夏組
□引力
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地球には引力がある。だから人は地面に立ってるし、りんごは木から落ちる。落ちたくなくてもりんごは落ちる。それが地球の仕組み。
先輩は何を考えているのかよく分からない時がある。
僕と一緒にいる時にたまに俯くのは、恥ずかしいからですか?それとも退屈だからですか?
デートに遅刻してくるのは、準備に時間がかかったからですか?それとも僕といる時間を少なくしたいから?
分からないから恋は楽しい、そう言う人もいるでしょうけど、僕は分からないから不安です。何も言わなくても先輩が思ってる事が全部僕に伝われば不安なんてなくなるのに。あいにく僕は超能力なんて使えないし、努力するしか手はないんですけど。
「あのね、梓君。その…。」
「どうしたんですか先輩?」
僕の前であーとかうーとか言いながら、もじもじしてる先輩。今だって、僕が先輩の気持ちを読み取る能力があれば、先輩が何に悩んでるかとかすぐに分かってあげる事が出来るのに。
「先輩、顔赤くなってますよ?」
「え?!あ、あのね!」
「はい。なんでしょう?」
覚悟が決まったのか顔を思いっきり背けて(あ、ちょっと傷付きました)、勢いよく何かを僕の目の前に差し出す先輩。
「え?なんですかこれ?」
「お弁当、を…作ってきたの。」
「先輩が、僕のために、ですか?」
こくん、と顔を真っ赤にして先輩が頷く。
「あの、上手く出来なかったし…いらないなら食べなくても…」
「すっごく嬉しいです。先輩が僕のために作ってくれたの。」
「…よかった。」
僕以上に嬉しそうに笑う先輩に安心した。先輩は、僕が好きなんだ、って。
僕といて俯くのは、先輩が僕と目を合わせるの恥ずかしがってるだけなんですよね。
デートに遅刻するのは、僕に可愛いって言われるために時間かけて頑張って用意してくれてるからなんですよね。
言葉にしなくても、ちゃんと伝わってます。りんごみたいに真っ赤になった先輩の顔見たら、ちゃんと分かるんです。
僕に落ちてくれてるんですよね?
恋の引力
引力があるからりんごは落ちる。
引力があるから人は恋に落ちる。