幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――樹の陰謀によってその命を落とした砂亜羅。



その死により、比羅達の状況が大きく変化しつつあった。



無敵の赤いフィールドを持ち、十二人の中でも最強の男と称された男・比羅。



双子の妹の死に怒りに燃える比羅はリーダーとしての冷静な判断力が失われていた。



その心の隙間を樹に利用された比羅は霊界を攻めようとしていた。



それを止める事が出来るのは弥勒であった。



比羅の霊界を攻めるのを止めようとする弥勒。そして霊界を滅そうとする樹。



樹の霊界を滅ぼそうとする真の狙いとは?



智将と闇撫の二人の第一ラウンドとなったこの霊界を巡る闘いは終幕へと進んでいたのだった。



――会場を一望出来る崖の上



弥勒(まずい、あいつも一緒に来ている)



樹(これは俺に都合が良い利用させてもらうぞ)



二人の視線の先には砂亜羅を抱きかかえている男がいた。



その男の名は烙鵬(らくほう)。



同士達の間でも強い影響力を持つこの男は、黒髪の短髪、筋肉質のいかつい容姿でゴリラみたいな大男であった。



烙鵬はかって自分を倒した比羅を敬愛していた。



彼は強い者が全てという信念を持っている為に自分より強い者に対しては強い敬愛を示す。



特に最強の力を持つ比羅に対しては同士というよりは主従の様な関係で、忠誠を誓っていた。



弥勒と、この場にいない楽越も烙鵬に戦闘で勝った事はあるのだが、弥勒は戦闘より学問を好む為に烙鵬は毛嫌いしていた。



そして楽越は己の気持を優先して、勝手に大会に参加する等、命令を無視する為に軍人気質の烙鵬とは合わない。



烙鵬は弥勒と楽越の強さには一目を置いてはいるもの比羅に対する思いとは雲泥の差があった。



樹(おそらくは比羅を崇拝するこの男は霊界を攻める事には賛同する。俺の策に役立つ筈だ)



弥勒(マズイね。烙鵬は比羅を崇拝しているし、彼に私は嫌われているからね。厄介だよ烙鵬・・・)



二人の思惑の中で比羅は同士達に向かって話し始める。



比羅「すまない。お前達にも後で話すつもりだった」


駁「それは別にいい。俺達は事情を聞きたいんだ」



そして駁は比羅の側にいた樹に視線を向ける。



駁「フン。樹、お前も魔界に来ていやがったんだな」


樹「お前達が魔界に向かってからほどなくしてな。弥勒にも言ったが、策を立てた俺が来ないわけにはいかないだろう」



駁「チッ、お前の力なんぞはたかが知れている。大した戦力にもならねーのによー」



駁は妖怪である樹に対しては良い感情を持っていない。得体の知れない者だと警戒しているのだ。



辣姫「いいじゃないの駁。イケメンが多いにこした事はないのだし」



駁(ピクッ)



イケメンという辣姫の言葉に反応する駁。



駁「辣姫、いつもいきなり間に入って来るな。何がイケメンだ!顔は関係ないだろう!それに男は顔じゃねー!!闘いでの強さだ」


拳を握り締めて力こぶを作りながら己の理論を語る。


辣姫「そんな筋肉を見せるなんて筋肉バカの楽越と一緒じゃない。むさくるしいったらありゃしない」



駁「む、むさくる・・・」



一瞬、言葉に詰まる駁。



駁「誰がむさくるしいだ!コラァ!!!」



自身の赤い髪と同じ様に顔を真っ赤にして怒る。



ツンツン



駁を夢苦が指でつつく。



駁「夢苦、何だ?」



スッ



夢苦は辣姫に向かって指を差した。



夢苦「聞いていないですよ」



駁「なぬっ」



駁が辣姫に視線を向けると、辣姫は樹に近付いて、両手で樹の手を握り締めていた。



辣姫「味方は多いにこした事はないわ。樹、私は大歓迎よ」



樹に顔を近付けてニコリと笑う辣姫。



樹「あ、ああ・・・」



辣姫「フフ、照れて可愛いわね。私に惚れなさい。惚れたら私が樹を可愛いがってあげるわよ」



樹は照れているのではなく困惑しているのだ。



樹「い、いや・・・、それは・・・」



辣姫「フフ、樹は意外と純情ね」



流石の樹も辣姫の前には少したじたじとなっていた。


駁「止めんか、色欲魔」



グイッ



駁が後ろから辣姫の髪を引っ張る。



辣姫「グェッ!!?」



髪の毛を引っ張られて、首がガクッとなった為に思わず奇声を上げる辣姫。



辣姫「い、痛いじゃない!!誰が色欲魔よ!!ドチビのクセに!!」



辣姫は髪を引っ張られた事に腹を立てて駁に文句をまくし立てる。



駁(プチッ)



駁の禁句に触れる辣姫。



駁「誰がドチビだァァァ!!!!」



辣姫「チビにチビって言って何が悪いのよ」



駁「ま、ま、また言いやがったな!!」



再び喧嘩を始めた駁と辣姫。



もはや子供レベルの喧嘩である。



弥勒「この状況で喧嘩が出来るとはね〜」

(やれやれ、一気に場の空気が変わってしまったよ・・・)



二人の様子を見ながら苦笑いを浮かべている。



烙鵬「止めんか!!」



烙鵬が喧嘩をしている駁と辣姫を一喝。



駁「ら、烙鵬」



辣姫「ゲッ、烙鵬・・・」



駁と辣姫は烙鵬の一喝で喧嘩を直ぐに止めたのだった。



弥勒(流石は烙鵬だね。同士達の間でも一目おかれているからね。一喝で二人の喧嘩が収まったよ)



烙鵬「今はそんな事をしている場合ではないだろう。妹を失った比羅殿の身になってみろ!」



駁「す、すまない」



辣姫「ごめんなさい」



(ニヤッ)
比羅「すまんな、烙鵬」



先程まで凄まじい殺気を放っていた比羅が笑顔を烙鵬に見せる。



烙鵬「いえ、大した事では」



比羅は軽く烙鵬の肩を叩くと同士達に向かって霊界を攻めるという事を伝えた。


詳しく事情を語り出した比羅の話しを聞き入る同士達。



そして比羅は話しを終えた所で、同士達に問う。



比羅「私が霊界を攻める事に異議がある者はいるか?」



袂「私は構いませんよ。久しく血を見ていませんから、腕がなります」



辣姫「私もいいよ。砂亜羅は仲間だからね。仇を討つってのならやってやるわよ」



駁「俺もいいぜ」



夢苦「僕は皆さんが決めた事に従います」



比羅「そうか」



弥勒「おい、比羅!」



比羅の名を叫ぶ弥勒。



比羅(・・・)



だが、比羅は弥勒の方を振り向く事はなかった。



弥勒(比羅は王の名を出してから少し迷いを生じていた。もう少しだったのに、同士達がやはりこの場に来たのがまずかったよ)



樹(フッ、霊界を攻める事に賛同する者が多い。そして・・・)



樹の視線の先。比羅の話しを聞き終えた烙鵬も口を開く。



その烙鵬の口から出た言葉は意外な言葉だった。



烙鵬「比羅殿、俺達が魔界に来たのは桑原の捕獲だ。今はそちらを優先にすべきと思います。感情に左右にされてはいけないですぞ」


樹(何!?)



弥勒(烙鵬・・・!)



同士達の中でも、最も比羅を崇拝している男の意外な言葉に驚く二人。



比羅「何だと!」



比羅も烙鵬の言葉に驚いた様だ。



烙鵬「比羅殿、俺達には霊界を攻める時間がない筈だ。樹の策を潰す事になる。貴方は砂亜羅の死に直面している為に仕方がないとはいえ、リーダーとしての冷静さに欠いておられる」



比羅「まさかお前が反対するとは思わなかったぞ烙鵬」



先程は烙鵬の言葉で落ち着いていた比羅が今度はその烙鵬に向かって殺気が放ち始めた。



弥勒(烙鵬、私と同じ考えを・・・)



烙鵬は冷静に状況を分析する事に優れていた。



烙鵬は比羅を主の様に敬愛していただが、彼は霊界を攻めるのは魔界に来た目的と大きく外れている為に比羅を弥勒と同様に諌めたのだった。



予想外の者が弥勒と同じ考えを持っていた事を喜ぶ。


弥勒「比羅」

(今が比羅を説得する好機)


弥勒の呼びかけに比羅が弥勒に視線を移す。



そして弥勒が比羅の説得に動こうとしたその時、樹が動き出す。



樹「待て烙鵬!」



弥勒の動きを遮るかの様に大きな声で烙鵬に声をかけた。



比羅も視線を弥勒から樹に移した。



弥勒(樹、打つ手が早いね・・・)



樹「弥勒も烙鵬と同じ事を言っていたが、そこは俺に策がある。霊界を攻める方法については俺が話そう」


烙鵬「なるほど、それは聞きたいものだ」



そして樹は誰もいない場所を見つめて、この場にいない人物の名を呼んだのだった。



樹「皐月、いるのだろう?」



「いるよ」



ズズズ・・・



空間の中から闇撫の皐月が姿を現した。



皐月「驚いているようね」


駁「誰だ貴様!!」



弥勒「君は何者かな?」

(樹と同じく空間から出てきた。彼女も樹と同じく闇撫なのか?)



弥勒達の問いかけに樹が答える。



樹「お前達には紹介していなかったな。彼女は俺と同じ闇撫の皐月。俺の策にはこの皐月が必要だ」



(ニコッ)
皐月「宜しくね」



辣姫(綺麗な女ね。嫌いだわ)



辣姫は皐月を見るなり、美しい皐月に敵対心を持ったのだった。



弥勒(闇撫の皐月か・・・。樹と同様に嫌な笑みだよ)



そして樹は霊界を攻める策を話し始めた。



樹が話した策は霊界に入る為に霊体となって身体をこの場に残して、闇撫の能力を使い、亜空間の中を移動する事。



亜空間の中は非常に入り組んでいるが、次元を自由自在に行き来出来る闇撫が案内する事で驚く程早く移動する事が可能であるのだ。


皐月は10年以上もの間、仙水と姿を消した樹を探して様々な場所を空間を通って探していたのであらゆる道に精通知っていた。



霊界への近道と直ぐに侵入出来るルートまでも。



かって仙水と樹が必死になって開けた魔界への扉。霊界が人間界と魔界との結界を張っていた時でさえ、皐月は別の侵入ルートすらも知っていたのだった。



樹「という訳だ。桑原捕獲の策を潰さずに、尚且勝算はある。俺を信じろ」



樹を見つめる烙鵬。



そして・・・。



烙鵬「分かった。そこまで自信を持って言うなら納得するしかないな」



樹「フッ、分かってくれて良かったよ」



比羅「お前はもう反対はしないのだな烙鵬」



烙鵬「策が機能するなら反対する理由はありません。策に従うとなれば俺は比羅殿について行きます」



比羅「フッ、そうか」



烙鵬の言葉に比羅から殺気が消えていく。



駁「そういえばあいつがいないぞ」



駁は同士達を見回す。



袂「ああ、彼なら難しい話は面倒だから、試合の方を見ているって言っていました。話しが決まったらそれに従うとも言っていましたよ」



駁「チッ、全く楽越と同じで困った奴だぜ」



烙鵬が賛同した為にこの場にいる同士達の中では、霊界を攻める案に賛同していないのは弥勒だけとなってしまっていた。



そして樹は弥勒の方に視線を移した。



樹(ニヤッ)



不敵な笑みを浮かべたその表情は「俺の勝ちだ」っと言っている様にも見える。


弥勒は同士達の気質を知っている為に今の自分が何を言っても霊界を攻める事を止める事は不可能だと感じていた。



弥勒(私には霊界の仕業とはどうしても思えない。もし、樹の虚構なら無益な血を流してしまう。霊界を攻めるのが止められないなら、私は少しでも血が流れるのを防ぐ策をとらねば)


そして弥勒は次の行動に出たのだった。



続く
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