夢幻綺譚
□2 見えるモノと見えないモノ
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……ただ、沈黙が流れる。
私が香月の質問に答えずに居たら、彼は返事を待っているのか、何も言わなくなってしまったのだ。
何だか気まずい雰囲気があたりに漂っている。
「……そんなに迷う事なのか?」
沈黙を先に破ったのは、やはり香月の方だった。
彼は黙っているのが苦手なタイプなので、さすがに限界が来たのだろう。私とは逆である。
全く、ずっと黙っててくれていた方が良かったのだけどね……。
「香月、何で私が知ってるかもしれないと思う訳? 私、『知らない』って言ったと思うんだけど」
「俺もそう思うな。……けど、それが本当の事だとは限らないだろ? それに、おまえの様子はあの話を聞いてからずっと変だ。何か隠してる、そんな態度だよ。誰だって水城が何か知っていると考えるだろうな」
香月の質問にささやかな否定の答えを返してみたが、この通り。納得できないらしく、そんな風に言い返してきた。
彼の言う事は正しいだろうな、と私は思う。『何か隠してる』様に見えるだろうし、私の言っている事が『本当の事とは限らない』可能性だってある訳だ。どうせ、人間なんて嘘を吐く生き物なのだから……。
「確かに香月の言ってる事は解るよ。誰だって、私が何か知っていると推測するだろうね。いかにも何か隠してそうな怪しい態度をとっているから……。
──けれど、これがすべて私の演技だったらどうする? 他人がそう推測する事を見越して、"いかにも" って態度を演じているのだとしたら? それなら、私は何も知らなくてもおかしくは無いね。
……香月はどう思う?」
私はただ、淡々とそう言った。
香月は少し頭の中が混乱してしまった様だ。
「……おまえ、この事についてうやむやにしてしまいたいだけじゃないのか……?」
しばらくしてからそういう答えを出した香月に、私はにっこりと微笑んで見せた。