幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――魔界統一トーナメント


この大会の本選に参加している選手達は幽助達や雷禅の昔の仲間達、躯や黄泉といった多くの強者達で構成されている。



激しい闘いで放出される巨大な妖気が渦巻く中で、選手達も自身の闘いや試合の観戦にその意識を強く集中していた。



会場へと続く道の中で行われた北神達と砂亜羅の闘い。北神達の闘いに気付いた大会の参加者は一部の者を覗いては殆どいなかったのである。



同時期に大会で行われた蔵馬と電鳳の闘いに比べたら遥かに小さなこの闘い。



そしてこの小さな闘いこそが、ある世界を大きな危機に導くきっかけとなるのであった。



――会場を一望出来る崖の上



樹「弥勒、砂亜羅が何者かと抗戦したのは知っているだろう?」



それが樹の話しの始まりだった。



弥勒「ああ。おそらくは二人。一人は妖怪だね。もう一人はよく分からなかったよ。一つだけ言えるのは感じた気はそれほど大きな気ではなかった」



樹「流石だ。弥勒は気付いていたみたいだな」



弥勒「まあね。あの時に気付いていたのは比羅と駁と私と烙鵬(らくほう)だけだった。後の者は大会に気を取られていたからね」



四人は砂亜羅が何者かと闘っていたのは分かっていた。



だが、砂亜羅は抗戦的な性格の為に、四人はたまたま見つけた妖怪を暇潰しに攻撃を仕掛けたのだろうと思っていた。



彼等はそれが砂亜羅の鬱憤の捌け口になれば良いと放置していたのだ。



弥勒「砂亜羅が闘ったとかいう妖怪は何者か分からないのかい?砂亜羅と同時に彼等の気も消え去った」



樹「何者かは知らないが、彼等は砂亜羅と闘って、力付きた様で、近くで二人の妖怪が死んでいた」



もちろんそれはフェイク。


樹は会場の近くにいた二人の妖怪を殺害して、北神と黎明の身代わりに使ったのだ。



弥勒は視線を比羅に移す。比羅もそれを確認したのかという事を問いかける弥勒の視線であった。



比羅もその視線に気付いて口を開いた。



比羅「私も死体は見た。砂亜羅を発見してから直ぐに樹が現れて、彼から聞いたのでな」



弥勒(比羅が砂亜羅を見つけて樹が直ぐに現れた?何か狙って現れたようなタイミングだよね)



樹「砂亜羅が闘った妖怪達に加勢した者がいた」



弥勒「加勢した者?」



樹「ああ、痕跡も残っていたしな」



そして樹の口からその者の名が弥勒に告げられた。



樹「霊界の者だ」



弥勒「霊界だって!?」



意外な樹からの言葉に流石の弥勒も驚いた。



砂亜羅を殺した樹の目的。


それは双子の妹を殺された比羅の怒りの矛先を霊界に向けさせて滅ぼす事であった。



弥勒(霊界?そもそも霊界が何故、妖怪に加勢して砂亜羅を殺すのか?私達は霊界とは敵対もしていないし、これからもする気もない)



弥勒は視線を比羅に移す。


弥勒(それに霊界には防御糸、いわゆる、守に優れた者ばかりだ。私達を倒せるとは信じがたい。比羅はどう思っているのか・・・)



弥勒「比羅は砂亜羅が霊界の者に倒されたと思うのかい?」



弥勒は比羅に問いかけた。


その言葉に樹が直ぐに反応した。



樹「その言葉は聞きずってならないな弥勒。俺が嘘を言っていると言うのか?」


弥勒「いやいや、そうじゃないよ。只、私達を倒す力を持つものがいるという話しを聞いた事がないのでね」



樹「聞いた事がない?弥勒は霊界の事を知っているのか?」



弥勒「多少はね。私が独自に調べた限りでは霊界には私達を倒せる存在はいないと思うのだが」



樹(比羅は霊界の事を殆ど知らなかった。流石は弥勒だ。守秘的な霊界の情報を知っているとは驚いたな)


樹は弥勒に対して次の手をうった。



樹「弥勒は知っているか?霊界は選び抜かれた最強のエリート集団の霊界特別防衛隊と呼ばれる集団がいる。彼等が妖怪達に手を貸したのだ」



勿論、嘘である。



実際の霊界特別防衛隊は攻に限っては仲間達と力を合わせればA級妖怪と闘う事が出来る程度。個人個人の戦闘力は決して高くない。


だが、守には非常に優れた集団である特防隊はS級妖怪を遥かに凌駕する最強クラスの力を持っていた。



樹(霊界の情報を知っていたのは予想外だったが、流石の弥勒も霊界の特防隊の事までは知らない筈だ)



弥勒「知らなかったよ。なるほど、そんな集団がいるのかい?そんな者達が妖怪に力を貸したなら可能性はあるね」



実際に弥勒は特防隊の存在まで知っていた。彼は霊界の隅々まで調べていたのだ。



弥勒(おそらく樹は嘘を言っている。樹は私が特防隊の存在を知らないと思っているようだね。彼等では砂亜羅を制する事は出来ても命を奪う事までは出来ないよ)



より樹に対して疑念を強める弥勒。



比羅は腕を組み黙って樹と弥勒の様子を伺っていたがここで口を開いた。



比羅「樹、後は私が話そう」



樹「比羅」



比羅「弥勒、私がお前と二人で話しがしたいと先程言ったのは、お前には賛同してもらいたい事があっての事だ」



比羅の目からは何かの決意が感じられる。



弥勒「え?それは何だい比羅?」
(その目は一体何を考えている比羅?)



比羅「今から私は霊界を攻める。お前には理解してもらいたい」



弥勒「何だって!?」



予想外の比羅の言葉には弥勒も流石に驚いた。



樹(フッ)



比羅の言葉に樹は不敵な笑みを浮かべた。



比羅「樹が言った通りなら、私は妹を殺した霊界が許せん。砂亜羅と闘った妖怪が死んだのなら、この怒りの全てを霊界にぶつけてやる」



比羅から凄まじいまでの殺気が放たれていた。



弥勒(凄い殺気だ。だが、今は比羅に霊界を攻めさせるわけにはいかない。比羅を止めないと)



弥勒は比羅の側に駆け寄る。



樹は弥勒の表情から比羅の行動を止めようとする事を直ぐに察知した。



樹(俺が比羅とお前の前に姿を現したのはお前は必ず比羅の決意を返させしまうと睨んだからだ。俺はそれを阻止する)



弥勒「いいか比羅、気持は分かるが、私達の目的は桑原を捕らえて手に入れる事だ。仮に樹が言っている事が正しいとしても霊界を今の段階で攻めるのは間違っているよ」



樹(弥勒、放たれた矢を止めさせはしない)



樹は弥勒の側に近付いて行く。



樹「これを見ろ弥勒」



スッ



樹は右手を前に出すと手の平の上に何かを呼び出した。



それは霊界との通信機。幽助が人間界から霊界との通信用に持ったきた物であった。



弥勒(何かの通信機っぽいね・・・)



弥勒「樹、それは何かな?


樹「さっき、比羅にも見せたが、現場に落ちていた霊界との通信機だ。お前は俺の言葉を今一つ信じていない様だからな。これが霊界が妖怪に手を貸した証拠だ」



弥勒「何で樹にその通信機が霊界のものだと分かるのかい?」



樹「俺のパートナーだった者がこれと同じ物を持っていた。俺はかっては霊界の霊界探偵をしていた者のパートナーをしていた。特別防衛隊の存在を知っているのもその為だ。」



霊界探偵のパートナーをしていた事を彼等の前で樹が話したのは初めてであった。



弥勒(樹は霊界と繋がりがあったのか)



比羅「それは初耳だ。だが、それで納得がいった。お前が霊界の事に詳しいのはそのせいか」



樹「ああ」



弥勒(樹の話しはどうしても私の心に大きく引っかかる。私達に大きな何かを隠している)



そして弥勒は比羅に浮かんだある疑問を問いかける。


弥勒「比羅、お前は砂亜羅を見つけた時には彼女は既に死んでいたのか?」



比羅「・・・私が見つけた時には虫の息だったよ。俺に言葉を遺して直ぐに息絶えた」



比羅の言葉に一瞬、樹の顔色が変わった。



樹(直ぐに死ぬと思っていたが、比羅が発見するまで生きていたのか?言葉だと?あの女、一体何を比羅に話したのだ)



その変化を弥勒は見逃さなかった。



弥勒(樹は今の比羅の言葉で、一瞬だが顔色が変化した。砂亜羅の死について私達に隠しているのは間違いない)



樹(だが、比羅は霊界が手を貸したという私の言葉を直ぐに信じた。砂亜羅は俺の事は話していないようだ。話していれば比羅は俺を殺しにかかるだろうからな)



弥勒「砂亜羅は何という言葉を比羅に遺したのかい?」



比羅は目を瞑って砂亜羅の最期の言葉を話した。



比羅「虫の息だった為に完全には聴き取れなかった。私が聴き取れたのは“うらお”までだった」



砂亜羅の最期のメッセージは裏男と比羅に伝えようとしていたのだった。



樹(あの女、俺の名ではなく裏男と伝えようとしたのは妙だな)



弥勒(うらお??何かの固有名詞か何かの一部か?)


比羅「弥勒は私が霊界を攻める事はやはり反対するのか?」



弥勒「ああ、反対だ。王には何と言う?王なら私と同じく必ず反対する筈だよ」


比羅「王・・・」



比羅の脳裏に比羅達のやって来た世界にいる王の顔が浮かんだ。



そして弥勒から王の名が出た事で比羅に僅かながら迷いが生じた。



樹(弥勒め・・・)



弥勒「それに仮に霊界を今から攻めたとしたなら、多くの時間を費やす筈だ。大会は終わってしまうよ。そうなれば樹の策は水の泡と消える。私達が何の為にここに来た意味が無くなる」


比羅達は樹の提案した大会後に弱った魔界の者達を相手に、戦力を結集して彼等から桑原を奪う策の為に魔界にやって来た。弥勒自身もこの策には異論はない。


比羅の言葉に従い霊界を攻めた場合は魔界のトーナメントは終わってしまう。



大会の終わった彼等は次々と傷を癒していくだろう。そうなれば桑原を奪う事が困難となってしまう。



弥勒はその事を比羅に説いいたのだ。



次に弥勒は樹に視線を向けて問いかけ始めた。



弥勒「樹は比羅が霊界を攻めるという事はどう思っているのかい?昔は霊界と接触があったのなら、反対だろう?」



樹「接触があったとはいえ、俺は今は霊界とは縁もゆかりもない。俺は攻めるのはむしろ賛成だ」



弥勒「賛成?樹は比羅を止めなくてもいいのかい?霊界を攻めるとなれば根本から樹の策は崩れる事となるよ」



樹に問いかけた弥勒に比羅が代わりに答える。



比羅「弥勒、樹は私が霊界を攻める事を提案してくれた。策を崩さず、時間もかかけずに霊界を攻める方法もあるそうだ」



弥勒(やはり霊界を攻めるように比羅をたきつけたのは樹か)



鋭い目で樹を見た瞬間に目が合う二人。



弥勒・樹(・・・)



樹(砂亜羅の単独行動を見かけて俺はこの策を思いついた。忍が蘇った時に何かと邪魔になる霊界をかたづける策をな。弥勒、邪魔はさせんぞ)



弥勒(樹、何を企んでいるのかは知らないが、お前の好きにはさせないよ)



一瞬の沈黙。そして先に口を開いたのは樹だった。



樹「比羅、霊界を攻めるなら楽に攻める方法がある。俺に任せておくがいい」



比羅「・・・ああ」



弥勒(樹、私は意地でも比羅を止めてみせるよ)



その時、比羅達の背後から声が聞こえてきた。



駁「霊界を攻める?」



他の同士達が比羅達の元に現れた。砂亜羅の亡骸を同士の一人がその腕に抱きかかえている。



比羅「お前達どうして?」


袂「比羅がいきなり砂亜羅の変わり果てた姿を抱いて戻るなり、弥勒と何処かに消えたら気になりますよ。一体何があったのですか?」



辣姫「今、霊界を攻めるって言っていたね。何か分からないけど面白い事になっているじゃない」



駁「比羅、どういう事だ。理由を話せ」



弥勒は同士の一人に視線を移した。



弥勒(まずい、あいつも一緒に来ている)



樹(これは俺に都合が良い利用させてもらうぞ)



弥勒と樹。二人の闘いはある一つの結論に向かおうとしていた。



続く
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