儚く咲いた一輪花
□marcato
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マルカート
[ひとつひとつの音をはっきりさせる]
漸くこの時代の字が読めるようになってきた頃。
1つ、また1つと仕事が増えだした。
とは言っても、未だ半兵衛が目を通したものにサインを書くだけなんだけど。
それと同時に、ここの武将さん達のような流れるような字で書いたほうが良いのかと思い始めてきた。
練習…した方がいいのかも。
「海璃さん、ちょっと良いですか?」
『ん?はいはーい』
襖の方を見ると、久作がそっと開けていた。
少し顔を出している久作と目が合うと、彼は優しく微笑んだ。
兄弟のくせに半兵衛とは大違いで良い人だな、全く!
「三成様に海璃を呼んできてくれと言われまして…」
『へ?三成?なんで?』
「さぁ…僕には分かりませんが…
海璃さん何かしたんですか?」
『し、してない!…ハズ』
「えっと…早く行かないと怒られますよ」
『えっ…行きたくない』
2人して苦笑を浮かべた。
いや、あたしは笑ってなかったかもしれない。
ただ嫌だという思いが顔に出ていただろう。
だって、怒られるかもしれないし、怒られに行きたくないし。
「行ってくださいよ…僕が怒られる…」
『怒られてきてよ…』
「何でですか、嫌ですよ。
三成様が怒ったら怖いじゃないですか」
『怖いのはよく知ってるけど…
だから怒られに行けって言うの?』
「お、怒られると決まったわけじゃありませんし」
おどおどしながらも擦り付け合ったが、あたしが呼ばれたんだから行かなきゃならないと言われた。
確かに…それは言い返せない。
言い返すと、それはワガママか言い訳だ。
…別にそれで逃げても良いんだけど。
だって怖い。
『ちょっと、久作ー!
ちゃんとついてきてよ!?』
「ついていきますよ。
私の言ったことも守れないのかって怒られたら嫌ですし…」
『怒られたこと、あるの?』
「……ありませんけど」
『じゃあ三成がどんだけ怖いか分からないじゃん!』
「他人が怒られてるとこ見てますから!」
『見るだけと体験することは違うんだよ!?
あたしは一度、三成に怒られたら良いと思うな!』
言い合っている内に、三成の部屋の前に着いた。
無言で見据える襖。
魔界へ繋がる扉に見えて仕方ない。
うぅ…泣きたい…
また抜刀されたりしないだろうか。
斬首されそうになっても逃げ切れるだろうか…
次も誰かが助けてくれるって限らないし。こうなったんだから、久作がもっかい助けてよ…?
1つ深呼吸をして、気を落ち着かせた。
「三成様、海璃様を連れて参りました」
「あぁ…忙しいところを悪い」
「いえ、三成様ほど忙しくありませんよ」
えええええええちょっと待って。
あの、あの三成が謝った?
初対面で刀振り回してきた三成が?
茶会で殺気を飛ばしていた三成が?
………。
もしかして、久作が半兵衛の弟だから?
そりゃ怒られることないよ!
そんでもって怒られるのあたしだけじゃん!
何それ卑怯ー!
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