Story

□LOVELESS
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自分の部屋に戻ると、さっさと夜着に着替える。
早く寝てしまおう。壊れたアクマは、明日埋めればいい。 

ベッドに体を横たえると、アレイスターの泣き顔が、ちらりと脳裏をよぎった。

全く世話の焼ける男だ。
毎回毎回、我ながらよくつきあってやっているものだと思う。

彼が血に飢え闇の中を彷徨うたびに、あたしはアクマの残骸を処理しなきゃならない。
あれが人間じゃないことに、気づかれないようにする為に。

そして、何度となく繰り返される、あの儀式。

彼が泣く度に優しく声をかけて、キスをして、慰めてあげる。
いつからこんな流れが出来上がったんだっけ。

彼が言おうとする言葉も、結局言えないままなのも、いつも同じ。
本当に進歩がないんだから、と苛々させられること甚だしい。

それでも、彼が城に戻ってくれば、あたしは笑顔で出迎える。

だって、彼はあたしに殺されないだけの強さを持っている、あたしが待ち望んでいた男だから。

あたしの願いを叶える為には、彼が必要。
だから、あたしにもっと惚れこませておかなきゃ。

(それに…それに…アレイスターを慰められるのはあたしだけだもの。)

付け加えた理由に、ふと甘い疼きが込み上げる。
でもそんな感情をアレイスターに抱かされるなんて不愉快だったから、あたしはそれを振り払った。

確かめるようにもう一度繰り返す。

あたしは、あたしの為に彼を利用してるだけ。
彼はあたしが美しさを手に入れる為の踏み台。
強さという条件を満たしているから、ただそれだけのこと。

そうとも知らずに、可哀相なアレイスター。
あたしの言葉に、あんなに舞い上がって。
あたしと出会うまで、彼には愛する人も愛してくれる人もいなかったのよね。

彼はアクマを襲う度に人を殺したと泣き、村人に嫌われたと泣き、あたしを失いたくないと泣く。

はっきり言って、最初は鬱陶しく思いもした。けれど、
「彼が愛しているのはあたしだけ。彼を愛せるのはあたしだけ。」
そう考えると、あの縋るような目で見られるのも悪くはない。
むしろ、彼を虜にしていることに、ひそかな悦びすら感じてしまう。

だから、まあいいわ。明日も泣いているようだったら、慰めてあげる。愛しているって言ってあげる。

あたしのために泣いている仔犬がいるなら、これくらいのご褒美はあげてもいい。

そうしたら彼は、またあたしに恋をする。
あたしのことをもっと愛して、苦しむだろう。

その心の痛みは、きっとあたしをより美しく輝かせてくれる。

甘美な想像にうっとりと瞳を閉じて、あたしは心の中で彼におやすみと言った。


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