儚く咲いた一輪花

□keck
1ページ/3ページ


ケック [大胆に]






部屋に入ると、折り畳んで置いてある制服を見つけた。

手に取り、広げて制服を見る。
殆ど毎日のように見ていた制服が、何だか懐かしく感じた。

あれ…ポケットに何か入ってる。
ガサゴソと探って、何かを取り出した。



『んー……お、ケータイ』



良いもの発見。
開いてみたが…左上に記されるアンテナの数はなく、代わりに「圏外」と書かれていた。
メールは何件か届いてたが、今は関係のない内容だからスルー。

それより洗濯したのに動いてるとは…
流石防水付いてるだけあるな。

溜め息を付いた時、ケータイがスルリと手から滑り落ちてしまった。

…何やってんだ。

ケータイを拾うために屈む。
…と、あたしの上で風を切る音がした。



『………え?』

「…運の良い奴だな」

『え、だっ、な、何!?
敵襲?奇襲!?』



顔の確認は出来たが、本物の刀を見てゾッとした。

ケータイ落とさなかったら死んでた…?
そう思うと、腰が抜けてしまった。

一度死んだ身なんだろうけど…
殺される恐怖は半端ないんだな…
足が全く動かない。



「お前が豊臣軍に入るだと?
私は絶対に認可しない」

『……っ…』

「恐怖で震えるしかできない、ただの小娘だというのに。
…半兵衛様は何をお考えなんだ…」



そう言って切れ長の目を細くし、刀をあたしに向けた。
声が、出ない…



「情けだ、痛みは出来るだけ残さず…殺してやる」

『ひ…っ!』



その刀が振り下ろされた。
あたしは怖くて、ギュッと目を閉じた。
折角来たのに…もう終わるのか…

けれど痛みはやって来ず、あたしの近くでガキィン!と金属がぶつかる音がした。



『っ……?』

「何をしてるんですか、三成様。
室内で武器を振り回さないでください」

「……久作、殿…何故ここに」



そっと目を開くと、目の前に刃物。

動かない方がいい…
いや、動けないが。

助けてくれた人を見ると、その人も半兵衛と同じ銀色の髪だった。



「兄上に言われまして。
海璃くんを見ていてくれ、と」

「………。」

「三成様は何を?」

「見たら分かるだろう。
この女を殺そうとしていた」



三成って…あの有名な?

刀を振るった人も銀の髪…しかし半兵衛とは違いサラサラの髪の毛だった。
後ろから髪を持ってきているのか、見事な前髪で…

久作は半兵衛の弟だよね。
こっちは、やはり緩やかにウェーブがかかっている。
猛将らしいけど…優しそうなイメージだ。



「それは困りますね。
僕が兄上に怒られる」

「だが、こんな陳腐な小娘を生かしておく必要など…」

『…陳腐……?』



ボソッと呟くと、2人がこっちを向いた。
座ってるから見下ろされてんだけどね。

久作は疑問符を浮かべながら、三成は怪訝そうに見ている。



『…誰が陳腐よ。
あたしの事まだ何も分かってない奴に言われたかないね。
貴方の事なら今のでよく分かりましたよ、陳腐な性格の三成さん』

「誰が…陳腐だと…!?」

「……三成さん。
兄上や秀吉様に何も言わず殺すと、次は貴方の首が飛びますよ?」

「……くっ」



三成は舌打ちし、忌々しげにあたしを睨み付けて部屋から出て行った。

…あたしの首飛ばなくて良かった。
本当に間一髪だった。
久作さんが来てくれなかったら終わってた。



「大丈夫ですか?」

『え?あ、うん!
全然大丈夫、ありがとうございます』



笑いかけると、久作は少しだけ驚いたような顔をした。
何か変な対応しただろうか?

泣いて怖がるべきだった?
そんな反応はあたしらしくないんだけど。

そしてあたしに手を伸ばし、引っ張って立たせてくれた。



『はは、久作さんはジェントルマンだね』

「じぇんとる、まん?」

『はい!
……あー、紳士だ!紳士!』

「しんし…とは?」

『あ、れ?』



紳士って、この年代にはまだない言葉?
ジェントルマンとか英単語ならまだしも。

なるほど…なかなか面倒くさい。
まだ浸透してない言葉までは、流石のあたしも把握はしてないぞ。



『紳士っていうのは、他人に対して気遣いや心遣いができる優しくて素敵な男性の事!』

「僕が、その紳士だと?」

『うん』



久作は何故か気まずそうに顔を歪ませた。
あれぇ?褒め言葉なのに…

ま、そんな渋った顔をする意味は何となく分かるけどね。



『久作さん、ズバリあたしの見張りをしてるんでしょー?』

「えっ!?
ち、違いますよ」

『嘘付かなくても。
あの半兵衛がここまで他人を信じる訳ないもんねぇ』

「……ごめんなさい」

『謝んないでよー!
知ってた事だから大丈夫』



謝られたらこっちが困る。

半兵衛はむやみやたらと他人を信用しないし。
見張りが付くのは想定済み。

戦国時代って四面楚歌な状態だもんね。
そりゃあ命かかってるんだし、こんな処遇でも文句言えない。



「知ってたって…どういう意味ですか?」

『あーえっとねー……
未来には、テレビっていう映像や情報を…配信…うーん、分かんないよね。
…人々の生活を映し出す、機械があるんだよ。
有名な武将さん達はテレビで取り上げられたりしてるんだ。
大体の事はそれで知ったの』



ちょっと違うけど。
テレビの説明とか無理じゃない?
本を読み漁ったって言った方が無難だったか。

現代にテレビなんて、どこでも普通にある物だから尚更説明が難しい。
疑問に思ったことないし。



「てれび、ですか…未来は凄いですね。
一度見てみたいです」

『あたしも見せてあげたい!
凄いよ、みんな歴史的人物なんだもん』

「……あの…海璃さん。
未来では僕達…」



そこから俯いて無言になる久作さん。
というか、兄の半兵衛は呼び捨てなのに弟は呼び捨てじゃないって何なんだか。

どうしたんだろう。
聞きたい事があるなら聞けばいいのに。



『…久さk「どうしたんだい、久作」…あ、半兵衛』

「兄上!いえ、何でもありません!
海璃さん、僕の事は呼び捨てで構いません。
それでは…」

『え?あ、待っ…』



……行ってしまった。
聞きたい事って何だったんだろう。

あたしも呼び捨てタメ口でいいんだけどな。
さん付け慣れてないから違和感が凄い。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ