夢幻綺譚

□4 意味のあることと意味のないこと
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4 意味のあることと意味のないこと



「小夜! 昨日頼まれたこと、ちゃんと調べてきたわよ!!」
 私が教室に入ると、樋口さんが片手に紙をヒラヒラさせてそう声をかけてきた。
「あぁ、ありがとう」
 私はその紙を受け取り、ざっと目を走らせる。人名の横に日付と何やらメモ書きが書かれていた。
「この日付は行方不明になった日?」
「そうよ。いなくなった日とそれを通報した日、戻ってきた人はその日付もあるからね」
 樋口さんは得意気に言う。
 確かにそこまで調べられるなんてすごい。香月の例の情報網もすごいが、樋口さんの情報収集能力もそれに劣らない。
 ……まぁ、『すごい』を通り越して『異常』だと言えるかもしれないが。
「これ、昨日のうちに全部調べたんですか?」麻乃が紙をのぞきこんで、驚いた表情で言う。
「結構な量ですけど……」
「バカにしてもらっちゃ困るわね。これくらいのことなんて朝メシ前よ!」
「へぇ……すごいですね!」
 麻乃は賞賛の眼差しで樋口さんを見る。
「ふふっ。どうもありがと」
 かなりうれしそうに樋口さんは言った。
 私は、紙にある日付とその横のメモを順に見ていく。メモには行方不明になったときの状況などが細かく書かれている。思っていたよりも詳しく書かれていたので、多少驚いた。
「……樋口さん、これ、どうやって調べたの?」私が尋ねると、
「え? これ?」樋口さんはニヤリと笑って言った。「企業秘密よ」
 ……そうか。この人はそういう人だった。私は少し呆れた。




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