儚く咲いた一輪花

□標的を殲滅せよ!
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予感がした。
きっと、いや絶対、何かが起こる。

今まで終わらせた仕事が事故で水の泡となる前に、持っていた筆を机に置いた。

もうすぐ……参、弍、壱…



ぎゃあ゙あぁあぁぁあ!!!

「……っ…!」



左耳から右耳まで劈く叫び声。
ウヮンウヮンと余韻の様なものが耳と頭の中で回っている。

次に目眩が僕を襲い、墨が置いてある机から遠ざかった。

そして勢い良く開かれる襖。



『半兵衛えええええ!!』

「………。」



思わず頭を押さえた。
目眩のせいなのか、彼女のせいなのか。

間違いなく後方だ。

バタバタと埃を巻き上げて入ってくる海璃に殺意を覚えた。



『半兵衛!半兵衛半兵衛半兵衛半兵衛!』

「煩いな、死ねば良いのに」

『Σそんなこと言う!?
一大事なの!お願い助けて!』

「断る。
他を見付けたまえ」

『何でそんなこと言うの!?』

「官兵衛がいるじゃないか」

『黒ちゃんは動きが遅いから駄目!』



官兵衛にも殺意を覚えた。

見掛けたら葬ってあげよう。
僕に葬られるんだ、これほど有り難いことはないだろう。

海璃にこっち!と言われ、強制的に左腕を引っ張られる。
頼むから放してくれないだろうか。



「海璃、痛い。
何があったのか説明してくれないか?」

『百聞は一見に如かず!』

「一聞で理解してあげられる頭脳があるんだけれど」

『嫌味か!
ほれ着いたぞ!』



やっと左腕を放してくれた。
左手を振りながら中を見てみると、そこは何の変哲もない1つの食物庫だった。

踵を返し、自室へ急ぐ。



はんべぇぇぇぇ!!
やだやだ1人にしないでぇ!』

「煩いな!何もないじゃないか!
どこが百聞は一見に如かずなんだ!」

『分かるくせに!』

「分かるか!」

『ゴキちゃんだよ!』

「……はぁ?」



殴りたくなる気持ちを抑え、もう一度部屋を見回してみる。
しかし、何も変わりはない。

もう殴ってしまって良いだろうか。

なんて思っていると、隙間から茶色い虫が飛び出してきた。



『っっっぎゃああああああああああ!!』

「っ…う、煩い…」

『うわぁぁぁん!マジで気持ち悪いー!
半兵衛頼む何とかしてぇ!』

「…そこまで油虫が嫌いなのかい?」

『好きな人なんていないってのー!』

「好きかどうかは聞いていないだろう」



油虫の出現により、ただの馬鹿に成り下がった海璃は見るに堪えない。
さっさと退治して執務に戻ろう。

しかし…ただの執務に関節剣を持ち合わせてなど、いるはずもない。

誰でも考え付くと思うが、食物庫には武器がない。
大根などはあるが、食材で虫を殺すなんて馬鹿な真似はできない。

…虫を殺した食材で海璃と官兵衛に何かを作るのも良いが。

目の前でカサカサと動く度に悲鳴を上げる海璃を叩き、油虫に向かって歩き始める。

その油虫に向かって足を振り上げ――



『いやぁぁぁぁぁ!駄目ぇぇぇぇ!』

「Σぐふっ!?」



海璃に思いっきり体当たりされた。片足では支えきれる筈もなく、ゴンッ!と勢い良く床に頭を打ちつけた。

体当たりされた腹と、床にぶつけた頭が激しく痛い…

ここに剣があれば一思いに突き刺してやるんだけどな…




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