幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編01
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――魔界の7番地区



7番地区の西部の外れに一つの小さな小屋がある



黎明「うっ・・・」



パチッ



黎明は目を開けた。



「気が付いたか?」



男は自分の小屋のベッドに手当をして寝かせていた黎明に声をかけた。



黎明「お、お前は・・・?」


ガバッ



黎明は直ぐにベッドから起き上がろうとした。



ズキッ



黎明「ぐうう・・・」



スッ



黎明は右手で胸の傷をおさえた。



「生きているのが不思議なぐらい瀕死の重傷だったんだ。まだ動かない方がいい」



男は黎明に優しい声で話しかける。



黎明「お前は誰だ?」



黎明の黒い瞳は目の前にいる男に向けられる。



黎明の黒い瞳に映った男の頭はスキンヘッドに恰好は黒い道着を着ていた。



「私か?私の名前は、北神」



黎明「北神・・・」



チラッ



黎明は自分の身体の状態を見た。黎明の身体は丁寧で完璧な傷の手当が施されていた。



黎明「この傷の手当はお前がしてくれたのか?」



北神「ああ。お前は獰猛な魔界のオジギソウにやられたんだろうな。全身にかなり酷い傷を負っていたよ」


黎明「私の名は・・・」



(ニッ)
北神「黎明だろ?私が名を聞いたら意識を再び失う前に名乗ったよ」



黎明「そうか。北神、助けてくれた上に傷の手当までしてくれて本当に感謝する」



(ニコッ)
北神「私は倒れていた黎明を見つけてここに連れて来て傷の手当をしただけだ。大した事をしたわけでもないさ」



黎明「北神、ここは一体何処なんだ?」



北神「気を失う前にも話しだがここは魔界の7番地区だ」



黎明「魔界??」



黎明は魔界と聞いて何かわからないようだ。



北神「そう魔界だ。黎明は一体何者なんだ?」



黎明「私は・・・」



ズキッ



黎明「ううっ・・・」



黎明は頭痛による痛みで顔を歪める。



北神「大丈夫か?」



北神は心配そうな顔で黎明を見つめる。



黎明「だ、大丈夫だ」



スッ



黎明は頭を手でおさえながら目を閉じて考え始めた。



黎明(・・・)



パチッ



黎明は目を開けるとその顔から見る見る血の気が引いていった。



北神「おいっ、どうした!?」



黎明「私は・・・自分の名前しか思い出せない。私は誰なんだ!?」



北神(!)



北神は黎明の言葉に驚き、そして呟く。



北神「記憶喪失か」



黎明は蔵馬との闘いで敗れ、オジギソウに呑み込まれた衝撃により名前意外の記憶の全てを失ってしまっていたのだった。



――躯の居城



飛影と再会してから翌日。桑原は月畑と時雨に保護されて躯の居城に連れて来られていた。



時雨「桑原、昨日は良く寝れたか?」



桑原「ああ、おかげでな。あの森の木の上で寝ていたことを考えたらここは天国たぜ」



時雨「それなら良かった。本来なら保護した人間はここでの記憶を消して人間界に返すのだが御主はその必要があるまい。それ以前に魔界の焦気を吸ったらほとんどの人間は昏睡して仮死状態になるのだがな」



桑原「飛影も人間の記憶を消したりしているんだろ?」


時雨「よく知っているな。奴の邪眼の能力で消している」



桑原「昔、人間界に返された人間が宇宙人とかの話しのTV番組にでていてな、その人間が僅かに残った記憶で書いたスケッチが飛影にそっくりだったからな」


時雨「それは完全に記憶が消えていなかったのだな」


(ニャッ)
桑原「ぷぷっ。しかしあいつが宇宙人だとよー。なんか考えたらはまってそうで笑えるぜ」



時雨「フッ、しかし御主の話しを聞いた限り、今は人間界に戻らない方がいい。我らの下にいた方が安全だろう。御主のここでの滞在の許可は躯様に頂いたから暫くここにいるがいい」



桑原「すまねえな。ところでよー。俺と一緒に魔界に飛ばされた雪菜さんの情報は入ってきてねーか?」



時雨「氷女は人間ではないからな。パトロール隊ではなく拙者の手の者で現在、探させている」



桑原「何から何まですまねーな。悪いけど頼むぜ」



時雨(おそらく氷女はもう飛影が見つけているだろうがな)



桑原「そういえば、飛影の奴はまだここに戻ってきてねえのかよー」



時雨「まだ戻ってきていない。それにあやつはここで生活をしているわけでもないからな」



桑原「そうか」



時雨「飛影に何か用でもあったのか?」



桑原「ああ、その俺と一緒に飛ばされた子が魔界にいるかも知れないっていう兄貴を探しているんだ。せっかく飛影に会ったからよー、あいつに兄貴の消息の手がかりが何かないか聞きたかったんだ」



時雨「なるほど」

(桑原は飛影が兄だと言う事を知らないようだな)



桑原「そういえば、あんたが飛影に邪眼を移植したっていってたんだっけ?」



時雨「如何にも拙者が飛影に邪眼の移植手術をした。移植前の飛影は13層北東部で忌み子・飛影と呼ばれ生まれて僅か5年でA級クラスの妖怪になった天才少年だった」



桑原「へ〜すげえな。でも俺が初めて会った時のあいつは、C級かD級クラスの妖怪だったぜ」



時雨「だろうな、移植は能力変化。すなわち生まれ変わるのと同じ事となる。その為に妖力もA級クラスから最下級クラスの妖怪に落ちることとなる」



桑原「なるほどな、納得したぜ。あいつは何でせっかくA級妖怪クラスの妖気を持っていてわざわざ最下級クラスまで妖力を落として邪眼を移植したんだ?」



時雨「一言だけいえばあやつにはその時に良く見える目が必要だったのだ」



桑原「まあ、あいつにも俺にはわからねー事情ってもんがあったんだろうな」



時雨「フッ、人間でも妖怪でもそれぞれが色々な事情を抱えて生きているものだ」



桑原「そういえば邪眼の移植手術以外にもあんたが飛影に剣術も教えたっていっていたな」



時雨「剣術の真似事を少々な。最下級クラスまで落ち込んだ妖力では拙者が以前住んでいた森に多く生息している獰猛な怪物を相手に無事に抜けることが厳しかったからな。それに妖力が再び見につくまでの間、あやつの身を守る為に教えてやったまでだ」



桑原「以前、青竜って妖怪を飛影が倒した時に初めてあいつの剣技を見たけどよー、素早い上に凄い剣激だったぜ」



時雨「あやつは拙者が教えた事を基にそれを我流で研いたようだ。その後、僅か数年で前以上の妖力で拙者の前に現れた時は、真に驚いた。大した男だ」



桑原(・・・)



桑原は突然黙って何かを考え始めた。



時雨(急にどうしたんだ?)


桑原は、ゆっくりと口を開く。



桑原「その飛影に剣術の基礎を教えたのは時雨、あんただ。そこであんたに頼みがある」



時雨「拙者に頼みだと?」


桑原「俺がここにいる間だけでもいいから俺にあんたの剣術を教えてくれ」



時雨「御主が拙者の剣術を学びたいというのか」



桑原「ああ、金髪の野郎に狙われてあまりにも自分の無力差を実感したぜ。俺のせいで雪菜さんを巻き込んだ上に怪我までさせちまった。もうあんな思いをしたくねーんだ」



時雨(・・・)



桑原「この霊力ではあの金髪野郎に絶対に勝てねー。頼む時雨!俺にあんたの剣術を教えてくれ!!」



桑原は真剣な目で時雨に訴えかけた。



時雨(あの目は心底強くなりたいと願う男の目だな)


(ニャッ)
時雨「いいだろう」



桑原「ほ、本当か!!」



時雨「だが拙者が教えるからには御主にも命をかけてやってもらうぞ」



(ニャッ)
桑原「当たりめーだ。どんなきつい修行にも耐えてやるぜ!」



時雨「フッ」

(拙者がまさか人間に剣術を教えることになるとはな・・・だがそれもまた一興か)


桑原はこうして時雨から剣術を学ぶこととなった。大会までの僅かな期間ながら桑原の霊剣による剣術の技、そして霊力が格段に強くなっていくのであった。



続く
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