幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――霊界へ向かう者が決まった。



弥勒・瑞雲・菜艶・夢苦の四人である。



――会場を一望出来る崖の上



樹(霊界での血を流すのを最小限にする為に弥勒は血の気の多い者を避けて選んだな。だが、瑞雲を選んだのは分からんな。あの男は規律に縛られのを嫌う自由人。扱いづらく問題の多い男の筈)



そして弥勒は樹に視線を移す。



弥勒「樹、お前が提案した霊界攻め。その発案したお前は行くのかい?」



樹「悪いが俺は残る。流石に砂亜羅を倒す者が相手だからな、俺が役に立てるとも思わん。同行するのは道案内の皐月だけだ」



弥勒(予想通りだね。霊界攻めは他にも何か裏がありそうだよ)



二人の会話に駁が入ってくる。



駁「ケッ、情けない野郎だぜ。闘って死ぬのが怖いってか?」



樹「どうとってもらっても構わない。俺は俺のやり方でお前達の役に立つつもりでいる」



駁「まあ、こいつが行っても戦力にならねーのは目に見えてるしな。直ぐに死んじまうのが関の山だぜ」



樹「否定は出来ない」



駁「フン、妖怪が」



樹を見下す目で見ると駁はその場から離れた。



弥勒(駁はやはり樹を快く思っていないようだね)



比羅「弥勒、霊界を攻めるのはお前だが、王の命令にはない勝手な行動を取る責任は俺が全て負う。王は許さないかもしれない。だが、王に処断をされたとしても妹の仇を討ちたいのだ」



弥勒「分かっている。もう何も言わなくていい。霊界という世界を滅ぼすのだ。私もそれなりの覚悟で攻めるよ」



弥勒は比羅の腕に抱かれる砂亜羅の頬に手を置く。



弥勒(この姿を見ると、砂亜羅お前を殺した者に殺意が浮かぶよ)



そして皐月が弥勒に近付く。



皐月「霊界に行くには身体から霊魂体を起こす必要があるから、準備が出来たら一度みんなには眠ってもらうよ」



(ニコッ)
弥勒「分かったよ」



笑顔で返す弥勒。だが、その心の内は・・・。



弥勒(彼女は皐月という名前だったね。樹が行かないとはいえ、一緒に行く彼女の動向には気をつけないといけない)



樹と同様に警戒を強める弥勒であった。



菜艶「何か怖いな。ちゃんと元の身体に戻れるのかな・・・」



オドオドして心配そうな顔を見せる菜艶。



ツンツン



夢苦が心配する菜艶の背中を指でつついた。



夢苦「菜艶さん大丈夫ですよ。ちゃんと無事に帰れますって」



菜艶「そうかな・・・」



夢苦「そうですよ」



夢苦の言葉に少し安心した様子。



そして弥勒は瑞雲、菜艶、夢苦に向かって指示を出した。



弥勒「それでは霊界に行く者は各自準備を始めてくれ」



瑞雲「あいよ」



夢苦「分かりました」



菜艶「お、おう」



出発の準備を告げた弥勒に烙鵬が少し怒った様な顔で近付いてきた。



烙鵬「弥勒、普段はお前とは仲は良くはないが、俺を選ばないとはどういう事だ!!それにこいつらでは戦力が心許ないだろう?」



瑞雲「おいおい烙鵬。どういう意味だそれは?」



烙鵬にくってかかろうとする瑞雲を静止させる為に、直ぐに前に出る弥勒。



弥勒「大丈夫だよ烙鵬。私には勝算がある。それに行くのは私達四人だけではないからね」



烙鵬「何!?」



弥勒の言葉に烙鵬は驚く。


烙鵬「ならばお前の片腕とも言える奴らも魔界に連れて来ているのか!?」



弥勒「ああ。でも私が連れて来たわけではないのだけどね。彼らが勝手について来たんだよ。多分近くにいると思うよ。彼らは魔光気を完全に消しているから私以外は誰も気付いていないと思うよ」



烙鵬「あいつらの戦闘力はかなりの者だ。まさか魔界にまでついて来ているとはな」



弥勒「私も予想外だったよ。烙鵬、話しは変わるが・・・」



弥勒は瑞雲を出発の準備をさせる為に行かせると、烙鵬に近付き小声で話しかける。



弥勒《比羅は砂亜羅の死で精神的に大きなダメージを受けている。不安定な部分も多い、今の比羅を補佐する事が出来るのはお前しかいない。だから外したのだ。烙鵬、比羅を頼む》



烙鵬《む・・・》



弥勒《私の頼みを聞くのはお前には苦痛かも知れないが、今の比羅に代わって同士達の中で冷静に状況を判断して動けるのはお前しかいない》



烙鵬(・・・)



弥勒の言葉に烙鵬は考えている様子。



そして・・・。



烙鵬《・・・気に入らないが、今回だけはお前の言う事を聞いてやる》



烙鵬はそれだけを弥勒に告げると背を向けた。



弥勒「待ってくれ烙鵬。頼みついでにもう一つ頼まれて欲しい事がある」



烙鵬(ピクッ)



烙鵬の足が止まる。



そして弥勒は烙鵬の冷静に状況を判断する能力を見込んだ上である頼み事をしたのだった。



話しを聞き終えた烙鵬。その彼の口から出た言葉は。


(ニヤッ)
烙鵬「フッ、仲の悪い俺に頼むとは余程の事だな」



弥勒「まあね。でも仲が悪いって言ったって私は別にお前の事は嫌いではないよ」



烙鵬「俺は嫌いだ」



そう言うと烙鵬は弥勒に背を向けてスクリーンが見える場所に向かって歩き始めた。



歩きながら右手を挙げた。その右手は「任せておけ」っと言っているように見える。烙鵬は了承したのだ。


弥勒(頼んだよ烙鵬)



瑞雲、菜艶、夢苦も霊界に向かう準備を始めていた。


弥勒は樹の側に近付いて話しかける。



弥勒「樹、少し二人だけで話しがある」



樹「・・・いいだろう」



同士達から少し離れた場所に弥勒と樹は移動した。



そして・・・。



樹「もうここでいいだろう。弥勒、話しとは何だ?」


弥勒は鋭い目で樹を見る。


弥勒「樹、聞きたい事があるよ。お前は砂亜羅と抗戦したという二人の妖怪、そして砂亜羅と闘った妖怪に手を貸した霊界の者の話しをしたよね」



樹「それがどうしたというのだ?」



弥勒「それはお前が砂亜羅の抗戦している所を一部始終見ていたことになる。砂亜羅が闘っているという事を私達に知らせようとは思わなかったのかい?」



これまでの話しの多くが弥勒は樹の虚構ではないかという事を殆ど確信した上で樹に聞いたのだった。



樹「特防隊が相手だからな。知らせる事も出来なかったさ」



その言葉に弥勒はある確信を得ていた。



弥勒「なるほどね。そうなるとお前も抗戦していた事になる。相手は砂亜羅を殺せる程の者だ。お前が無傷で逃げられるわけがないと私は思うのだが。違うかい?」



樹「フッ、お前も知っている通り、俺には空間の中を移動する事が出来る。空間に入れば逃げる事は出来る」



弥勒「なるほどね」



弥勒は樹の言葉を聞いて目を瞑り、不敵な笑みを浮かべる。



弥勒「話しを続けるよ。さっきの話しの中で比羅が砂亜羅の変わり果てた姿を見つけた後にお前は比羅に接触して、彼に砂亜羅に起きた状況を話した。比羅の話しだと見つけた時に砂亜羅はまだ生きていたという」


樹「それが?」



弥勒「何故、瀕死となった砂亜羅をそのままにしていたんだ?瀕死の彼女を連れて私達の元に来ようとは思わなかったのかい?」



弥勒は次々と樹に話しの矛盾を突いていた。



樹(弥勒め・・・)



弥勒「そしてこれはあくまで私の独り言だから聞き流してくれて構わない」



樹(・・・)



弥勒「砂亜羅を殺したのは霊界特別防衛隊の者ではないと私は見ている」



弥勒は樹の目を見つめながら答えた。



樹「どういう意味だそれは?」



(ニコッ)
弥勒「樹、これは只の私の独り言だよ」



樹「弥勒、お前は俺の話しを作り話しとでも言うつもりか?」



樹は弥勒を睨みつける。



弥勒「さあね。私の話しはこれまでだ。霊界を攻める準備をしないといけないからね」



そう言うと弥勒は樹に背を向けて歩き始めた。そして数歩ほど歩いた所で足を止める。



樹「何だ弥勒?まだあるのか?」



弥勒「樹、私は砂亜羅の死にお前が何か関わっていると見ている。私はその証拠を掴んでみせる。お前が私達に仇を成す者と分かれば私は全力でお前を排除する。それを忘れるな」



弥勒の身体から樹に強烈な殺意の波動が流れる。



樹「フッ、俺はお前達の味方さ。今でもこれからもな」



弥勒「そうであればいいけどね・・・」



弥勒は振り返る事はなくそのまま歩いていったのだった。



一人この場に残った樹は弥勒の背中を見ながら心の中で呟く。



(ニヤッ)
樹(面白い。弥勒、お前の最後の言葉は挑戦状として受け取っておくよ)



弥勒が立ち去ると入れ替わる様に皐月が樹の側にやって来た。



皐月「どうやら彼には貴方の策は気付れている様な感じね」



樹「ああ。厄介な男だ。俺の計画の大きな障害になりそうだ」



皐月「そうみたいね」



二人の闇撫は智将・弥勒が自分達の強敵になると感じていた。



皐月「ねぇ樹。一つ聞いてもいい?」



皐月は樹の肩に手を置いて、そっと寄り添う。



樹「何だ?」



皐月「どうして霊界を滅ぼそうと思ったの?」



皐月は樹がこの策を考え出してからずっと抱いていた疑問を聞いたのだった。



樹は肩に手を置いている皐月の手をギュッと握ると、その理由を語り始めた。



樹「忍が蘇れば、おそらく霊界は俺達を放ってはいないだろう。危険人物として俺達は狙われ続ける」



魔界の扉事件を起こした張本人である仙水と樹。



コエンマの父親であるエンマは息子のコエンマには極秘で行方不明となった樹を情報機関に危険人物として捜索させていた。



樹を抹殺する為に・・・。



エンマが失脚して、政権がコエンマに移った今でもコエンマの知らない所で、エンマの樹の抹殺命令はいきていたのであった。



皐月「でも、霊界には仙水を倒せる者はいないのでしょう?何を恐れているの?」



樹「人間とはいえ忍はS級妖怪クラスの力を持っている。簡単にはやられはしない。だが、特防隊は忍を封じる力は持っている」



皐月「なるほどね。それであの女を殺したのを特防隊のせいにしたのね」



樹「今回の策は弥勒の邪魔により、完璧とは行かなかったが、霊界を攻めさせる事には成功した」



皐月「でも、あの男が選んだ連中は大丈夫なの?樹の予定通りに動くの?」



樹「弥勒がいる限り難しいな」



弥勒が選んだメンバーは瑞雲を除けば、比較的温厚な人物ばかりであった。



樹の霊界の者をことごとく葬るには少し障害のある人物ばかり。そして樹を疑う弥勒がリーダーである。


樹は弥勒が殺戮を行う事をおそらくしない事も分かっていた。



樹の策は霊界を攻めさせる事には成功したものの、目的である殺戮を比羅に行わす事は弥勒によって防がれて失敗した。



初の対決となった弥勒と樹。



今回の闘いは引き分けだったと言えよう。



樹「智将・弥勒。あの男には消えてもらおうか」



樹は新たな策を巡らせようとしていたのだった。



そして弥勒は・・・。



準備をしながらスクリーンを見つめる。



弥勒「樹との闘いはこれからも続く事になりそうだね」



温厚なその顔は闘う戦士の顔に大きく変化していた。


智将と称された比羅に次ぐNo.2の男・弥勒。



彼は樹の策を授かった皐月に導かれて同士達と霊界に向かう事になる。



霊界の運命は?



そして弥勒達は霊界で予想外の“あの男”と激しい闘いを繰り広げる事になる。


いよいよ智将と闇撫の闘いは第二ラウンドに突入するのであった。



そして時計の針を再び元に戻して激動の魔界統一トーナメントを追う。



続く
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