儚く咲いた一輪花
□mouvante
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ムーヴマンテ
[動く.動かす]
準備の出来たあたしは、早速部屋を飛び出した。
片手には絵から取り出した《木刀》、服は…甚平を可愛くした感じかな!
ズボンって本当に動きやすい…
さっきの縁側に行くと、元春さんが待っていた。
元春さんも着流しじゃなく、動きやすそうな格好になっていた。
「場所、分からないでしょう?
案内しますよ」
『本当?助かるー!』
トイレまでで迷ったんだ、今回も迷いそうだし元春さんの気遣いは有難かった。
…暗かったからだもんね!
方向音痴じゃないハズだよ!
あたし誰に言い訳してんの。
元春さんの後を着いて行き、鍛錬場みたいなところに到着した。
豊臣と比べちゃ駄目だけど…
狭いせいなのか、人が密集していた。
しかも既に素振りをしている人が多数。
『かなり多いね…
飛び入り参加でも大丈夫だった?』
「えぇ、その分に関しては大丈夫です。
ただ…着いて来れるか…」
『む、あたし強いよ?』
半兵衛に手解きされてるんだからね。
それより上はない気もするし…
整列したとき、指導してくれる人があたしを訝しげに見ていた。
いや、あたしの周りの人もだけど。
元春さんはあたしの1つ後ろで一緒にいて鍛錬してくれるようだ。
「さて、もう身体は暖まっているだろう。
早速打ち合いを始める」
「「はっ!!」」
あれ?あたし来たばかりなんだけど。
毛利軍はそういう仕組みなのかな。
ぽけーっと考えながら隣の人と向かい合わせになって礼をした。
「…嬢ちゃんが相手か。
遊びに来たのなら帰ってくれんか」
『遊びじゃないですよー。
全力でかからせていただきます!』
木刀を構えると、相手は息を吐いてあたしに突っ込んできた。
相手は木刀を突き出して肩に突きを入れようとするが…全然遅かった。
やはり相手が違いすぎる。
半兵衛の強さを改めて実感した。
簡単に避け、素早くお腹に木刀を……寸前で止めた。
周りの人達は一瞬だけ動きを止めて、あたし達を見ていた。
「……!!?」
『…ありがとうございました。
次の方、お願いしまーす』
「ま、待て!
…油断した…もう一度頼む」
『油断?
誰が相手でも油断しちゃダメでしょー。
戦場だったら死んじゃってたよ、今の』
「くっ……!」
「ならば次は俺が相手だ!」
後ろからの声。
走ってくる1人の兵士さん。
虚を突いたって感じだ。
それもまた、ひとつの手だよね。
上段から縦に振り下ろされる木刀。
それをあたしの木刀で弾き、柄で相手の胸をトンッと叩いた。
勢い付いていたため、それでも咳が出るほどの衝撃だったようだ。
こんなものなのか。
辺りがシン…と静まった。
『次からは…素手で行こうか。
どこからでもどうぞ?』
カラン、と木刀を捨てる。
武器も持たない、しかも女相手ということで躊躇っていた兵士が多数だったが…
1人、また1人、突っ込んでくる者が現れる。
攻撃を受け流しては殴り、受け流しては投げ…を繰り返す。
やっぱり体術の方が得意だ。
剣も諦めたくないけど。
いつの間にかギャラリーのように人が集まってきて、あたしを囲むように円となっていた。
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