夢幻綺譚
□2 見えるモノと見えないモノ
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2 見えるモノと見えないモノ
「おい水城、どこまで行くんだよ? つーか何なんだよ、何しに行くんだよ?」
早歩きの私に香月も早足でついて来る。さっきから同じ様な事ばかり聞いてくるので、いい加減にうんざりした私は、簡潔に答える。
「北校舎の渡り廊下に行くんだよ」
「! 星輝さんの言ってたとこか」
「そうだよ。まぁ、行ったとしてもその女の子に会えるとは限らないけどね」
むしろ行っても会えない可能性の方が高い。何しろ、今まであそこでそんなモノを見た事は一度も無いのだから。
「……でも今行く必要は無いだろ? 5限始まるぞ」
────あるよ、私しか知らない理由が。
けれどそれをいちいち教えてやる程、私は親切な人では無い。と言うより、これを香月に言って理解されるかどうか、それが解らないから言いたく無いだけだ。
まぁ、大抵、他人に完璧に理解されるなんて言う事は無いのだから、今更の様な気もするが……。
とか何とか考えているうちに、問題の場所についた。
「星輝さんは、ここでその女の子を見たんだよな?」
「それは間違いないだろうね」
香月はとりあえず外を見回す。けれど何も見つけられなかった様だ。
「……そう簡単に見えるわけ無いよな……。水城、ここに来た意味無かったな」
「そう? そんな事は無いよ。……むしろ来て正解だったと思うけどね」
私がそう言うと、香月は何だか解らないといった様子でこっちを見た。
……やっぱり香月には見えていない様だ。
「……おまえ、さっきから何か変だぞ」
変、ね………。確かに私もそう思う。
普段の私はこんなに行動的じゃないし、普段居ないはずのあれが居るのもおかしい。何だか今日は少し歯車が狂ってしまっているみたいだ。
その元凶は、おそらくあれ──つまり"市松人形みたいな女の子"なのだろう……。