儚く咲いた一輪花

□bizzarro
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ビッザッロ
[気まぐれな、突拍子もない]




あれから3日が経った。

変わった事は…と言うか。
なんだか傷の治りが少し早いような気がする。

細胞の活性化か何か知らないが、傷は塞がりかけていた。
あたし達の世界とは少し違うのだろう。
もしくは神が言ってた能力のことか。

まぁ、薬はまだ飲んでるけど。

因みに傷を癒やす日々が続いてるため、殆ど部屋に監禁状態だ。
監禁と言っても半兵衛の部屋には行けるから、暇つぶしにお邪魔していた。

半兵衛は笑顔で仕事の邪魔しないならいい、と言ってくれた。
思ってたより優しいなー…思いながら景色を見たり半兵衛を見たり。

だってゲームん中は敵に嫌みったらしく「そこに伏せていたまえ」とか「これだから嫌なんだ」とか言うし。
ぶっちゃけ会ったら冷めると思った。

そんな半兵衛が書類か何かを書きながら口を開いた。



「海璃くん、怪我の方はどうだい?」

『…あ、大丈夫!
心配してくれてありがとう』

「そう、良かった。
なら明日秀吉に挨拶しに行こうか」

『うん……は?』

「あぁ‥ついでだから兵士達の前で発表しよう。
緊張するかもしれないけどね」

『ちょ、ちょちょちょ!』

「ん?」



半兵衛が顔を上げた。
頭の上には疑問符が浮かんでいる(気がする)。

疑問符を浮かべるのはあたしの方ではないのだろうか。
前にも違う奴に言ったが、勝手に話を進めないで頂きたい。



『か…勝手に決めていいもんなの?』

「うん、いつも僕が決めてるからね」

『こんないきなり?』

「いつもはいきなりじゃないけど」

『ほ、ほら!
きっと‥秀吉、様の都合とか…』



あっぶねぇぇ……
秀吉を呼び捨てにするとこだった…
秀吉溺愛者、半兵衛の前で言ったら間違いなく切られる…!

何とか悟られなかったみたいだが、半兵衛は書類整理の手を止めずに表情筋を緩ませた。



「あぁ、それは大丈夫。
頭の中に入ってるから」

『兵士達の…都合……』

「それも大丈夫。
まず、兵士達には既に言ってあるから」

『(最初から拒否権ナシですか…!)』



いつものニッコリスマイルが炸裂。

いや、確かに萌えるけど!
今回ばかりは引きつった笑みしか出ない。

これ以上言ったって明日の挨拶は変えそうにないから妥協した。
無理矢理すぎるよ、強引すぎるよ、無茶苦茶すぎるよ半兵衛さん。

それに、秀吉に挨拶だよ!?
あの秀吉に!!
緊張の前に威圧されて潰れるって!!
(これが本音)

しかし無情にも時は過ぎていく。
頭を抱えるような出来事があると時間が早く過ぎるような気がする、なんでだろうね。



『はぁ…』



翌日、挨拶前。
お世話をしてくれる女中さんにシンプルで上等な着物を着せられた。

色はかなり好みだった。
髪の毛もイジられ、化粧もされた。
鏡には見知らぬ女が映っていた。
誰だあんたと言いたい。

そんな事より緊張でガッチガチだ。



「そろそろ時間のようですよ。
城の前に兵が集まってきております」

『そ‥そうですか…行ってきます…』

「海璃様、頑張ってきてください」

『あ…ありがとうございます!』



女中さんの励ましに少しだけ緊張が和らぎ、最上階へ上っていった。

すると見慣れた後ろ姿と、赤と黒の鎧を着た、見慣れない大きな背中が見えてきた。



『お、はよう‥ございます…』

「おはよう、海璃くん。
秀吉、前に話した和泉 海璃だよ」

「うむ……我は豊臣 秀吉だ」

『秀吉様っ、は‥初めまして、和泉 海璃と申します!
勝手ながら3、4日前から部屋を使わさせております!!』



言っていい?

こ わ す ぎ る 。

兎に角デカい。
マジで捻り潰される、投げ飛ばされる!

顔を見ることが出来ず、バッと頭を下げて礼をした。
すると半兵衛からはクスクスと、秀吉からはクックック…と言う笑い声が聞こえてきた。

…何事?



「はっはっは!張り切っておるな!
顔を上げよ、我に対しての気遣いなどいらぬ。
普通に話してくれて構わん」

『‥は…?は、はい…っ!
ありがとうございます!』



誰だコイツは。

え、秀吉ってこんな喋りやすい人?
これ別人だよ、絶対。

もっと…威厳と威圧しかないような人だと…



「ふふ…緊張感が手に取るように分かるね…」

『ぅ…そりゃ緊張‥しますよ』

「おや、僕に対しても敬語かい?」

『…仕方ないでしょう』



こんな状況なんだから当たり前です、と言いたかったが、秀吉の前だから言えなかった。

これが精一杯の言葉なんだ、察して。




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