儚く咲いた一輪花

□ausdrucksvoll
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アウスドルックス フォル
[表情豊かに]






「……?…!
……!……さま…っ

海璃様!!」

『うひゃあ!?』

「おはようございます、海璃様。
もう寅の刻過ぎてますよ!」

『ふぇあ?おは、よ?
とらの、こく…まだ夜中?』



起床。
女の人がいる。
外は暗い。

あれ…何で起こされたんだっけ?



「そうですね、まだ日は昇っていません。
ですが女中は今から朝餉の準備をしなければならないのですよ」

『じょ…ちゅー……あぁ、女中…
すっかりてっきり忘れてたぁ…』

「海璃様、昨日とは凄い違いですね…」

『んー…こんなに早いのは慣れてないのー…』



女中って大変なんだね…
まだ起きただけだが。

布団を軽く片し、女中さんが着付けをしてくれた。
睡魔と戦いながらも、頑張って着物の着方を覚えていた。

大分頭も起きてきたけどね。



『あ、そうそう。
様なんて付けなくていいよ、本当に』

「駄目ですよ。
位が高いんですから」

『だってーそこらへんの娘っ子じゃん?』

「違いますよ!
海璃様は豊臣の姫なんですから!」

『いや、それでもさぁ〜…』



1週間前まで、ただの学生だったんだよ?
それが一気にお姫様まで昇格してさ。
対応できると思うかい?

だからって皆さんがあたしに対して村娘の少女扱いは出来ないだろうけど…
うーん、妥協点が難しいところ。



「さぁさぁ!のんびりしてる暇はありません!
朝餉の準備に行きますよ!」

『ふぁ〜い…』



背中を押されながら部屋を出る。

あたしって姫なんだよね?
なら背中を押すとか馴れ馴れしく見えてないのかな。

あたしはいいんだけど…
周りの女中や兵士の目はどうなるんだろ?

その辺りもきっちり皆に言い聞かせておかないとね。
こんなので殉職とかになっちゃ駄目だ。



「さぁ、着きましたわ!」

『うん…って、殆ど出来てない?』

「それは海璃様の起きる時間が遅かったからです」

『うっ…ごめんなさい』

「おや、海璃様?」

「海璃様じゃありませんか」

『え、ちょ』



皆が手を止めて周りに集まる。

朝ご飯の準備はいいの?
それより包丁持って近付かないで!
せめて置いてから来て、危ない!



「大丈夫ですよ、海璃様。
ここはお任せくださいな」

「海璃様は何もしなくていいんです」

「お姫様なんですものね!」

『ぅ…んん……がぁぁぁぁぁ!!』

「「「!?」」」



思わず怪獣のような声を出してしまった。

駄目だ、もう限界だ。
こういうのは性に合わない!



『やめやめやめーい!
海璃様とか……様とか!
ただの娘っ子に様とか付けんな!
あたしが姫なら命令します!

呼び捨てにしなさい!』



よし、言い切ったースッキリ。
きっと今のあたしは清々しい顔をしているんだろうな。

言いたいことも言えない、こんな世の中は毒らしいしね!
どんどん言いたいことを言っていこう。



「は、はい…でも…」

『でもも何もありませーん!』

「そうカッカすんなって、海璃ちゃん」

『そう!こんな感じに!
…あれ、コロ助?』

「コロ助やめぃ!」



隣にいたコロ助。
普通に可愛くない?コロ助って。

それより女中さんが戸惑っているんだが。
やっぱりコロって位が上なんだろうな。

顔が赤い人もいる。

やっぱり憧れなのかな。
まるで芸能人だ。



「女中さん達、今日も素敵だなっ」

『…それを言うために来たの?』

「あぁ、違った。
海璃ちゃんもこう言ってんだ、馴れ馴れしくしてやってくれよ。
君達が様付けにされたら嫌だろ?」

「そ、う…ですね…っ…
分かりました…!」

『敬語は‥どっちでもいいや。
そんでコロ、この為に来てくれたの?』

「おーこれはついでの用だった。
で、朝餉まだか?」

「はっ…!」

「朝…餉…っ」

『あ、そんな時間なんだ。
もう出来てるから運ぶだk』

「きゃあぁぁぁ!
申し訳ございません!」

「今お運びします!
今暫くお待ちくださいませ!」



…女中って難しいんだな。




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