空しき旋律*儚き唄

□第8箱 一体全体何がどうしたの
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誰もいない屋上の扉を開ければ晴れ渡る青い空に白い雲

それでこそ、三限目の授業を抜け出して来た意味があるってもの
わたしは大きく伸びをしてから屋上の床に寝そべった

ま、本来十三組生は登校する必要すら本来はないんだし、授業を少し休んだくらい問題ないでしょう

うん、本日は絶好の昼寝日和だね
気持ちの良い風が頬を撫で、わたしはいつしか眠りに落ちていった






雨粒が額一つにあたった
曇天の空の下
わたしの手から傘が二本しゅるりと抜け出す
目の前には…何があったんだっけ?

「……―さん」

少し離れたところから声がする

「…水泡さん」

目の前のモノがわたしの名前を呼ぶ

次第に雨足が強くなって来て

わたしは…―――

わたしは……――――



「「水泡さん!」」

大きな声で名前を呼ばれわたしの意識はやっと現実に戻ってきた

とりあえず今の自分の状態を確認しよう
ここは屋上、天気は晴れで空は一面綺麗な蒼
日はもうすでに高く昇っていて三限目から時間がたっていることがわかる
そして目の前には先日の部活見学でお世話になったセンパイたちの顔が二つ並んでいる――…

『…ど、どーしました?』

考えれば考えるほど訳がわからなくなってくる

「和水さんにお願いがあってきたの」

「部活に入る気がないのはわかっているんだけど書道部員として出て貰いたいのよ!」

『ちょっと待ってよ皆さん
 一体全体何がどうなってるの?』

「実は――」






『部活対抗水中運動会…?』

「新しく出来た屋内プールで水中運動会があって
 それで優勝した部が増額分の予算総取りになるんだって」

「それに我らが書道部――部員は二人だけども―も参加しようと思ってね
 だけど…」

『だけど…?』

「それには部員三人の参加が条件なのよ」

「だから和水さんお願い」

「「書道部員として水中運動会に出て!」」
・・ 
水中運動会ねー水中運動会…
水中運動会じゃなかったら面白そうだし出ても良かったけどね
なんせ水中運動会だからなー

『えと…』

キーンコーンカーンコーン
コーンキーンカーンコーン

昼休みの終了を伝える鐘がなる
わたしは結構長い間寝てしまっていたらしい

「やだ!もう、こんな時間!」

「私たちもう教室戻らないと!」

「「じゃあ今度の日曜日にね!」」

『え?ちょっと待って……って、もう行っちゃってるし』

いや、今回ばかりは行っちゃってくれて良かったかもしれない
今のわたしの状態はセンパイたちと会話をするには少し危険過ぎる
額には汗が滲み、わたしの心臓は大きく脈打っていた

『やっぱり屋上には来るべきじゃなかったかな…――』

嫌な夢を見た
とても嫌な夢を見た

『…ふぅー』

大きく息を吐き出して気持ちを落ち着かせる
大丈夫
心臓も平常通りの規則正しい動きを取り戻してるし、汗も引いてきている

『とりあえず――昼休みも終わっちゃったし、お昼ご飯にでもしましょうか』

わたしは誰に言うでもなくそう呟いて屋上を後にした



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