幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――会場を一望出来る崖の上



樹「弥勒、話しを始めるぞ」



弥勒「宜しく頼むよ」



比羅と弥勒の前に突如、姿を現した闇撫の樹。



死んだ砂亜羅の身に何があったのか?比羅に代わって弥勒に話すと言う樹。



砂亜羅を殺した樹が弥勒に何を語るのか?



弥勒と樹。これから続いていく智将と闇撫の闘いが今、始まろうとしていた。



その二人の闘いの前に、樹と裏男に飲み込まれた砂亜羅に一体何があったのか?



砂亜羅の死について伝えねばならない。



――裏男の体内の中



砂亜羅「ここは一体何処だ!?」



亜空間に戸惑う砂亜羅。



ズズズ・・・



「ここは裏男の体内にある亜空間だ」



砂亜羅「お前は樹・・・」



砂亜羅の目の前に姿を現したのは闇撫の樹であった。


驚く砂亜羅に向かって樹は呟く。



(ニヤッ)
樹「俺の領域(テリトリー)にようこそ」



砂亜羅「“俺の領域”だと?まさか、この化物はお前の!?」



樹「そうだ。お前を飲み込んだのも、あちらの二人を飲み込んだのも俺の可愛いペットだ」



そう言うと樹の右手から光が一瞬だけ放出された。



ジ・・・



放出した光は亜空間内に何かを作り出そうとしていた。



砂亜羅「これは!?」



樹の右手から放出した光が亜空間内に作り出した物。それは映像であった。



その映像には砂亜羅とは別の裏男に飲み込まれて、その体内にいる北神と黎明の姿が映し出されていた。



砂亜羅「あの女は誰だ!?」



二人の側に樹と同じ髪の色をした美しい女性が一緒にいたのだ。



樹「俺と同じ闇撫だ。名前は皐月。一言で言えば俺の協力者といったところだ」


砂亜羅(協力者??)



映像からは北神と黎明は空間から姿を現した皐月に驚いている様子が映し出されていた。



樹は映像の黎明に視線を向ける。



樹「人間界で蔵馬に殺されたと聞いていた黎明が生きていたとは驚いたよ」



砂亜羅「それは私も驚いた。だが、生きていたとはいえ、黎明は記憶を失っている」



樹は砂亜羅の記憶という言葉に直ぐに反応した。



樹「記憶か・・・、なるほど。黎明を見つけたまでは良かったが、記憶がない為に一緒に行くのを拒まれて戦闘になった。おそらくはそんな所だろう」



砂亜羅「うるさい!!」



樹(フッ、図星か。だが、黎明に記憶がないというのは面白いな)



砂亜羅「今は黎明の事はどうでもいい!ここはお前の領域と言ったな。何が目的で私をここに連れ込んだ!!!?」



砂亜羅はわけも分からずに突然、樹の裏男に飲み込まれた事に強く腹を立てていた。



樹「お前をここに来てもらったのはお前を俺の策に利用する為だ」



樹がそう言うと、映し出されていた北神達の映像は消えた。



それと同時に樹の妖気が攻撃的な妖気に変化していた。



(ニヤッ)
樹「但し、死体でな」



樹は挑戦的な笑みを砂亜羅に見せる。



その樹の笑みに砂亜羅は一気に頭に血が上る。



砂亜羅「ふざけるな!!私から見れば取るに足らない妖怪の癖に生意気な口をきくな!!!」



樹に対して強い殺気を放ち始めた。



樹「俺はお前を殺す事が出来るが、お前は俺を殺す事は出来ない」



砂亜羅「何をほざく!!!」



ブォォォォォ!!!!!



砂亜羅は魔光気を放出し始めた。



樹「その取るに足らない妖怪にお前はこれから殺されるのだ」



樹の言葉にますます腹を立てる砂亜羅。



砂亜羅「黙れ!!死体になるのはお前だァァァァァ!!!!」



剣を高く掲げると一気に樹に斬りかかっていく。



黎明に大きな傷を負わされているとはいえ、砂亜羅から見れば、樹はたかがB級妖怪である。彼女の相手ではない。



この一撃で樹を真っ二つにする自信が砂亜羅にはあった。



だが、砂亜羅は自分の目を疑う事になる。



ビューー!!!



それは樹の眉間を狙って砂亜羅の剣が振り下ろされた瞬間に起こった。



樹「無駄だ」



静かに樹は呟く。



パシッ



樹は砂亜羅の剣を片手で軽く受け止めた。



砂亜羅「何だと!?」



砂亜羅に衝撃が走った。



全く相手にもならないと思っていたB級妖怪に片手で剣を軽く受け止められたからである。



樹「言い忘れたが、俺の領域は俺が許可しない者はその力の半分も発揮出来ない」



キュンンンンン



樹は砂亜羅の剣に妖気を込める。



樹「お前の魔光気がいかに巨大だとしても、その胸の傷と俺の領域内では満足に闘えない筈だ」



パキン!!



砂亜羅の剣が真っ二つに折れた。



砂亜羅「私の剣が!?」



樹は折れた剣の一部を砂亜羅に見せつけた。



樹「さらに付け加えると領域内では俺の力は僅かではあるが増幅もされる」



ズズズ・・・



樹の両サイドから樹の影の手が姿を現した。



砂亜羅「こいつらは一体!!?」



砂亜羅に向かって行くように樹は静かに影の手に語りかける。



樹「影の手よ、封じろ」



グォォォォォ!!!!!



樹の言葉に反応した影の手は砂亜羅に向かって行った。



砂亜羅「くっ!化物め!!!」



砂亜羅を挟むような形で砂亜羅の両サイドで影の手は止まる。



ジジジ・・・



そして電磁波の様なものを砂亜羅に向かって放出した。



砂亜羅「な、何だ!!?身体が動かない!?」



グググ・・・



砂亜羅は必死に身体を動かそうとしたが、影の手の力によって動きを完全に封じられた為に、身動きが全く取れなかった。



樹「いくら動こうとしても無駄だ。影の手はお前の動きを完全に封じた」



砂亜羅「おのれーー!!!」



砂亜羅の大きな声が亜空間内に響き渡る。



樹「死んでもらう」



樹はゆっくりと砂亜羅の側に近付いて行く。



(キッ)
砂亜羅「樹ィィィィ!!」


鬼の形相で樹を睨みつける。



鬼の形相で樹を睨んだ砂亜羅であったが、樹がゆっくりと近付いて来るにつれて、その表情が徐々に恐怖で歪んでくる。



樹に攻撃が通用せずに剣は折られた。そして影の手によって完全に動きを封じられて身動きすら出来ない。


まさに絶望的な状況であった。砂亜羅の命は完全に樹の手に握られてしまったのだ。



死の恐怖が砂亜羅を襲う。


もはや、死の恐怖に支配された砂亜羅は、先程までの抗戦的で男勝りであった砂亜羅ではなくなってしまっていた。



スッ



樹は右手を砂亜羅に差し出す。



砂亜羅(ビクッ)



その表情は怯えていた。



樹は砂亜羅に右手が触れる直前で手を止めていた。



砂亜羅は恐怖のあまり、ブルブルと身体を小刻みに震わせている。



樹はその砂亜羅の反応を楽しむかの様に見ていた。



そして止めていた右手を動かすと、砂亜羅の美しい金髪をその手で優しく撫で始めた。



樹「綺麗な髪だ」



砂亜羅(ゾクッ)



砂亜羅の背筋が凍りつく。


砂亜羅「ィ、ィャァ・・・」



恐怖の中で振り絞るかの様に小さな砂亜羅の声。



砂亜羅の目から涙が徐々に溢れ出てくる。



止まらない涙。



樹「俺が怖いか砂亜羅?十二人の中では女の身でありながら、袂と並ぶ残虐な戦士として恐れられていたのにな。メッキが剥がれてしまえば、只の“か弱い女”だったとは笑わせる」



樹の“か弱い女”という言葉に砂亜羅は過剰に反応した。



砂亜羅「黙れ黙れ・・・!」



砂亜羅自身も死の恐怖で女としての弱い自分が出てくるとは思いもしなかった。だが、涙は止まらない。



樹「お前がそんな泣き虫だとはな」



砂亜羅「クソッ・・・」



屈辱に震える砂亜羅。



樹「お前の怒った顔はとても美しいと思うが、それ以上に俺が美しいと思う女性がいる」



そう言うと撫でていた砂亜羅の髪から右手を放した。


樹「それは“ナル”と言う女性だ。彼女は俺の前にしか現れない存在」



樹はそう呟くと遠い目をした。



ナルとは仙水忍の分裂した七つの人格の一つで、唯一の女性人格であった。



そして樹は砂亜羅に顔を近付ける。



砂亜羅(!?)



樹(ニャッ)



スーー



目から溢れ出て頬まで流れ落ちている涙を舌で下から上に向かってなぞる様に舐め上げた。



そして砂亜羅の耳元で囁く。



樹「そう。彼女はお前と同じ泣き虫だったよ」



樹が妖しく笑う。



砂亜羅の恐怖はピークに達した。



砂亜羅「イヤァァァァァ!!!!!」



大きな声で泣き叫んだ。



樹「いい声だ。忍にも聞かせてやりたいぐらいだ」



そして右手を砂亜羅の腹部に当てたのだった。



砂亜羅(!!!)



樹「フィナーレだ」



ドーーン!!!!



衝撃波を砂亜羅の腹部に放った。至近距離から放たれたその威力は凄まじいものであった。



砂亜羅「ガハッ!!」



口から大量の血を吐き出した。



ピシピシピシ



そして砂亜羅が身に纏っている鎧全体にヒビが入ったのだった。



砂亜羅の身体は衝撃波では吹き飛ばなかった。影の手が砂亜羅の身体が飛ばない様にその身体を押さえていたのだ。



樹「今の一撃でも死なないのか?流石は比羅の妹だ」


ガシッ



顔が下を向いた砂亜羅の髪の毛を掴んで樹の方に向けさせた。



砂亜羅(ぅ・・・)



樹「俺はお前の死を利用して比羅を動かす」



砂亜羅(ひ、比羅を・・・)



樹「双子の妹であるお前が死ねば比羅は怒り狂うだろう。俺は比羅の感情を操って、あいつにはある世界を潰してもらう」



そう言うと樹は掴んでいた砂亜羅の髪の毛を放した。


そして再び砂亜羅の腹部に右手を当てた。



砂亜羅に止めを刺す為に。


砂亜羅「た・・・助け・・・て・・・」



砂亜羅は涙を流して命ごいをした。



樹「フフ、お前の泣き虫な所は“ナル”に良く似ているよ」



砂亜羅の額に軽くキスをする。



そして・・・。



ドーーン!!!!!



砂亜羅の腹部に二発目となる衝撃波を放った。



衝撃波の威力で砂亜羅の鎧は大きく破損したのだった。



樹「影の手よ、放していいぞ」



ドシャッ



砂亜羅の身体はその場に倒れた。



倒れた砂亜羅を見つめる樹。



樹「俺とした事が少し喋り過ぎたな」



ズズズ・・・



暫くして空間から皐月が姿を現した。



皐月「予定通りに殺したの?」



無惨な姿となった砂亜羅の姿を見ながら樹に問いかける。



樹「虫の息さ。中々しぶとい。だが、直ぐに死ぬ。おそらくは比羅が砂亜羅を捜しに来るだろう。発見しやすい様に地上の見張らしの良い場所に捨てておいてくれ」



(ニコッ)
皐月「分かった」



そして皐月は砂亜羅の身体を肩に担いだ。



樹「あの二人はどうした?」



皐月「そのまま亜空間内に置いてきたよ。逃げる事は出来ないからね」



樹「あの亜空間にはイチガキの数体の実験体と雷禅の身体がある。見つけたら驚くだろうな」



皐月「フフ、でしょうね」


楽しそうに笑う二人の闇撫。



皐月「妹の死に逆上した比羅は簡単に騙せると思うけど“あの男”は厄介よ」



樹「ああ、分かっている」


皐月「じゃあ、私はいくよ。イチガキが魔界の大会に出場させている実験体がどの程度のものか見てくるよ」



樹「早く戻れよ皐月」



皐月「ええ」



ズズズ・・・



そして皐月は砂亜羅を連れて消え去った。



皐月の消えた後を見つめながら樹は呟く。



樹「俺の策はこれで第一段階が完成だ」



この後、比羅は砂亜羅の変わり果てた姿を発見する事になるのであった。



渦巻く樹の陰謀。樹は何故、砂亜羅を殺したのか?その狙いがもうすぐ明かされる。



続く
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