儚く咲いた一輪花

□Percussive
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パーカシヴ
[衝撃的で歯切れの良い音]






「海璃様、海璃様」



午前…10時過ぎ頃だろうか。
やることもなくなったあたしは部屋で暗号解読、もとい半兵衛の達筆な字を必死に読んでいたところだった。

いきなり部屋の外から御呼びがかかった。

襖を開けると、女中さんが正座していた。



『どったの?
着物が汚れちゃうから立って良いよ』

「そう言う訳には参りませぬ。
私に着いて来てくださいまし」

『んー…話し方どうにかならない?』

「どうにもなりませぬ。
女中時の海璃様ではありませんので」

『むぅ…お堅いなぁ…』



そう言いながら、先にしずしずと歩いていく女中さんの後を追う。

歩き方が綺麗…
あたしも見習わなきゃなぁ。

姫の立場なのに、しずしず歩かなきゃ恰好がつかない。

とある部屋に通される。
そこは姿見と化粧台、ハンガーに掛かった上質な着物があった。

これは…もしや…



「さぁ、海璃様!
御召し物を取り替えさせて頂きますわ!」

『Σやっぱりこのパターンか!
いい、いい!遠慮します!』

「何故です、お手伝いさせてくださいな」

『いや着替えようとも思わないし!』

「でも半兵衛様が仰っていらしたので…」

『半兵衛が…?
…なら着替えて文句言ってやる』



兎にも角にも、あたしを着替えさせることができると思った女中さん達は喜んでいた。

パパ達に怒られるのが怖いからだろうか…
寧ろ怒るのは半兵衛っぽいけど。

それから女中さん達の動きは早かった。

悪代官よろしく、あたしの帯を引っ張りクルクル回されながら取ったり。

あ〜れ〜なんて驚きすぎて言う暇もなかった。
まさかリアルにするとは、しかもあたしがされるとは。

着ていた着物を剥ぎ取られ、綺麗な着物を何枚も着せられて。
今まで着ていたものも上質だったが、着せられたものは特上物かと言うような肌触りだった。

柄なんて…何種類の色の糸を使ってるのか分からないほどのグラデーション。
複雑に彩られた模様は、目が眩むほどに美しかった。

ただ何枚も着せられてるため、重くて動きにくい…



『ねぇ…聞いていいかな?』

「はい、何なりと」

『なんであたし…着替えさせられてんの?』

「それは勿論、海璃様を美しくする為…」

『えっと…その美しくさせた理由は?』

「あら、海璃様。
もしやお忘れになられたのですか?」

『え?』

「今日はお茶会を開くのでしょう?」



お茶会。

…そうだ、そうだった。
半兵衛が言ってたよ、そういえば。

もうそんなに日が経ってたのか。

でも着飾ることはないと思うんだけどな…
そうはいかないってことは分かるけど、自分の素を出した方が良いと言うか…



『……終わった?』

「まだですわ、ジッとしていてください」

『………。』



女中さん方、貴女に一言だけ言っていいですか。

とっても怖いです。
目が…目が怖いです。




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