儚く咲いた一輪花

□feurig
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フォイリヒ
[火のような、熱烈に]






『ただーいまー』



大坂城到着っと。

買ってきた物を台所にいる女中さんに渡した。
買ったの、大体食料だから。

ここでは食料の買い溜めなんてできない。
冷蔵庫なんてハイテクな物が無いからだ。



『他に仕事ってありますか?』

「いや、もう夕餉までないわよ。
お疲れ様」

『何もないの?自由?』

「えぇ、好きにしてらっしゃい」

『…!お疲れ様でした!
行ってきまーっす!』



女中さん達が笑顔で手を振る。
皆に手を振り返し、私は城内を走った。

最初に顔を見せるのは‥勿論半兵衛!



『きゃっほーぅ!
半兵衛!仕事終わったぜ!』

「!?
海璃、か…もっと静かに入ってきてくれ」

『ヤだ。
あのねー、あたし身体能力凄いんだよ!
今日知った!』



驚いた顔をする半兵衛。
半兵衛をやっと驚かすことができた…
墨のヤツも驚いてたけど、あれは失敗だ。



「海璃…」

『ふふん、何?凄いでしょ?
さぁ、褒めなs』

「君自身の事だというのに、今頃気が付いたのかい?」

『そっちの驚き!?』



違う…あたしは、こんな驚き方を期待してたんじゃない…
半兵衛の顔が呆れの色で染まった。



「それくらい気付いてると思っていたよ…
じゃなかったら、あそこまで綺麗な勝ち方できないだろう」

『え、嘘、マジ?』

「本当。
君が攻撃を避けるため、後ろに跳んだときに気付いたけど」



バックステップ時か。
流石半兵衛、観察力が良いね!



『…半兵衛、あたしって鈍いのかな』

「うん、かなりね」



否定してよ。



「それより、もう大分と動けるようになったみたいだね。
痛みは?」

『ない!もう殆ど全く!』

「そう…回復力も向上してるみたいだね。
普通はそんなに早く治らないし」

『良いことだ、気にすんな』



腰に手を当てて胸を張る。

本当に超人的。
なんか気持ちが悪いほどだ。

便利だから良いけど。



「じゃ、今日から戦い方を教えてあげる」

『……マジで?』

「本当だよ。
僕も今は暇だし、付き合ってあげる」

『やったあ!!
早く!早く行こう!』

「はいはい」



苦笑する半兵衛。
子供だな、って呟きが聞こえたのはスルーしておこう。

スキップするような勢いで階段を降りる。

危ないって?
身体能力高いらしいし大丈夫!

廊下を歩いてると、長康が前から歩いてきていた。

長康はあたしに気付き、ニコリと笑って声をかけてきた。



「やぁ、海璃。
今から何かするの?」

『うん、稽古つけてくれるんだって!
今から強くなるから、見ててよね!』

「あはは、楽しみにしてるよ。
…あ、そうだ。
皆が口々に噂していたけど、海璃は半兵衛様の伴侶なの?」

『伴侶…って何?』



あたしにも知らない言葉があったとは。
伴侶なんて聞いたことない。

僧侶とは違うのかな。
RPGじゃあるまいし、僧侶はいないか。



「伴侶っていうのは婚約した者の事だよ。
知らなかった?」

『こんにゃく者かー知らなかった』

「婚約者ね」



古典的なボケをかましてると、半兵衛がやっと追い付いてきた。



「…迷惑な噂が立ったものだね」

『何言ってんの、あたし達は婚約し合った仲じゃない』

「こんな奥方は絶対に嫌だな」



半兵衛の腕に絡み付くと、すかさず払われた。

可哀想な海璃ちゃん、半兵衛の事すっごい好きなのに。



「やっぱり伴侶だったんだ。
噂は本当だと清正にでも言っておこう」

『清、正?』

「長康くん、話聞いてた?
伴侶なんかじゃない」

「まだ清正には会ってない?
先に秀吉様に報告に行くと言っていたから、既に合っているものだと思ってたよ」

『会ってない!
稽古後に会いに行かなきゃな』

「僕の話聞いてないよね。
返事もしないで…長康くん、分を弁えてるかい?」

「清正に会ったら会いたそうにしていたって伝えてあげる。
それじゃあね」



横を通り過ぎて、そのまま去ってく長康。
あたしは長康の背中に手を振った。

隣で長康くん?と呼ぶ半兵衛。
その声を聞き取り、立ち止まる長康。



「僕を無視するなんて、いい度胸だね?」

「おや、半兵衛様じゃないですか。
いつから居たんです」

「…あぁ、なるほど。
この僕に喧嘩を売っていたのか。
気付かなくてごめんね」



関節剣に手をかける。
…って、ここで戦う気!?

あたしは慌てながらも、半兵衛のその手を阻止した。



『ななな何してんの!
同じ軍でしょーが!』

「そうですよ、落ち着いてください。
ちょっとした冗談です」

「何がちょっとした冗談だ」



イライラしながら剣から手を離していた。
本当に戦い兼ねない雰囲気で焦った…

長康は面白そうに笑い、あたしたちに別れを告げて歩いていった。




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