夢幻綺譚
□3 どうでもいいこととどうでもよくないこと
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3 どうでもいいこととどうでもよくないこと
「小夜さん、今までどこに行ってたんですか?」
5限が終わり、教室へ戻った私に麻乃がそう声を掛けてきた。彼女は眉をしかめて私の事を見るが、童顔な所為か、むしろ可愛らしく見えた。
「もしかしてサボり? 小夜って意外とマジメじゃなかったのね! 頭の良い人は先生にあんま怒られないし、得ねー」
麻乃の後ろから樋口さんが嬉々として言う。私は別に真面目ぶってた訳でも、頭が良い訳でもないのだけれど、と思う。
思うが、わざわざ言ったりせずにおいた。
「サボりかもね。ちょっと保健室に行ってたんだよ、気分が悪くなったから……」
私は嘘は言っていない。けれど二人は納得出来ていない様だった。
まぁ、それも当然だろうとは思うけどね。
麻乃は何だか釈然としていない様子だし、樋口さんは、それは本当なのか、と言う様に私を見ている。
「……樋口さん、ちょっと頼みたい事があるんだけど」
私はその事をうやむやにするべく、樋口さんに声を掛ける。
「頼みたい事? 小夜が?」樋口さんは、心底驚いた様だった。
「珍しい事もあるもんね! 小夜ってそんなタイプじゃないって思ってたけど、今日でイメージ変わっちゃったわ」
……樋口さんの中での私のイメージってどんなの何だろう? 少し気になった。
とりあえず、話をそらすのには成功したらしい。樋口さんは何を頼まれるのかすごい期待しているみたいだし、麻乃はそれを楽しそうに見ている。
……私としては、樋口さんは期待しすぎ、麻乃は何が楽しいんだろう、と不思議だったのだが。
まぁとにかく、二人とも頭の切り替えが早いと言うか単純と言うかで、話をはぐらかしやすくて、私としてはとても助かる思いだった。
「で、頼みたい事って何?」樋口さんが訊く。
「この学校の生徒で、ここ20年の行方不明者について」
私がそう言うと、
「調べれば良いのね?」彼女は私にウインクをした。
「オッケー! それっくらいなら明日リストにして持って来てあげられるわ!」