儚く咲いた一輪花

□催涙雨
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しとしとと地上に降り注ぐ雨。
そんな空の様子を、城の外で悲しそうに見上げる一人の少女がいた。



「海璃、そんなところで何をしているんだい?
君は一応豊臣の姫なんだ、考えて行動しろといつも言っているだろう?」

『はんべぇ……』

「情けない声を出さないでくれ。
君が風邪でも引いたら、兵士の士気が下がるんだ」

『……。』



海璃はまた悲しそうに空を見上げた。

いつもの海璃じゃない。

この雨が原因、か?
しかし…何故…



『半兵衛…今日は何月何日でしょーか?』

「今日?7月7日だろう?」

『せいかーい。
じゃあ、その7月7日は何の日でしょう?』

「今日は…七夕…?」

『当ったりー』



僕をチラリとも見ようとせず、空を見上げたまま悲しげに呟いた。

七夕の日に雨だと、何かいけないことがあるのだろうか…

僕の反応に疑問を持ったのか、海璃は少し驚いたように僕を見た。



『…半兵衛、もしかして知らないの?』

「何が?」

『七夕に降るこの雨は、催涙雨って言うんだよ』

「催涙雨…?」

『うん、織姫と彦星が泣いてるの。
天の川が氾濫しちゃって、相手に会えないから』



あぁ、だから悲しそうだったのか。
漸く合点がいった。

感情移入しやすい海璃のことだ、二人の想いに移入したのだろう。



『1年に1回しか会えないのに、なんで神様は意地悪するのかな』

「…さぁね、それが二人の運命というやつじゃないかい?」

『そんなの…悲しいよ。
愛する人に会えないまま、また1年待たないといけないなんて』



また空を見上げた。

催涙雨が僕達の上に降り注ぐ。
海璃の頬には幾本もの水の筋。
その中に海璃の涙も混ざっているのだろう。

だって、声が震えていたから。



「……泣き虫だね。
城の中に入るよ、本当に風邪を引きかねない」

『あたしは泣いてないよ。
空の二人が泣いてるの』

「はいはい、分かったから」



海璃の手を引いて城の中へ連れ込む。
顔に張り付く髪が鬱陶しい。

近くにいた兵士に手拭いを貰い、海璃の頭を少し乱暴に拭いた。



『半兵衛…拭いてくれんだったら、もっと優しくしてよ』

「海璃如きに優しくしようなんて思わないよ。
拭いてくれてるだけで有り難いと思ってほしいな」

『…ありがとう』



未だ調子が戻らない海璃に、僕まで調子が狂ってしまう。
素直な海璃は違和感しか残らない。

どうしたものかと考えていると、海璃が閃いたように顔を上げた。



『てるてる坊主つくろっ!』

「…次は一体何なんだい?」

『知らない?
絹と綿と糸で作る簡単な人形なんだけど、雨を止ませる効果があるんだよ!』

「人形にそんな力があるわけないだろう」

『あーるーのー!
ほら、半兵衛も作るよ!
織姫と彦星のために!』



あぁ…また首を突っ込んでしまった…
放っておけばいいと毎回思ってるのに、どうして僕は同じことしか繰り返さないんだ。

海璃の菌でも移ったのかな…

自分の髪を拭きながら、手を引っ張られて空き家に連れていかれた。




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