キオクノカケラ
□T アンナチュラル
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『――必ず、また会おうな。あの場所で、必ず』
温かい声に、わたしは微笑んだ。
『――うん。信じてる。待ってるね』
涙で、彼がどんな表情をしているかは分からなかったけれど。
気配で、彼が笑ったのが分かった――。
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「――コト、マコト! 日が暮れるぞ!」
背後から呼びかけられて、広い草原にぼんやりと立っていたわたしははっとした。
……今のは、何?
ぼんやりしすぎて、夢でも見たんだろうか。どうしてか、心がとてもズキズキする。
何だろう、この感覚。
「……マコト?おーいマコト?」
いぶかしげな声に、わたしは振り向いた。
そこには、いつもと同じ風景に、幼なじみの青年の見慣れた姿がある。
「あ、ハヤト。……ごめんね、少しぼうっとしてて」
少し首を傾けて言うと、青年――ハヤトはそっか、と頷いた。
「もう日が暮れるから、女一人で外に出るなんて危ないぞ?」
ハヤトはわたしより一つ年上の18歳だからか、それとも元々の性格からか、とにかくよくわたしの世話をやく。
「心配しすぎ。村でわたしを女の子扱いするのはハヤトだけだよ?」
さらに首を傾げて言うと、ハヤトはにやっ、と笑った。
「いいから門の中に入れよ。いくらマコトが勇ましくて女らしさが皆無だとしても、夜は危険だから」
失礼な奴だ。事実だし自覚はあるけど、ひどい。
ひどいけどわたしを女の子扱いしてくれるハヤトにうん、と呟いて、わたしは歩き出した。
口が悪いけど、ハヤトの言う事は間違っていない。
夜盗が出る可能性もあるし、この辺の毒虫は大抵が夜行性だ。
死にたくないならば早急に村に帰らないと、日が暮れて門が閉ざされてしまう。
知らせてくれたハヤトに、ひそかに感謝する。
……でも、声に出すのはなんか恥ずかしいから、言うのはやめ。
代わりにわたしはハヤトの服の袖を引っ張って、別の事を口にした。
「ねえ、ハヤト。あの遺跡って、何なんだろうね」
「数千年前に滅びたって言われている、超古代文明の事か?」
わたしの言葉には主語が無かったけれど、ハヤトはわたしの言いたい事を正確に理解して答えた――この点、幼なじみは良い。
「うん。すごく、気になるの」
ハヤトとわたしが話している超古代文明の遺跡と言われている物は、村の周辺、あちこちに散らばっている。
そしてわたしはその遺跡に、ものすごく興味を持っている。今みたいに、気がつくとぼんやりとみているくらいに。
「行ってみたいな。でも、近くてもなかなか行けなくて。立ち入り禁止区域だし、生きていくのさえ大変だから」
危険を冒してまで行く時間はない。
本当に自然は厳しいよね、と呟いて、自分の手を見た。
もう17歳だから農作業は長年やっているはずなのに、慣れる事が出来ないから不思議だ。
「仕方ないだろ。緑があるだけ、この土地は良い方だ。安心して飲める水もあるしな」
ハヤトがたしなめるように言った。こういう時、ハヤトはいつもどこかが痛そうな顔をしていて、わたしは心配になる。
と、ハヤトが思い出したかの様に、そういえば、と声をかけた。
「聞いたか? アリスとケイト、結婚するらしい」
「……ええっ?!」
次の瞬間、ハヤトの事は頭からすっかり抜けた。わたしは驚いてハヤトの腕を強く掴む。目を輝かせて問いつめた。
「本当っ?! やっとくっついたの?! いつ?! いつ結婚するの?!」
「いや、そこまでは……って痛い! 爪を立てるなマコト!」
「あ、ごめん」
ハヤトの苦情にわたしは慌てて手を放し、でも若干興奮気味に言う。
「あの2人の子供は、やっぱり緑の目かな? ね、どう思う?」
「……おい、気が早すぎだ」
「……たしかに」
でも、興奮するだけの理由はある。
アリスとケイト君は、村の中で、唯一黒髪黒目ではない人達だ。村の同性に比べると背も高く、顔立ちも彫りが深い。
村中が誇る美男美女さんだ。
「というか、あの2人が相思相愛なの、マコトは知ってたんだな。村中が驚いていたのに」
「え? 知らなかったよ?」
思いがけないハヤトの言葉に、わたしは思わずきょとん、としてしまった。一体どうして、ハヤトはそう思ったんだろう?
「だって、『やっと』って言ってたし。前から知ってたって事だろ?」
言った気がする。確かに、言った。
……でも、どうして?
「……あれ……?」
今まで、あの2人が想い合っているなんて聞いた事はなかったし、考えたこともなかった。それは確かだ。
でも、わたしの本音は「やっと」。
「……どうして、そう思ったんだろう……?」
眉を寄せたわたしの顔を見て、なぜかハヤトは悲しそうな顔をした。
「……? どうしたの?」
わたしが首をかしげると、ハヤトはふいっとそっぽを向いてしまう。何か、気に障ることを言ってしまったのだろうか。
「何でもない。――急ぐぞ」
ハヤトがわたしの腕を掴んで、少し歩調を早めた。
「うわっ……っと。ちょっとハヤト歩くの速い!」
「門番に迷惑かけるだろ、遅くなると」
ハヤトに引っ張られて少し早足になったまま村に入ったわたしの後ろで、まだ新しい木の門が閉じられた。
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