空しき旋律*儚き唄
□第3箱
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『やっほー。めだかいるー?』
いつも通り暇をつぶしに生徒会室にいってみたら、何故か下着姿のめだかがいました。
『えーっとー』
「ん?水泡か」
相変わらずスタイルいいなー。何で下着姿なのかわかんないけど、それは突っ込まない方がいいよね。うん、面倒そうだし。
『あれ?善吉くんはいないんだ
めっずらしー』
「うむ、善吉は子犬探しに行っているんだ。何だ水泡。善吉に用があったのか?」
『善吉くん(いじりがいがあって)面白いからさ。めだかに会いに行くついでに、善吉くんで遊ぼうかなーっと思ってたんだよ。まあ、いないならしょうがないね』
善吉くんがいつも水をやっている花を弄ってみる。綺麗は綺麗だけど対して面白くない。
「そうだ和水」
はっと閃いたようにめだかが扇子をとじた。わたしを見つめる瞳が妙に真剣になる。あれれー何故か嫌あな予感が……。
「和水も生徒会に入らないか」
当たっちゃったよ。
『めだか…
何度も言ってるけどわたしは生徒会に入るつもりはないんだよ』
オトモダチの頼みとはいえ聞けることと聞けないことがあるんだよ。
「生徒会代理人を知っているか?」
『ん、まあ』
・・・
緊急時にのみ生徒会に置かれるとかいう役職だっけ?
「私は水泡、貴様になってもらいたいと思っている」
『丁重にお断りさせて頂くよ』
「貴様以上に相応しい奴はおるまい」
『え、人の話聞いてた?』
わたしはやらないって言ってるのにね。
「どうだ!水泡!生徒会に入らないか」
『あのさ、めだかも善吉くんもキライじゃないし、むしろ好きだけど。人数が少なくて仕事が大変だったりとかしたら手伝いはするからさーごめんね』
生徒会って面白そうだけど見るからに面倒そうだからね。……面倒なことはキライなんだよ。
「そうか……残念だな。……だが和水!私がこれ位で諦めると思うな!」
『……はは』
わたしははっきりと断ったはずなんだけど……なんかスイッチ入れちゃったか?また生徒会に誘われる、なんてことのないように追々対策を練っておこう。うん、そうしよう。
「それにしても、善吉の奴ずいぶんと子犬探しに時間がかかっているようだな。私が手伝えたらいいんだが…」
『手伝えに行けばいいじゃない
それとも手伝えに行けない理由でもあるの?』
私がそう聞けば、めだかは遠くのほうを見つめる。そして感傷的な笑みを浮かべながら答えるのだ。
「動物が苦手なんだよ」
完全無欠の生徒会長さまにも弱点ってものがあるらしい。
『めだかって動物が苦手なんだって。びっくりじゃない?――和波』
紅茶を片手にわたしたちは日課になりつつある今日あった出来事説明会(わたし命名)をしていた。うん、今日はアッサムかな。急須から赤茶色の液体が出てくる様はなんだかシュールだけど、まあ仕方ない。母様の淹れてくれるお茶はいつも美味しいから良しとしよう。
「同じく動物が苦手な水泡に言われてもね」
『わたしの場合は動物が苦手とは言わないでしょ。っていうか、水泡、その傷どうしたの?』
顔や腕に切り傷がつき体中絆創膏だらけの片割れに尋ねる。もしもイジメとかだったら許せないよ。……まあ、もしそうなら相手をボッコボコのグッチョグチョにするからいいけど。少々物騒なことを考え方つつ、わたしは片割れが答えるのをじっと待つ。片割れは少し迷った様に目を動かしてから言葉を選んで説明していった。
「……人吉と不知火ちゃんに、子犬探しに連れてかれて……えっと、その……狼、と戦ってきた」
『狼……?いや、子犬探しに行ったんでしょう?』
めだかも今日そう言ってたよね?
話によれば半年前にいなくなってしまった子犬を探して欲しいっていう投書があったとか。まさか挨拶はごきげんようの女子高生がこの学校に実在するとは思わなかったよ。
「あれは可愛い犬なんかじゃなくて山奥に住んでいる獰猛な狼だよ!」
いつになく強い口調で言う片割れ。ムキになっちゃって可愛いなあなんて。……あー、そーゆーことか。半年もあれば子犬だって成長する。そりゃあもう想像出来ないくらい成長して狼みたいになったってわけか。ふんふん把握把握。学園に住み着ちゃった可愛い子犬改め獰猛な狼ねえ。
『……面白そう』
「え?面白そう?教えて水泡、今の話のどこに面白そうな要素があった?」
『獰猛な狼のあたり』
「どこが面白そうなんだよ!」
今日も今日とて和波のツッコミは絶好調だ。
『よし。明日はわたしもその獰猛な狼の捕獲を手伝いましょう』
和波がすごい顔してるけど、気にしない。明日が楽しみだね。
『やあやあ善吉くん半袖ちゃん』
「水泡!なんでここに…って和波っ!?」
「ごめん人吉。ぼくが水泡に子犬探しの話をしたら……」
『面白そうな話を聞いたからね。もともとその子犬探しとやらの話はめだかに聞いて興味があったし』
「面白そうって…水泡も手伝ってくれるのか?」
善吉くんの目が輝く。全く…わたしの性格をわかってないよねー。わたしはあの不知火半袖のオトモダチだよ?
『まっさかー。狼と頑張って戦ってる善吉くんと和波を眺めようと思って』
だってわたし、動物苦手だもん、なんて。
「和水も不知火と同じかよ…」
『大丈夫!死にそうになったら助けるから安心して』
「あたしだって流石に目の前で死にそうになったら助けるよー。後味悪いし」
「お前らが言うと安心できねーよ!」
ふふ、善吉くんのツッコミも片割れに負けず劣らずだね。
先ほどから視界の端にちらついてる白い物体が無視できない距離まで近づいてくる。迷わずわたしたちの方に向かってくる犬の着ぐるみ、知らないふりをしたいんだけどダメかな?こんなアホみたいなことをするナイスバディなお姉さんが一人オトモダチにいた様な気がしなくもなくもないけどさ。違っててくれたらいいなって。
「当然私だ!」
違ってて欲しかったんだけどなあ……。
「お嬢様つかぬことをお聞きしますがなんですかその格好は?」
『めだか…わたしも聞きたいな』
「ん?見てわからんか?」
そんなキョトンとした顔しないよ、ほんともうさ。
「ターゲットに私を仲間だと思ってもらう作戦だ!動物と触れ合う時はこちらから歩み寄ってやることが大切だからな!」
「おおっナイス!会長ちゃん!仲間だと思ってもらえば安心ですね」
はぁ……。片割れが瞳をキラキラさせてるよ。
「…ねぇ人吉、水泡。お嬢様と和波ってさーひょっとして」
『あ、気づいちゃった?半袖ちゃん』
「あいつ一周回って基本バカだよ」
普通の中の普通でも感性ばっかりは普通じゃないんだよねー。おかしいなあ。わたしが手塩にかけて可愛がって来たっていうのに。
『にしてもさ…』
「んー?」
『あの犬可愛いね』
「どこが!」
『あのしっぽの感じとか額の怪しげな模様とか……可愛いじゃない』
ほら、さっきから潤んだ瞳でわたしを誘ってる。
「水泡っ動物が苦手なんだからさ。やめといった方が…」
和波が後ろでなんか言っていたがそんなことはどうでもいい。わたしはその可愛らしい犬に一歩また一歩と近づいていく。めだかも向こうから着ぐるみ姿で両手を広げながら近づいていた。
「さあ怖くないぞ。撫でてやろう。ぎゅっとしてやろう。一緒に遊んでやろう!」
『だからさー可愛いわんちゃん。わたしたちの胸に飛んでらっしゃい』
犬は何か恐ろしいものでもみたかのようにすごいスピードでわたしとめだかの前から逃げ出した。
「え…と人吉くん和波くん。これどーゆーコト?」
「水泡が動物を苦手なんじゃなくて」
「動物がめだかちゃんを苦手なんだよ」
そう。わたしが動物を苦手なのではなく、動物がわたしを苦手なのだ。あんな可愛い生き物に避けられるとか悲しすぎるよねー。動物園とか水族館とかに行っても生き物と触れ合えた試しがない。
『なんで生き物に嫌われるかなー』
「動物に性格とか通用しないからね」
『はぁ…』
和水水泡15歳。動物と仲良くしたい年頃です。
(嫌いじゃないの苦手なの)
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