幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜
□大会編０２
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――霊界を巡る智将と闇撫の闘い。
樹の陰謀である霊界を滅ぼす策。
今、その策が現実に実行されようとしていた。
同士達の登場によって霊界を滅ぼそうとする樹の陰謀を止める事が不可能と判断した弥勒は次の行動を起こしたのだった。
――会場を一望出来る崖の上
弥勒の言葉は同士達を驚かせた。
弥勒「比羅、お前は霊界には行かずにここに残るんだ」
比羅(！)
烙鵬「何！？」
同士達(！！)
弥勒の言葉に比羅や烙鵬、その他の同士達も驚く。
弥勒(比羅、お前を霊界に行かせるわけにはいかない。これだけは阻止させてもらうよ)
烙鵬「何を言うのだ弥勒！霊界を攻めるというのに、妹を殺された比羅殿にここに残れと言うのは過酷だぞ！！」
弥勒(もちろんそれは分かっているよ。だが、霊界に比羅が行けば凄まじいまでの殺戮が行われる事になる。それだけは防がねばならない)
比羅「弥勒、砂亜羅を殺した霊界を攻めるのに私が行かないと思うのか？私は総力を挙げて霊界を叩き潰すつもりだ」
一瞬、比羅が弥勒に対して強い殺気を放つ。
駁「弥勒、何か比羅を行かせない理由でもあるのか？」
駁が比羅を遮るような形で弥勒に問いかける。
弥勒「まあね。比羅、霊界を攻めるのは私を除いた同士達が賛成したから、もはや止めるつもりはないよ。だが、この場はどうする？総力を挙げて霊界を攻めている間に、桑原を手に入れる好機がもしもあればそれを見す見す逃す事になるよ」
比羅「ぬっ」
駁「ああ、なるほどな。確かにその可能性はあるな」
樹(弥勒、何を考えている)
樹は弥勒の狙いが何かを探るべく必死に考え始めた。
弥勒「比羅、お前は王から命じられて桑原捕獲の総指揮を任せられた。その役目を果たすのがお前の使命でもある」
比羅「王・・・、使命」
弥勒「砂亜羅はお前の妹だ。私達にとっても砂亜羅は大切な同士。お前の気持は分かるが仇討ちは私情。任務とは切り離すべきだ」
その時、弥勒を毛嫌いしているはずの烙鵬が意外にも弥勒を援護した。
烙鵬「比羅殿、弥勒が言う事も一理あるかと思います。桑原をこちらに手に入れるのが俺達の最大の目的。お気持ちは分かりますが、砂亜羅の仇討ちはあくまでも私情となります。優先すべき事は桑原の捕獲です。全員がここから離れるわけにはいきません」
そして弥勒に視線を向ける烙鵬。二人の目が合う。
弥勒(烙鵬・・・)
烙鵬(勘違いするな弥勒。お前を援護したわけではない。俺はお前の案に賛成した。只それだけだ)
弥勒と烙鵬。二人の仲は決して良いものではないが、どこか通じるものが二人にはあった。
駁「よくよく考えれば、本体をこの場に残して霊魂体になって霊界に行くのだろう？どちらにしても無防備となる本体を守る為に誰か残らないといけないよな」
比羅「弥勒、烙鵬、確かにお前達が言う通り、私が行う事は私情・・・」
烙鵬の腕に抱きかかえられている砂亜羅の亡骸を見つめる比羅。
そして烙鵬に近付き砂亜羅の亡骸をその腕に受け取る。
樹の強烈な衝撃波を二発も全身に受けてボロボロに破壊された身体と鎧。そして黎明に剣で貫かれた深い胸の傷。
その亡骸は誰が見ても凄惨と言える姿であった。
比羅は砂亜羅の顔を見る。
そこには比羅と同じ顔があった。
自分の半身とも言える双子の妹の死。
何故、自分は妹を助けられなかった？
何故、同士達と別行動を取ろうとする妹の行動を止められなかったのか？
強い後悔の念が比羅を包み込む。
そして沸々と湧いてくる怒り。
どんどんその想いが抑えきれなくなる。
比羅「私情だが、妹のこの姿を見て黙っていられる私と思うか！！！」
比羅の感情が爆発。
弥勒「比羅！！」
ググッ
弥勒は感情を爆発させた比羅を抑えるかの様にその肩を両手で力強く掴む。
そして弥勒の口から出た言葉は・・・。
弥勒「霊界は私が攻略する」
弥勒の顔、それは智将としてではなく一人の戦士としての顔に変わっていた。
比羅(！！)
霊界を攻める事を反対していた弥勒の言葉に大きく驚く比羅。
弥勒「頼む。ここは私に任せてくれ比羅。霊界特別防衛隊は全員、私が生け捕りにしておく。お前の仇討ちはさせてやる」
樹(弥勒の狙いが読めた。霊界を攻めるのを止められないと判断したのか、今の比羅を行かせない事で少しでも霊界の被害を抑える策に変えてきたか)
弥勒の目的・・・。
それは比羅の殺戮を防ぐだけではなく、時間稼ぎでもあった。
時間を稼いでいる間に砂亜羅を殺した者が霊界ではない事を比羅に証明して見せるつもりなのだ。
比羅「弥勒・・・」
弥勒の見せる真剣な顔。そして絶対的に忠誠を誓う王から任せられた桑原捕獲の任務の総指揮としての責任。
妹の凄惨な亡骸を目の前にして高ぶる霊界への殺意。
様々な感情が比羅の中を駆け巡っていた。
樹(私のもう一つの策には比羅を霊界に行かせる方が都合がいい。それに今の比羅なら邪魔な霊界の連中をことごとく葬ってくれる筈だ)
弥勒「私が今までやってきた事で、お前に不都合があった事があるか？総指揮としてここに残ってくれ。霊界攻略は私を信じて任せて欲しい」
比羅「弥勒お前・・・」
少しは冷静さを取り戻した比羅。真剣な弥勒の言葉は比羅に届き始めていた。
樹「比羅」
樹は弥勒の策を防ぐ為に比羅に進言するべく動きを見せる。
スッ
だが、樹の前に烙鵬がそれを遮る様に立った。
烙鵬「何も言うな樹。後は弥勒に任せろ」
樹(烙鵬め！！)
比羅「・・・分かった」
弥勒は比羅を説き伏せたのだ。
グググッ
比羅は拳を強く握り締めた。
爪が皮膚に深く食い込み、肉が裂けて血が地面にゆっくりと流れ落ちていた。
弥勒(比羅、すまない。お前の気持は痛い程伝わるよ。だが、お前を霊界に行かせるわけにはいかない)
駁「しかし弥勒よ、砂亜羅を倒す奴らがいる霊界だろう？中途半端な戦力で大丈夫か？」
弥勒「そこにいる樹の仲間の皐月が道案内をするのだよね？」
皐月「まあね、私が貴方達を霊界まで連れて行くよ」
弥勒「それなら、ある程度の地形が分かれば私に任せてくれれば大丈夫。彼らを上手く撃破してみせるよ」
(嘘も方便。実際の霊界特別防衛隊には私達と闘えるだけの力はない筈だよ)
袂「それで誰がここに残って誰が霊界に行くのですか？」
弥勒「それはちょっと待って欲しい」
弥勒は比羅に視線を移し、問いかける。
弥勒「比羅、霊界攻略の指揮と人選は私に任せて貰えないか？」
比羅「分かった。いいだろう」
樹(今から弥勒を止める事は厳しいな。クソッ、烙鵬の邪魔さえなければ・・・)
弥勒は同士達を見渡す。
そして弥勒は一緒に霊界を攻める者を決め始めたのだった。
弥勒「袂、悪いけど、一人で試合を見ている困った君の瑞雲(ずいうん)をここに呼んで来てくれるかい？」
袂「分かりました」
袂は直ぐにこの場にいない同士の一人である瑞雲を呼びに行った。
駁「おい弥勒、まさか瑞雲の奴を霊界に連れて行くつもりか？」
(ニコッ)
弥勒「もちろんそのつもりだよ」
駁「おいおい・・・。霊界攻略にあの問題のある男を連れていって大丈夫か？」
弥勒「フフ、私に考えがあってね」
暫くして袂が瑞雲を連れてやって来た。
瑞雲は容姿淡麗で金髪の短い髪を逆立てているのが印象的な長身の男である。
瑞雲「ふぁ〜あ。眠たいぜ」
大あぐびをしながら目をしばしばさせる瑞雲。
駁「お前、試合を見るって言っておきながらその顔は実は寝ていたな？」
瑞雲「寝てねーよ。目を瞑っていただけだよ」
袂(寝ていたくせに)
駁「こんな時にお前は・・・」
額に青筋が立つ駁。
弥勒「まあまあ駁、彼はいつもの事だからいいじゃないか。それより瑞雲、霊界を攻めるのにお前の力を借りたい。私と一緒に霊界に向かうよ」
瑞雲「霊界？めんどくせーよ」
駁「め、めんどくさいだと！」
顔を真っ赤にして怒る駁。
瑞雲(ニヤッ)
怒った駁の顔を見ながら挑戦的な笑みを浮かべる。
駁「な、何が可笑しい？」
瑞雲「駁の顔」
(ブルブル)
駁「瑞雲・・・・！」
ググッ
袂「駁、話しが進みませんからここは抑えて下さい」
後ろから駁の小柄な身体を両手で捕まえる袂。
駁「放せ・・・」
袂はその細く華奢な身体を引きずられながらもズンズンっと前に出ようとする駁を必死に止めている。
駁と瑞雲のやり取りを見ていた辣姫が烙鵬に問いかける。
辣姫「ねぇ烙鵬、私と駁の喧嘩を止めた時みたいに怒鳴って止めないの？」
烙鵬「なんかいちいち止めるのも馬鹿馬鹿しくなってな」
辣姫「何よそれ。さっきは恐い声で怒鳴ったくせに」
口を膨らませてちょっと不満顔の烙姫。
駁「瑞雲・・・！！！」
ドスのきいた声で怒鳴る。
(ニッ)
瑞雲「へっ」
鼻で笑う瑞雲。
そして怒っている駁を気にする素振りもなく瑞雲は弥勒に話し始めた。
瑞雲「まあ、ここで試合をボーっと見ているよりはいいか。いいぜ。ついて行ってやるよ弥勒」
弥勒「そう言うと思ったよ瑞雲。宜しく頼むよ」
(ニッ)
瑞雲「任せておけって」
自信に満ちた表情で答えた。
弥勒は集まっている同士達の後方に視線を向ける。
弥勒「それと・・・、菜艶(さいえん)お前も来て欲しい」
菜艶「俺も？」
弥勒の呼びかけに、隠れるように同士達の後ろにいた男が前に出て来た。
男の名は菜艶。白い長髪でどこか頼りない弱々しい雰囲気が漂う男である。
比羅が先程まで放っていた殺気に驚いて、同士達の後ろに隠れていたのだ。
弥勒「ああ。“戦闘”でのお前は頼りにしているよ。宜しく頼む」
辣姫(クスッ、“戦闘”ね〜)
菜艶「わ、分かったよ」
ちょっとどもり口調で了解する菜艶。
辣姫「ったく、気が弱い男は嫌よ」
烙鵬「普段の姿は俺も気に入らんが、あれでも菜艶は戦闘になると、面白い様に別人の様に変わるからな。あいつの強さは認めている」
弥勒「それと夢苦、来てくれるかい？」
夢苦「はい。僕で良ければ力になります」
弥勒「頼んだよ」
弥勒は夢苦の頭を優しく撫でた。
(ニコッ)
夢苦「はい！」
夢苦はその礼儀正しさと素直さで同士達からマスコット的な存在として非常に可愛いがられていた。
そして弥勒は他の同士達を見回しながら告げた。
弥勒「霊界に行く同士は瑞雲、菜艶、夢苦とそして私を加えた四人だ」
同士達の中から、ついに霊界を攻めるメンバーが決定されたのだった。
続く