幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜
□大会編02
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――Aブロック
桑原は立ち上がり、仰向けに倒れた武威に近付いて行く。
桑原「武威・・・」
倒れている武威に声をかける桑原。
(ニコッ)
武威「見事だ桑原。俺の負けだ・・・」
笑顔を見せる武威の顔から殺意と憎しみは完全に消えていたのだった
生きるか?死ぬか?まさに命賭けの闘いとなった桑原と武威の二人の闘いは終わった。
殺意と憎しみの負の感情を爆発させた武威。
復讐という負の感情を排除した純粋な桑原の生への渇望。
正の感情を爆発させた桑原の想いが武威の負の感情に打ち勝ったのだ。
武威「お前の一撃は俺の急所を完全に斬り裂いたな」
武威の腹部は桑原の次元刀によって横に一直線に斬り裂かれていた。
深くまで斬り裂かれた腹部の傷口からは血が大量に地面に流れ落ちている。
桑原「ああ。全く頑丈な身体だったぜ」
桑原はそう言うと倒れている武威に背中を向けて歩き始めた。
武威「待て桑原」
立ち去ろうとする桑原を呼び止める。
桑原は武威の方を振り向かずに足を止めた。
桑原「何だ?」
武威「お前との闘いは満足のいく闘いだった。敗れた事に悔いはない。俺に止めを刺して魚人の仇をとるがいい」
桑原「止めは刺さねー。おめーをぶっ殺しても、月畑は生きかえるわけでもねーしな」
武威「桑原・・・」
桑原の言葉に驚く武威。
桑原「もうすぐしたら救護班がここに来る。手当てをしろよ武威。頑丈なおめーの身体だ。手当てすれば助かるはずだぜ」
武威「あれほど仇討ちに燃えていたお前が何故だ?」
桑原「月畑が殺された時は確かにおめーを憎んだぜ。さっきまでは殺すつもりで闘っていた」
武威「だったら何故殺さない!」
桑原「もう殺されちまった本人が成仏しちまったみてーだからな。おめーに止めを刺す気はなくなっちまったぜ」
武威「成仏?一体何の話しだ?」
不思議そうな顔をする武威。
(ニッ)
桑原「気にすんな」
武威の方を向いて笑顔を見せた。
武威(・・・)
グググ・・・
武威は大量の血が流れる腹部を手で抑えながら立ち上がった
桑原「おいおい・・・。今動くとマジでヤベーぞ!」
武威「桑原、お前は暗黒武術会の後から俺がどうしていたか聞いたな?」
桑原「あ、ああ」
武威は静かな声でゆっくりと語り始めた。
武威「戸愚呂(弟)という俺の最大の目標を失い、武術会では戸愚呂(弟)以外の飛影に敗れた俺は闘う事に未練がなくなり闘う事を止めた」
桑原「闘う事を止めた?」
殺意と憎しみの塊と化していた武威が闘う事を止めていた事に驚く桑原。
(ニャッ)
武威「フッ、意外だったか?」
驚いた顔の桑原を見た武威は唇を緩ませる。
桑原「さっきまでのおめーを見ていたからな・・・」
武威「だろうな。そして俺は人間が殆ど近付かない山奥で生活を始めたのだ」
蔵馬が凍矢達に語った事を桑原に語り始めた武威。
武威「桑原、お前は知らないだろうが、世捨て人の様に山に込もっている時に蔵馬が一度、俺に接触して来た事があった」
桑原「蔵馬が?」
桑原は蔵馬の名前がここで出てきた事にさらに驚いていた。
「ええ、俺が黄泉の元にいた頃に酎や陣と同じく武威を幻海師範の元での修行に誘ったんですよ」
二人の背後から男の声が聞こえて来た。
声の主は蔵馬である。
選手達の休憩場にいた蔵馬が武威の元へやって来たのだった。
桑原「く、蔵馬!?」
武威「蔵馬・・・」
突然の蔵馬の登場に驚く二人。
蔵馬「鎧と兜を外した素顔のお前と話すのはあの日以来だな」
――選手達の休憩場
凍矢「あれは蔵馬!!」
幽助「蔵馬の奴、いつの間に!?」
突然、闘場を映し出すスクリーンに姿が現れた蔵馬に驚く幽助達。
――Aブロック
蔵馬「俺が訪ねた翌日にはお前は姿を消していた。お前は今までどうしていた?そしてあれから、三年以上の時間が過ぎた。一体何があったんだ?」
蔵馬は真剣な顔で武威に問いかけた。
桑原は黙って二人の様子を見ている。
武威「地獄だ。この世の地獄の中に俺はいた。お前が訪ねて来た日の夜にある者達が俺を誘(いざな)いに来た」
――Aブロックの上空
フッ
黒いマントに仮面で顔を隠した男がAブロックの上空に姿を現した。
スッ
男は右手を地上にいる武威に向けた。
――Aブロックの地上
蔵馬「ある者達?」
武威「奴らは・・・」
その時、武威の身体に異変が起こった。
武威「グォォォォ!!!」
急に武威がもがき苦しみ始めた。
桑原「お、おい!!」
蔵馬「武威一体どうしたんだ!?」
突然の武威の変化に驚く二人。
武威(!!)
ドバァァァァァ!!!!!
突然、桑原に斬り裂かれた傷口が大きく広がっていく。そして大量の血が吹き出た。まるで力まかせに引き裂く様に。
桑原・蔵馬「武威!?」
武威「・・・奴らの仕業か」
(見つけられた様だな)
武威はそう呟くと上空を見上げた。
仮面をつけた黒いマントの存在に武威は気付いた。
武威「粛正というわけか・・・」
――Aブロックの上空
仮面の男「淘汰完了だ」
フッ
仮面をつけた黒いマントの男の姿は消え去った。
――Aブロックの地上
蔵馬が武威の傍に駆け寄り薬草で手当てを試みる。
武威「無駄だ。俺は助からない」
武威は薬草をあてようとした蔵馬の手を振りきると何も言わずに背を向けて闘場を歩いて行く。
桑原「その身体で何処に行くんだよ!?」
蔵馬「武威!!」
蔵馬と桑原も慌てて武威の後を追いかけていった。
武威は桑原と闘っていたこの自然式円闘場の端に向かっていた。
――選手達の休憩場
幽助「武威の奴は何処に向かってるんだ?」
凍矢「傷口が裂けた。あれではもはや助からないだろう」
飛影「あの野郎、まさか・・・」
――Aブロック
Aブロックの自然式円闘場の端から外は深い奈落の底とも言える崖であった。
自然式円闘場の端に到着した武威はゆっくりと桑原と蔵馬の方を見た。
武威「・・・一つだけ言っておくぞ。桑原、蔵馬、“奴ら”はいずれお前達の前に現れる。そして俺と同じ様にお前達も地獄を見るはめになる」
蔵馬「奴ら?さっきから一体何を言っているんだ武威!」
武威「生きるか死ぬか、殺意と憎しみを持つ者しか生きていけない場所に俺はいた。そこから逃げて来た俺は負け犬とも言えよう。生きる為にそこで培った殺意と憎しみは逃げ出してからも消す事は出来なかった」
そして武威は闘場の外である奈落の底へ足を向けた。
(ニコッ)
武威「桑原、お前の技で斬り裂かれた時、その一撃が俺の憎しみと殺意すらも斬り裂いてくれた。俺はホッとしたぞ。これで解放されたのだと」
満足した男の笑顔を見せた武威。
桑原「武威、おめー・・・」
桑原が武威の側に行こうと近付こうと動いた。
武威「来るな!」
大きな声を上げる。
桑原(ビクッ)
鬼々せまる形相の武威に驚いて足を止めた。
武威「桑原、俺がこの大会に参加した理由はな・・・」
武威は目を閉じた。
武威「殺意と憎しみにとり憑かれた俺は大会に・・・」
バッ
武威は背中から闘場の外に身を投げた。
奈落の底へ向かって。
桑原・蔵馬(!?)
武威「死に場所を求めていたのだ・・・」
武威の身体は奈落の底に落ちていった。
桑原「武威ィィィィィ!!!!!」
落ちて行く武威は心の中で呟く。
武威(・・・今度は本物の地獄でお前に会えるな・・・。待っていろよ、戸愚呂(弟)よ)
武威の身体は奈落の底に吸い込まれる様に消えていった。
闘場に残された二人は突然の出来事に唖然としていた。
桑原「・・・あんにゃろう」
蔵馬「武威・・・」
武威が遺した多くの謎。
武威の傷口をその力で引き裂いた仮面を付けた黒いマントの男。
武威が見てきたこの世の地獄とは?
闘いを止めていた武威を誘(いざな)ったという者達の正体とは?
そして桑原や蔵馬達の前にいずれ姿を現すだろうという不気味な武威の最期の言葉。
全てを語る事なく死んだ武威。
だが、武威の言葉通り、“その者”達が後に桑原や蔵馬の前に姿を現し幽助達も巻き込んでは闘う事になるのであった。
それはまた別の話し。
多くの謎だけが残りながらも大会は何事もなかった様に続いていく。
そしてついにあの男の出番が訪れた。
――選手達の休憩場
カチャッ
腰に剣を装着した。
飛影「行くぞ」
飛影は静かに呟くとBブロックの闘場に向かって歩いて行ったのだった。
対戦相手は蔵馬が闘った電鳳と同じく雷禅の昔の仲間である周。
周(相手は邪眼師のチビか)
優勝を狙える力を持ち、メタル族の最強の戦士である周がついにその力を発揮しようとしていた。
周(しゆう)
×
飛影(ひえい)
二回戦の最後の注目の試合がついに始まる。
続く