幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――桑原が武威を倒した直後に時は遡る。



桑原を狙う比羅達が大きく動き出そうとしていた。



――会場を一望出来る崖の上



弥勒「駁、桑原の勝ちの様だよ」



崖の上から見えるメイン会場のスクリーンには桑原が時雨の技で武威を斬り裂いた瞬間が映し出されていた。



駁「ああ。本当に良かったぜ。あいつに死なれると困るからな」



桑原が武威に殺されるかと心配していた駁は安堵の溜め息をついたのだった。



駁「こんなにヒヤヒヤするぐらいなら、魔界の妖怪共に闘いを今から挑んで、奴らから桑原を奪ってしまいたいぐらいだ」



それは駁の今の正直な思いであった。



駁「そもそも人間のあいつが何で魔界の王を決める大会に出ているんだ!人間のあいつには関係ないだろう!!」



駁はどうやら、ヒヤヒヤさせられた事にだんだん腹が立ってきた様だ。



弥勒「それは私達の事を警戒しているからだと思うよ」



駁とは対称的に非常に落ち着いている弥勒。



駁「まだ俺達が魔界に来ている事は魔界の奴らには知られていない筈だ」



弥勒「知られてはいないだろうけど、彼らの所に桑原がいるなら、私達に狙われているのは分かっているよ」



駁「むっ・・・」



弥勒「ヘタに別の場所に彼を隠しても、強力な妖怪達はこの大会に参加してしまうから、警護も手薄になる。彼を私達から守るには大会に参加させた方が安全だと思ったのではないかな?」



弥勒の読みは当たっていた。この桑原の魔界統一トーナメントの参加を提案したのは躯であった。



躯の目的は弥勒が言った通り、狙われた桑原を守る為に彼を違う場所に隠すよりは桑原の仲間である幽助に蔵馬に飛影等の仲間達、躯と黄泉、そして煙鬼達ら最強の妖怪達が揃う大会に参加させてしまう事であった。



最強の妖怪が揃っている為にヘタに手出しが出来ないとふんだからである。



そして躯には桑原を大会に参加させたのは他にも目的があった。



それは・・・。



駁「だがよー、今回は桑原が勝ったから良かったものの、ヘタをすれば殺されていたかもしれない試合内容だったぜ。守る為に参加させて殺されてしまったら、馬鹿としか言いようがないぜ」



(ニコッ)
弥勒「殺されてもいいと思って参加させていたらどうする?」



駁(!!)



弥勒の言葉に驚く駁。



駁「おいおいおい!?何でだよ!?」



弥勒に詰め寄る。



弥勒「これは二つの目的が絡まった絶妙な策だよ」



桑原の死。それがもう一つの躯の目的。



桑原は愛する雪菜を守る為に強くなろうと時雨に剣術を学んだ。



躯は全てを呪う事で強くなった。他人を守る為に強くなる事など自分には出来ない事であった。



最強の妖怪となった今では。



そういった意味でも躯は桑原和真という人間を純粋に気に入っていた。



彼を守るという気持で大会の参加を煙鬼に提案したのは間違いなかった。



だが、躯は大会では激しい闘いが行われる事で桑原が試合の中で死ぬ可能性があるという事も理解していた。



桑原が死ぬ事で彼の秘められた能力を求めている比羅達の野望は潰える。



野望の潰えた彼らは魔界から立ち去るしかない。



躯の願いは魔界の安定。



その為の犠牲もやむおえないと考えていたからである。



弥勒「大会に参加させれば私達からも守る事も出来るし、大会で彼がもし死ねば私達の悲願も水の泡と消える。凄く矛盾した考えにも思えるが、私には思いつかない、面白い考えだよ」



駁「・・・俺にはついていけないぜ・・・・・・」



(ニコッ)
弥勒「そうかい?」



弥勒は屈託のない笑顔を駁に見せた。



弥勒「私の読みが本当に当たっているなら、この策を立てた者に会ってみたいものだよ」



駁(そんな屈折した奴は俺はゴメンだ)



弥勒「しかし彼は面白い男だよ。絶望的な状況の中で互角まで力の差を縮めたかと思えば、最後は勝ってしまうのだから」



スクリーンに映る桑原の姿を見ながら感心したような呆れたような表情で見ていた。



スクリーンの桑原はどうやら倒れている武威と話しているようだ。



駁「あの桑原は人間界で見た時とはまるで別人の様に強くなってしまった。あれだけの強さなら俺達とまともに闘う事が出来る筈だ。捕まえるのは簡単ではないぞ」



人間界での桑原を比羅と見てきた駁は短期間での桑原の急激な成長ぶりに驚いていた。



そこへ着物を着た一人の女性が駁の隣に歩いて来た。


「あの桑原って男、私達が必要としている能力を持つ男だから、初めはさぞかしイイ男かなって思って期待していたけど・・・。ここに来て彼の顔を見るまで、あんなに不細工な顔とは思わなかったよ」



駁「辣姫(らっき)」



駁から辣姫と呼ばれた女性は黒いストレートの髪が印象的な、大人の色気が漂う色白の美しい女性であった。



辣姫「あの桑原がいい男だったらな〜。いい男なら直ぐにでも私がどんな手を使ってでも捕まえてあげるのに」



スクリーンに映し出されている桑原を見ながら、口に人差し指を加えて恨めしそうに呟く。



駁「フン、相変わらずの面食いだな。能力と顔は関係ないだろう?」



辣姫「私には重要な問題よ。顔がいい男ならどんな手を使ってでも私が捕まえるもの」



その表情はどこか色っぽい。



駁「お前な・・・」



呆れる駁。



辣姫「駁、あんたは顔はそんなに悪くはないけど、背がもう少し高ければ格好いいかもしれないのにね」



(カチン)
駁「何でそこで俺の話しになる!真面目にやれ!」



辣姫「大きな声を出して何なのよ!私はいつでも大真面目よ!」



バチバチバチ



目から火花を散らす二人。


袂「まあまあ、辣姫。能力と顔の良さが一致しない話しはよくある話しですよ。駁もそんなに大きな声を出さなくても」



袂が間に入ってなだめる。


駁・辣姫(バチバチバチ)



二人は袂の言葉を無視。



袂「目から本当に火花が出てる・・・」



弥勒「おや?あれは妖狐・蔵馬じゃあないのか?」



横で火花を散らしている二人を気にせずに、あくまでマイペースな弥勒であった。



スクリーンには桑原と武威の闘場であるAブロックに蔵馬の姿が映し出されていた。



「妖狐・蔵馬がどうしましたか?」



一人の少年が弥勒の側に歩いて来た。



(ニコッ)
弥勒「夢苦(むく)、相変わらず妖狐・蔵馬の名前には敏感だね」



夢苦と呼ばれた少年はおぼっちゃま刈りの修羅と同じぐらいの年頃。雰囲気も修羅と良く似た生意気そうな少年であった。



夢苦「はい。妖狐・蔵馬は兄の仇ですから」



だが、夢苦が修羅と大きく違うのは見た目とは違って、物静かで礼儀正しいという事であった。



弥勒「そうだね。夢苦は黎明と兄弟の様に育ったし、夢苦に闘い方を教えたのも黎明だったからね」



夢苦「その妖狐・蔵馬がどうかしましたか?」



弥勒「その仇の彼の姿がスクリーンに映っているよ」


スクリーンに映る蔵馬に強い敵意を向けた目で見る夢苦。



夢苦は人間界で黎明を倒した蔵馬を仇と憎んでいた。


だが、夢苦は憎しみだけで蔵馬を見ていた訳ではなかった。



比羅の言葉を忠実に守り、蔵馬の初戦の謙遜戦、二回戦の電鳳戦。二つの闘いから蔵馬の戦術、癖、弱点等を観察していた。来るべき蔵馬との闘いの為に。



夢苦「あの妖狐・蔵馬は僕が倒します」



弥勒「夢苦なら妖狐・蔵馬に絶対に負けないと私は期待しているよ」



弥勒はそう言うと夢苦の頭を優しく撫でた。



夢苦(ニコッ)



弥勒の言葉に、夢苦は子供らしい笑顔を見せたのだった。



ブォーン!!



そこへ一人の男が戻って来た。



駁・辣姫「あっ!!」



その男の顔を見た瞬間に喧嘩をしていた駁と辣姫は直ぐに喧嘩を止めた。



砂亜羅を捜しに行った比羅が戻って来たのである。



駁「比羅」



駁は比羅の顔を見た。



駁(ゾクッ)



背筋が凍る様な感覚に駁は陥った。



比羅から凄まじいまでの殺気が放たれていたのだ。



その腕には変わり果てた砂亜羅の亡骸があった。



一同「砂亜羅!!!?」



比羅の同士達は変わり果てた砂亜羅の姿に驚く。



比羅は双子の妹の亡骸を地面にそっと下ろした。



同士達が砂亜羅の亡骸に一斉に近付く。



袂「これは酷い・・・」



駁「また、派手にやられやがって・・・」



夢苦「砂亜羅お姉ちゃん・・・」



辣姫「馬鹿、死んだら綺麗な顔が台無しじゃないの・・・」



弥勒だけは砂亜羅ではなく比羅の側に駆け寄った。



弥勒「・・・比羅、これは一体どういう事なんだい?」


弥勒の問いかけに比羅は静かに答える。



比羅「弥勒、二人だけで少し話しがある」



比羅の目から、弥勒は何かとてつもない事を比羅が起こす様なそんな気配が感じ取れたのだった。



弥勒「・・・分かった」



砂亜羅の死というただならぬ自体に弥勒は何か嫌な予感がしてならなかった。



そして比羅と弥勒は少し離れた場所に歩いて移動した。



弥勒「ここなら大丈夫だと思う。だが、その前に答えて欲しい。砂亜羅の身に一体何が起きたのかを」



比羅「砂亜羅は殺された」


弥勒「砂亜羅程の使い手を殺せる者など、中々いない。一体誰が・・・」



「砂亜羅の死について、それは俺が話そう」



空間の中から男の声が聞こえてきた。



比羅「樹か?」



比羅が声の主に問いかける。



「ああ」



ズズズ・・・



空間の中から樹がその姿を現した。



弥勒(闇撫の樹)



現れた樹は比羅に視線を向けた。



樹「確認だが、俺が話してもいいのか比羅?」



比羅「構わない」



(ニヤッ)
樹「なら俺が話すぞ」



不敵な笑みを浮かべる樹。


弥勒(嫌な笑顔だ。仲間である砂亜羅の死の内容を私に伝えるのがそんなに嬉しいのか?)



そんな想いとは裏腹に弥勒はいつも通りの顔で樹に話しかけた。



弥勒「樹も魔界に来ていたのかい?」



樹「フッ、大会の後に弱った奴らを倒すという作戦を立てたのは俺だからな。策を立てた者が高見の見物をするわけにはいかないだろう」



弥勒(・・・そういえばこの作戦を考えたのは樹だったね・・・)



樹「弥勒、比羅の変わりに話しを始めるぞ」



弥勒「そうだね。では樹、話しを聞かせて貰おうか?」



樹「ああ」



弥勒(彼を見てから、何か分からないが胸に引っかかるものを感じる)



弥勒の優れた勘が、樹から発する危険な信号を感じ取っていた。



弥勒(さて、どんな話しが出てくるのか)



この樹との魔界での再会を境に弥勒は樹に疑念を抱く事になる。



同士達の中では比羅に次ぐ実力を持つだけでなく、智将としても名高い弥勒。



そして仙水の為に様々な陰謀を巡らす闇撫の樹。



二人の策略家の闘いがここから始まるのであった。



続く
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