キオクノカケラ

□W ルッキンフォー
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 とりあえず、今までの事を整理してみよう。

 わたしはカザミヤ・マコトという人物だ。

 文明を築き上げた世界はすでに崩壊していて、人々は人工知能の出した案に従って、ファンタジー世界のような暮らしをしている。

 でも、人々の中には、崩壊前と同じ生活水準を保っている「都市」に暮らす人もいる。

 その人達は、例えば独特な文化を継承していたり、科学のスペシャリストだったり、医療従事者だったりする。

 わたしも、元は都市に暮らす人だった。

 でも、とある権力者の兄弟との間に痴情のもつれをおこして、ハヤト達によって助けられて、都市を出た。

 そして、今に至る。

 ……駄目だ、脳が理解を拒否している。

 しかも、今まで17歳だとばかり思っていたけれど、実はわたしは23歳です、と言われた。

「うう……」

 やっぱり理解出来なくて、わたしは頭を抱えた。

 何だ23歳って。何で認識と現実に6年も差が出来ているんだ。

「……大丈夫か?」

 わたしの様子を見かねたのか、ハヤトが心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫じゃない……」

 わたしはそのままの体勢で答える。

 本当に勘弁して欲しい。

 一晩の間に事態が急変しすぎて、今でさえ何が何だか分かっていないのに。

 その上痴情のもつれだとか、実年齢だとかを言われても、理解なんて出来ない。

「……と、とりあえず、年齢について、説明してくれる?」

 唸る様なわたしの声に、ハヤトが若干身を引きながら「お、おう」と返事をした。

「マコトの意識と現実に違いがあるのは、多分、マコトの『仮死』の期間が非常に長いからだ」

「『仮死』?」

 どう考えても甘い食べ物ではなさそうなその響きに、わたしは首を傾げた。

「マコトは覚えていないだろうから説明するけど、崩壊前の医療現場では、人間を仮死状態にして治療や、検査をする事があったんだよ。

 その場合肉体の成長は止まっているし、記憶も無くなるから、混乱する人も多い。

 仮死状態にする状況は……そうだな、ドナー待ちとか、事故で怪我が酷く、治療に時間がかかる場合とか、ああ、記憶の操作の時も脳をいじるから仮死状態にするな」

 その言葉に、少しだけ納得する。

 だってわたしは、記憶を上書きされている。

 きっと、その作業の時に仮死状態だったんだろう。

「マコトの場合は、この期間が6年くらいだ。

 小さい頃に事故に遭って重体になって、その影響で何回か仮死状態になって治療を受けてる。

 それとは別に、今の記憶の上書きの為に一回、元彼に記憶を上書きされそうになった時に一回仮死状態になってるから、普通の人よりも非常に長いんだ」

 ……何て言うか、わたしはあんまりしたくない経験ばかりをしているみたいだ。

「だから、肉体が生命活動をしている期間は17年で合っているけど、戸籍に存在している年数は23年って事になるし、社会的にもそう扱われてた」

 分かった様な、分からない様な。

 そう考えると、文明が崩壊したのは何年前だとか、そういう事についてのわたしの推測は、ほとんどあてにならないみたいだ。

「……崩壊したのは、何年前なの?」

 頭を振ってから質問をしたわたしに、ハヤトは即答する。

「4年。

 今みたいな『村』の体制が確立したのは3年前で、マコトがこの村に来たのは一年前。」

 4年。

 もう、そんなにたっているんだ。

「ミコトとケイト君が行方不明になったのは?」

「3年くらい前だ。マコトはその時、仮死状態だった」

 という事は、少なくとも3年前からアリスとユウさんは大切な人を探していて。

 そして、わたしの中にある「彼」との思い出は、少なくとも3年以上前のものなんだ。

 ……「彼」は、今、どこにいるんだろう。

 ハヤトは、知っているのかな。

 ううん、知っているはずだ。

 ハヤトはこんなにも詳しい説明が出来ている。

 崩壊前に、わたしか「彼」に関わりがあったはずだ。

 それに、ハヤトと「彼」が知り合いでなければ、ハヤトにはわたしを助ける義理も何も無い。

 それか、「ハヤトの大切な人」とわたしに何か関係があったんだ。

「……ねえ、ハヤト」

 少し迷ってから顔を上げて、わたしは口を開いた。

「……『彼』を、ハヤトは知ってる? 多分、わたしの恋人だったと思うんだけど――名前、思い出せないけど」

 ハヤトが、わたしをまっすぐに見た。

「――知ってる。そいつと、『大切な人』に頼まれたから、マコトを助けたんだし」

 どくん、と胸がざわめいた。

 「彼」が、わたしを助ける様に、ハヤトに頼んでくれた。

 今もハヤトがわたしを助けてくれるっていう事は、「彼」はきっと、会えなくても、まだわたしの事を大切に思ってくれているんだ。

 でも、何でだろう。

 嬉しさと一緒にわき出たのは、ほんの少しの痛みと、悲しみだった。

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