空しき旋律*儚き唄

□第11箱 只のしがない異常だよ
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「ッ!?どういうことだよ!
 …………あれだけ大量の火薬玉が全部不発だと!?」

『水かけたら火薬玉といえど爆発しないでしょ?』

マッチがすられる直前に愛用の自家製トカレフ型水鉄砲をとりだして全ての火薬玉をぶち抜いた

「全部に水かけたってのか」

『そうじゃなかったらどうして全部不発になってるんだよ
 きみが管理してるんでしょ?』

その制服…たしか鬼瀬ちゃんと同じだから風紀委員だよね
鬼瀬ちゃんの手錠も軍でも使ってるような奴だったし
彼のだってきっと良い火薬玉使ってるだろうからね

「ケッケケケ 和水水泡!」

『なんだよ少年』

「お前風紀委員会に入れ」

『はい?』

何て言ったこの子
わたしの耳に間違いがなければ風紀委員会に入れって聞こえたのだけど
まさか…流石にそれはないよねー
だって、ついさっきわたしを殺す勢いで攻撃してきたんだよ?
そもそも、なんでこの子に指図されなきゃいけないのさ
センセイみたいな一種の特例的な人を除けば、この子が年上なわけないしねー
基本的にわたしは他人の命令は聞かないことにしてるんだよ
要するに年上だろうと年下だろうと関係ないんだけど

どちらにせよ彼がわたしに命令することなんかありえないから――よし、わたしの気のせいってことだね

『もう一度言って?』

「だから風紀委員会に入れ」

どうやらわたしの聞き間違いではなかった様です

『えっと、わたしに風紀委員になれと?』

「さっきからそう言ってんだろうが」

『本気で言ってるのかな?』

「誰が今この状況で冗談言うんだよ」

わたしだったら言うけど…ま、そういうお話じゃないからねー

『断ったらどうする?』

「テメーに断る権限あると思ってんのか?」

『うん』

だってわたしの方が有利じゃない
炎と水じゃあ水が有利でしょ?

『少年がなんと言おうと、わたしは風紀委員にならないんでね
 さよーならー』

一歩、教室の唯一の出口に向かって進むと何かに動きを封じられたみたいに体がピクリとも動かなくなった
よく見れば無数の細い糸が出口の辺りから張り巡らされている

『糸…か』

「ただの糸じゃねえ商品名『アリアドネ』!
 一本で五トンの重量を吊り下げられる代物だ」

アリアドネ、アリアドネ――ああ、私が服に織り込んだあれか

「オレ様名物霞網!
 異端人魚姫!もう一度聞いてやんよ
 風紀委員に入れ!」

『―――――――…』

「あ゙ぁん?風紀委員になるって?」

『…これくらい細い糸なら一本ずつ切っていけばいいよねって言ったんだよ』

さっきまで絡まっていた無数の糸が緩み私の体は自由になった
あの強度であの細さの糸でしょう?
下手に動いたら怪我しそうだったから切れてよかったよー

「ッどーなってんだよ!
 アリアドネが切れるだって!?」

『だからーさっき種明かしはしたよね?
 これで全部切ったんだってば』

もう一度少年に水鉄砲をみせてあげる
我ながら優秀な水鉄砲なんだよね
勢い調節とか水温調節とか他にも色々できるし
便利なんだよねー

「……テメー何なんだ?」

『私?私は、普通で異端な只のしがない異常(アブノーマル)だよ』

さっき水鉄砲で教室中びしょびしょにしちゃったからなー
ここじゃあゆっくり昼寝できないね
どこか別のところへ行こう
あ、軍艦塔とかどうだろう

「おい!」

『ん?なにさ少年』

「雲仙冥利」

『はい?』

「オレの名前だ!覚えておけ!」

『りょーかい
 またね雲仙くん』





◎月▲日

今日はなんだか風紀委員さんによく会いました
でもって風紀委員会に入れって言われました

生徒会といい風紀委員会といい面ど……おほん
大変そうな仕事はやりたくないです
どーやって雲仙くんからにげようか考え中です


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