Story2

□This is Your day.
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クロウリーが帰ろうとすると、からからと乾いた音がして、準備室の扉が開いた。


「あ、先生いたー」


弾んだ声とともに、扉の陰からエリアーデがひょこっと顔をのぞかせる。
クロウリーが何かを言う前に、エリアーデはするりと準備室の中に入った。
制服のスカートを翻してクロウリーに駆け寄ると、そのままなんの躊躇いもなく
クロウリーに抱きつく。
クロウリーは咄嗟に反応できず、正面からまともにそれを受け止めた。
ぎゅっと体を押しつられて、腰の後ろに回された手がくすぐったい。


「先生、誕生日おめでとー」


軽い口調でエリアーデが言う。
クロウリーは一瞬遅れて、自分の状況を把握した。
エリアーデが自分に抱きつき、自分がエリアーデを抱きしめている。
それを認識した途端、たちまち顔が赤くなる。


「……!エリアーデ、ここは学校……」


クロウリーの狼狽などまったく気にせず、エリアーデはさらに頬を摺り寄せてきた。
飼い主に甘える猫のようなその仕草に、クロウリーはタイミングを失って口を閉ざす。
二人きりの生物準備室はとても静かで、自然と五感は目の前のエリアーデに集中する。
エリアーデの息遣いさえ聞こえてくるような静寂。
互いの体が触れている所から、服を通してエリアーデの輪郭が伝わってくる。
顔のすぐ下にあるエリアーデの髪からは、とてもいい匂いがする。

すべてが可愛くて、愛しくて、思わずきつく目を閉じた。
このままずっとこうしていたいなんて考えては駄目だ。
さっき自分で言った通り、ここは学校だというのに。





一瞬で起きた色々なことにクロウリーが必死に頭を巡らせていると、エリアーデがふと顔を上げた。


「先生、何して欲しい?」
「?」


唐突な質問に目線を下にやると、上目遣いのエリアーデと目があった。
形の良い大きな瞳に、きょとんとしたクロウリーの顔が映る。
ふわふわと柔らかそうなピンクの唇が、しゃべろうとしてゆっくりと動く。


「今日は先生の誕生日だから、何でも言うこと聞いてあげようと思って」
「ああ、な……え?」


誕生日のお祝いのために、会いに来てくれたのか。
それはとても嬉しい。でも、この状況は何かまずい気がする。
いつの間にかエリアーデの腕は首の後ろに回って、息がかかるほど顔が近かった。
舌を伸ばせば届きそうな距離。密着した体。甘い匂い。
血が上って、耳まで熱い。
「何でもいいよ」と囁くエリアーデの声が、これ以上ないくらいのぼせ上がった頭に、
甘く揺さぶりをかけてくる。
エリアーデは、どういうつもりでこんなことを言うのだろう。


「あ……い、いつも通りでいいであるよ」


精一杯の声で、クロウリーはようやくそれだけ言えた。
深く考える余裕はなかった。エリアーデに抱きつかれて、
こんなに顔が熱くなってしまう自分が恥ずかしい。
エリアーデの目を見れず、逃げるように視線を逸らして、言い訳のような言葉を続ける。


「誕生日だからって、特別なことは別に、私はそんな……」
「ん」


そのクロウリーの唇を、エリアーデがふさいだ。
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