儚く咲いた一輪花
□rispetto
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リスペット
[尊敬、注意]
パパの部屋へと続く階段を上る。
外は小雨が降っていて、朝から憂鬱な気分が拭えない。
はぁ、と小さくため息を吐いた。
今日パパの部屋に行く用事は他でもない、畑を耕してた農民たちのこと。
遊びにいくんじゃないよ!
あたしだって真面目になるときがあるんだからね!
怒られたらどうしよう、と緊張するけど…
こんな現状じゃ駄目だって意見は出したいんだ。
あんな酷い有り様を無視なんてできない。
パパの部屋の前に到着し、正座して中に声をかける。
『パパ、海璃だよ。
今入っても大丈夫?』
「む?構わんぞ」
襖の向こうで聞こえる声。
パパの声で背筋がピンと伸び、ゆっくりと襖を開けた。
着流しの姿で文を書くパパがこっちを見ていた。
着流しでっけぇ…!
サイズXLくらいあるよね、絶対。
また違うことを考えながら、あたしはパパの部屋の中に入って襖を閉めた。
「どうかしたのか?」
『えと、数日前に城下町に行ったんだ』
「…うむ、どんな様子だ」
『活気に満ち溢れてて、あたしを見付けると声をかけたり追い掛けられたりした。
楽しかったけど、敬われたのは吃驚した』
「フッ…海璃は姫だから仕方ない」
『姫でも何でも、あまり敬ってほしくないんだけどね…
敬われるのは慣れてないんだ』
部活の後輩には慕われていたし礼儀も凄く正しかったが、皆が先輩や後輩なんて関係なく、和気藹々と喋っていた。
そんな感じで町の人たちと接したいんだけど、まだ先になるかもしれないと思って苦笑した。
『あとね、簪が綺麗だった』
「ほう?」
『銀色の簪に、紫色の菖蒲の飾りがついててね。
揺れる度にシャラシャラって綺麗な音がするの』
目を閉じ、あの簪を思い出す。
あれは絶対に買う、それか買ってもらう。
上質な簪だからなぁ…
あ、まずあたしお金持ってない。
買ってもらうしかないな!
『雰囲気が上品そうで、凛としてるんだ!
あたし似合わないかもだけどね』
「海璃…その簪はもしや、」
『うん?
え、もしかして気付いた…?』
「フ、ははは!
やはりそう言うことか」
は、早くもバレた…
何でバレたんだ!
あたし何も言ってないのに!
未だ笑うパパに居心地の悪さを感じ、顔を赤らめて視線をさ迷わせた。
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