に大坂城を離れる前夜。
私は半兵衛の部屋に呼び出された。

まだ出陣の支度も整っていないのに、と心の中で少しぼやく。



『半兵衛、風月です。
入りますよ?』

「あぁ、夜遅くに呼び出してごめん」

『そんなの気にしないで。
は、半兵衛…顔色が悪いけど…』

「そうかい?いつも通りだよ。
それより、明日のことで少し変更があってね」

『出陣のこと?
…はい、何でしょうか』



私は日常と、軍議や戦場などで話し方を変えている。

日常では友達に話しかけるように、戦場では敬語に。

そうしないと締まらないし、一応上官だし失礼だからね。
私より位の低い兵士にも敬語だけど。





歪んだ日常
 許されない愛

偽りの 心





「…君は、ここに残ってくれ」

『……え?
それは、どういう意味でしょうか』

「明日の、高松城への戦から外すと言うことだ」

『…何故ですか。
私が女だから…足手まといになるからですか?』

「そうじゃない」



半兵衛はすぐに否定したが、あたしにはそれ以外の理由が見付からなかった。

豊臣軍の力になれないのだろうか。
なんであたしは男に生まれなかったんだ。

その思いが頭を駆け巡る。



『違うのなら、連れていってください』

「…僕や秀吉、それ以外の将を連れていくんだ。
大坂城がガラ空きになってしまう。
そこを狙われたら、ここは崩壊する」

『半兵衛様は、自ら育てあげた兵士達を信じていないのですか?
将には敵わないと言えど、皆他の軍より強いと誰が仰ったのです?』

「それは、僕だけど…」

『ならば大坂城は兵士達に任せておけば良いでしょう。
ガラ空きの大坂城を落とすくらいです、敵将が来る心配など無いに等しい』

「………。」



半兵衛の発言が止まって渋った顔をする。
きっとあたしの言ったことが的を得たからだろう。

半兵衛は1つ息を吐き、もう1つの理由を話し出した。





黒く塗りつぶされた
     不完全な愛

漆黒の世界





「…風月、君はさっき僕の顔色が悪いと言ったね」

『え?は…はい』

「僕、もう死期が近いみたいなんだ」

『……は?』



唐突に何を言うんだと、私は呆然としてしまった。

だって、何で、そんな。



『ふ、不吉な事を言わないでください!
そんな冗談信じるわけないでしょう!』

「ごめん…でも本当なんだ。
自分でも分かるほど、もう」

『やめてください!』

「やめない、理解しなくてもいい。
ただ君には知っておいてほしいから」

『嫌だ!聞きたくない!』



耳を塞ぎ、目を閉じて首を横に振る。

半兵衛が目の前まで来る気配がして、私の頭に手を置いた。

ビクッと跳ねる私の身体。



「…風月に僕の死に際なんて見せたくないんだ。
だから、君は大坂城に残ってほしい」

『……っ!
嫌だと言ってるでしょう!?
仮にも…なんで別れが分かってるのに…
今更私を突き放すんですか!』



涙声になっている。
きっと目にも涙が溜まってるのだろう。

嫌だ、泣きたくない。
なんで泣かなきゃならないんだ。



『それなら半兵衛の最後まで一緒にいさせてよ!!』



叫んで睨み付けると、半兵衛は悲しそうな表情になった。

お願い…そんな顔しないで。

そう思ったとき、半兵衛が抱き締めてくれた。
その腕は微かに震えている。




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