夢幻綺譚

□2 見えるモノと見えないモノ
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 私がその女の子の方をじっと見ていると、横に居た香月が私の肩をたたいて言う。
「もう戻らないか? さっき予鈴鳴ったし、ここに居ても意味無いだろ」
「……香月、あれ見えない?」
女の子の方を指さして、私は言ってみる。けれどやっぱり香月には何の事だか解らなかった様だった。
 首を傾げるだけで、
「あれって何の事だ?」
としか彼は言わなかった。
 私が女の子を指をさしても、香月は何の反応もしなかったが、その代わり──と言ってはなんなのだが──あの女の子の方が反応した。私に自分の事が見えていると気付いたのだ。
 彼女は宙をすべる様にしてすっと私の方に近づいてきた。
 そして、目の前に来てこう言った。
「あなたは私の事が見えているのね? 今朝の子もあなたかしら、気配がそっくりだわ」
 ……『今朝の子』とは麻乃の事だろう。けれど気配がそっくりとはどういう事だろうか。この女の子は私が今朝の子なのだと勘違いしているみたいだが……。
 まぁ、それならそれで都合が良い。
「その通りだよ」
 と、私が香月には聞こえない様に囁くと、女の子は妖しい笑みを浮かべた。
「見えるだけじゃなく、声も聞こえている様ね。……ふふふ、上出来だわ。最高よ……」
 背筋に寒気が走る。麻乃の言っていた女の子の印象がとても正しかった事を知った。
 『怖いというか、何かがずれているというか……』 まさにそんな感じなのだ。何かがずれた感じがするのは、女の子の存在する世界が私達の存在している世界と違うからなのだろう。
 ……できれば、関わりたくない。関わるのは危険だと、そう思っているし、解ってもいる。
 ──けれどそれでは、だめなのだ。それでは意味が無い。
 ……私は思わず目を瞑る。あんなもの見たくは無いと私の考えに反して体が動く。
「ふふふふふ……」
 その妖しい笑い声が、頭の中に響いてくる。
 私は反射的に耳をふさいだ。直接頭に響く声にそんな事をしても効果が無い事は分りきっているのに……。
 と、そこで横に居るはずの香月の存在が全く感じられない事に気付いた。
 目を開けてみると、そこには、ただ黒い闇が広がるばかり。
 ────私はただ一人、そこに立っていた────




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