幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□序章
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――躯の居城



躯「それで俺に何の用だ?」



飛影がここに何をしにきたのか躯にはわかっていたが、あえて悪戯っぽく聞く。


飛影「俺が答えなくてもここに何をしにきたのかお前には分かっているだろう」



無表情で答える飛影。



躯「フフ、パトロールが余程つまらないようだな」



ゆっくりと立ち上がる躯。


飛影「ああ、俺が次の大会で優勝したらこんなくだらないものは真っ先に潰してやる」



躯「パトロールはお前には退屈かもしれんが俺は結構気にいっているんだがな」


飛影「あんなものの何が楽しいのかお前の気が知れないぜ」



二人は他愛のない会話をしながら歩いて躯の居城内にある訓練場に向かっていた。



飛影の目的…それは躯との手合わせである。



――躯の居城・訓練所



ここは躯が自分自身や配下の修行用に魔界統一トーナメント後に作った部屋である。



天井が非常に高く四方全てを壁に囲まれた訓練所はどんなに巨大な妖気を放出しても耐えることの出来る魔界の特別な素材で作られていた。



パサッ



訓練所の中央に来ると、飛影は身につけていたマントを脱ぎ捨てて上半身裸になった。
その首には二つの氷泪石がかかり、美しい輝きを放っていた。



そして脱ぎ捨てたマントの横に首にかけていた氷泪石を外して置く。



躯(フッ、相変わらずあの氷泪石を大切にしているようだな)



飛影「行くぞ」



準備が出来た飛影は直ぐに戦闘モードに入る。



躯「相変わらずせっかちな奴だ。まあいい。俺はいつでもいいぞ」



飛影「ハァァァァ!!!」


ブォォォォォォ!!!!



飛影は巨大な妖気を放出し始めた。



躯(流石は飛影だな。前に手合わせした時よりも妖力が数段上がっている)



ボォォォォォォ!!!



飛影の両手には魔界の炎が燃えている。



ズキューーン!!!!



飛影は地面を蹴ると一瞬で躯に近付く。



飛影「邪王炎殺煉獄焦」



ズガガガガガガ!!!



躯の腹部を狙って激しく連打。



躯「妖力、スピード、パワーのどれをとっても随分と上がっているではないか」


躯は煉獄焦を両腕で難なく防御。



飛影「当然だ」



ガガガガガ!!



連続で数十発におよぶ煉獄焦を躯に放ち続けているが躯の鉄壁の防御の前にその攻撃は完全に防がれていた。



躯「単調な攻撃だけでは俺に決定的なダメージを与える事は出来ないぞ」



飛影(………)



飛影は躯の言葉に返事を返す事もなく、ただ無言で躯の腹部に煉獄焦を叩き込んでいた。



躯(まてよ。飛影にしては珍しく単調な攻撃だけを繰り返している。何か狙いでもあるのか?)



躯がそんな疑問を頭に浮かべたその時、飛影が新たな行動を起こした。



飛影「くらえーー!!!」


飛影の両足にいつの間にか魔界の炎が燃えていた。



ボォォォォォォ!!!



躯「これは!?」



飛影「見せてやる。俺の邪王炎殺煉獄脚をな」



躯(いつの間にか飛影の足に炎が燃えている。煉獄焦で単調な攻撃を繰り返していたのは足に魔界の炎を呼び出すまでの時間稼ぎか)


ドガッ!!!



躯の肩に煉獄脚がヒット。


躯は肩に激しい衝撃を受けて後ずさる。



(ニッ)
躯「中々の威力だ」



肩をさすりながら笑みを浮かべる。



飛影「お前、今のはわざと受けたな」



躯「お前の煉獄脚とやらがどれほどの威力があるか興味があったからな」



飛影「チッ、舐めやがって」



飛影は両手両足に燃えていた魔界の炎を消しさると次の行動を起こすべく躯に向かって駆け出した。



そして躯に接近する直前で右手を横に伸ばす。



ジジジ・・・



ボォォォォォォ!!!



右手に炎の剣を作り出す。



飛影「邪王炎殺剣」



ビューーン!!!



振り下ろされる炎殺剣。



躯(…………)



フッ



空を切る炎殺剣。




躯の姿が飛影の前から消えたのだ。



飛影は直ぐに天井を見上げる。



飛影「上か!」




すると躯が飛影の頭上にその姿を現した。



躯「正解だ」



ビュッ!!!



鋭い蹴りを飛影の顔面に向けて放った。



その蹴りのあまりのスピードに飛影は防御が間に合わない。



バキッ!!



飛影の顔面にヒット。



飛影「ぐっ・・・!!」



ドガァァァァァァァァ!!!!!



飛影の身体は壁に思いっきり叩きつけられた。



地面に倒れる飛影。



起き上がる気配がない。



躯「オイ、遊んでいないでさっさと起きたらどうだ。それでお前が終わるわけないだろ」



飛影「フン」



何事もなかったかのように立ち上がる。



飛影「強烈な一撃だ。結構利いたぜ。そろそろ身体が温まってきた。本気で行くぞ」



シュルシュルシュル



飛影は右腕に巻いている包帯を外し始めた。



躯「黒龍波か。フフ、たかが暇潰しの手合わせなのにお前は手を抜かないな」


飛影「お前程の化物が相手だと手合わせでも手を抜くことなど出来ないぜ。躯、お前も本気を出せ」



躯「まあ、大会前の調整に調度いいかもな」



グッ



躯「ハァァ!!」



ブォォォォォォ!!!



躯は抑えていた妖気を一気に解放した。



以前、躯の戦闘力は精神状態により大きく左右されていた。三年前に開かれた魔界統一トーナメントでは終始大会が和やかだった為に、優勝候補の最有力と言われながらもその実力の半分程度しか発揮出来ずに準々決勝で煙鬼に敗れ去っていた。



飛影は大会の後、躯の精神状態を大きく左右する要因となっていた躯の父、奴隷商人痴皇の呪縛から躯を解き放っていた。



心の闇から解放された躯はその後、精神状態に左右される事もなく安定した力を発揮出来るようになったのである。



飛影「ハァァ!!」



ドゥォォォォォォ!!!



飛影は黒龍波を上に向かって放つ。



そして黒龍は術者である飛影に向かって来る。



カーー



ズンン



黒龍を体内に取り込み攻撃力、防御力、妖力を急激に上昇させた。



(ニッ)
飛影「行くぜ!」



躯「ああ」



ズキューン



飛影・躯「ハァァ!!!」


ドガッ!!



二人は同時に動き、激しい肉弾戦を始めた。



――躯の居城の入口



一人の半魚人風の姿をした妖怪が躯の居城を訪れていた。



彼は慌てているのか、少し息を切らしている。



「よう!月畑(つきはた)、慌ててどうした?」



居城の入口にいた見張りの妖怪が声をかける。



月畑「ちょっとパトロール中にトラブルがあってな。報告と協力の要請に来た」


「躯様は訓練所に今はおられるぞ」



月畑「それならば幹部の方は誰かいるか?」



見張り番「えーと、今なら・・・」



見張りの妖怪が答えようとしたその時、その背後から声が聞こえて来た。



「どうした?何事だ」



一人の妖怪が居城の入口に姿を現した。



月畑「あ、貴方は!」



――躯の居城の訓練所



飛影「ウォォォォォ!!!」



ドガッ!!!



躯「ハァァァ!!!」



バキィィィ!!



お互い防御はお構いなしに攻撃をし続ける二人。



二人のバトルは長時間に及んでいた。
飛影が持ち前のスピードをフルに活用して激しい攻撃を仕掛け、躯と序盤は互角に渡り合うが、圧倒的な強さを持つ躯との間に徐々にその力の差が現れて飛影を圧倒し始めていた。



飛影「チッ」



だが実力の差以上に深刻なのは疲労であった。
黒龍波を使っている飛影は妖力の消耗が激しく、疲労が蓄積されていた。



躯「ハッ!」



ピカーー



躯の目が光る。



バチバチバチ



飛影「ぐっ!!」



飛影は身体に電流が一瞬流れたような感覚を受けた。


グググ・・・



身体が殆ど動かない。



飛影(超能力か・・・)



飛影は身体の動きを躯に封じられてしまっていた。



スッ



躯は軽く手を上げると飛影の身体が宙に浮き始める。


(ニッ)
躯「俺がこの技をお前に使うのは初めてだったな」



飛影(こんな技を持っていやがるとは……)



躯「さっきはお前の新しい技の煉獄脚を見せてもらったからな。今度は俺の技を見せてやろうと思ってな」


躯はそう言うと飛影の身体を操り始めた。



スッ



壁の方に目を向ける躯。



ビューーー!!!



躯に操られた飛影の身体が壁の方に向かって飛ばされていく。



ドガーン!!!!!



壁に思いっきり身体をぶつけられる飛影。



スッ



躯は今度は天井に向けて飛影の身体を操る。



ドゴォォォォ!!!



飛影「くそっ!」



ズガァァァァァ



バゴォォォォォ



躯に操られた飛影の身体は何度も何度も壁に叩きつけられ続けた。



躯「どうした飛影!もう終わりか?その程度では大会で到底優勝は出来ないぞ」


飛影「俺を甘く見るな」



グググ・・・



飛影は躯の超能力による金縛りを解こうとする。



躯「無駄だ飛影!そう簡単には解けないぞ」



飛影「ウォォォォォ!!!!!!」



ブォォォォォォォ!!!



飛影の凄まじいまでの妖気が訓練所内を漂う。



グググ



徐々に飛影の身体が動き始める。



躯「何!?」



飛影「ハァッ!」



カーー



飛影は自力で躯の超能力による金縛りを解いた。



飛影「解いたぞ」



飛影は素早く動いて壁に足をつけると、その反動で躯に向かう。



ズキューーーン!!!!




飛影「躯ォォォォォ!!!」



躯「俺の金縛りを解くとは大した奴だ」



ズキューーン!!!!



躯も飛影に向かって駆け出す。



ガン!!!



二人の拳と拳がぶつかる。



ぶつかった二人は一時的に静止した状態となり広い訓練所内は一瞬静まる。



そして躯が口を開く。



躯「中々、楽しめたぞ。今日はこれぐらいにしておくか。続きは大会だ」



飛影「フン」



シュゥゥゥゥゥゥ




飛影と躯が放出していた巨大な妖気が訓練所内から完全に消えた。



躯「全力の俺と随分戦えるようになったな」



飛影「大会ではお前を超えてやる」



飛影はそういうと地面に腰を下ろした。



飛影は大会前の最後の手合わせで、まだまだ躯には及ばないが手応えは感じてきていた。



躯「黒龍波を使った後は眠くはならないのか?」



飛影「一発程度では大丈夫だ」



躯「お前は黒龍波を体内に取り込み爆発的に戦闘力を上げるのはいいが、身体に負担がかかり過ぎるのが欠点だ。長時間の戦いになると直ぐにガス欠になる。その弱点が解消しろ。そうすればお前はもっと強くなるだろう」



飛影(!)



躯「大会まで時間がもう少ししかないが、その弱点を克服して見せろ。そうすれば優勝を狙えるかもしれないぞ」



飛影は目を閉じて少し考えるような素振りを見せる。


そして目を開くと何かを決意した男の目になっていた。



飛影(面白い。上等だ。やってやる)



躯(あの目はやる気だな。大会で飛影がどう化けて出るか楽しみだ)



飛影はこの後、命懸けで新たな力を身に付け、大きく成長した姿を大会で見せる事となる。



ブォォォォォ!!



飛影・躯(!)



その時、訓練所内に巨大な妖気を持つ者が入って来た。



飛影と躯は訓練場の入口に目を向けると一人の妖怪が立っていた。



飛影はその妖怪の顔を見てその名を呟く。



飛影「奇淋(きりん)」



訓練所の入口には元躯の77人の直属の戦士の中で飛影にその地位を奪われるまで筆頭戦士であった魔道本家・奇淋が立っていた。



続く
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