夢幻綺譚
□2 見えるモノと見えないモノ
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「……き……水城っ! おい、どうしたんだよ!? 返事くらいしろよ!」
香月が私の肩を揺さぶりながらそう言っている。怒っている様な、心配している様な、そんな中途半端な表情をして。
……私はそれをぼんやりと認識する。
「……ん……、あぁ、香月か……」
いつの間にか、真っ黒い闇と癇に障る笑い声は消えていた。ようやく "こちら側" に戻ってこられたらしい。
まぁ、まだ全部の感覚が戻ってきている訳ではないみたいだが。
妙に現実感が薄く、奇妙な感じがする。
「『あぁ』じゃなくて、どうしたんだよ? 急に黙り込んだと思ったらいくら呼んでも返事をしないし、丸でどっかに意識だけ飛んでってたみたいだったぞ、おまえ。一体何だったんだよ、さっきのは?」
……鋭い。
香月の感じた通り、さっきの私は正に『意識だけ飛んでってた』状態だったのだろう。
けれど私はそれを香月に言う事はしない。上手く説明が出来ないからだ。
だから、それについては適当に濁した。
「……ちょっとね……。気分が悪くなったんだよ。だから……ね」
別に嘘は言っていない。あの時気分が悪くなったのは事実だし、今も少し頭が痛かったりする。
「水城……すごい真っ青な顔してるぞ。ちょっと気分が悪くなったなんてレベルじゃないだろ、おまえ……」
私はそんなにひどい顔色をしているのか?
それを確かめる物は周りには無いが、香月のものすごく心配しているその様子からして、本当の事なのだろう。私自身はそんなひどい状態ではない様に感じているのだが……。
私が何も言わずにいると、香月は返事も出来ないくらいに体調が悪いのかと勘違いしたらしく、
「そんなに気分が悪いんなら、保健室行けよ。ついてってやるから」
と、私を保健室へ連れて行こうとする。
……別にそんなに気分は悪くないのだが、たぶん授業に出ても身は入らない。
それならゆっくりできる保健室のほうが良いだろうと判断し、おとなしく香月について行く事にした。
……けれど、思っているより体の調子は悪い様で、思う様に動かなかった。意識はしっかりしているのに体がふらつく。まだ完全に意識が戻っている訳ではないのだろうか。
まぁ、おそらくはそうなのだろう。
そして私は香月を支えにして、なんとか保健室まで行く事が出来た。