幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
26ページ/35ページ

――魔界統一トーナメント・三回戦の第一試合は強者が出揃う、激しい闘いになろうとしていた。



Aブロック

時雨(しぐれ)
×
桑原(くわばら)



Bブロック

棗(なつめ)
×
鉄山(てつざん)



Cブロック

九浄(くじょう)
×
酎(ちゅう)



Dブロック

蔵馬(くらま)
×
梟(ふくろう)



――メイン会場



小兎「それでは魔界統一トーナメント三回戦の第一試合を始めたいと思います」


各ブロックの上空からは審判が選手達の様子を見ている。



間もなく試合が開始されるのだ。



雪菜「和真さんはついにあの時雨さんと試合なのね。それに棗さんの対戦相手の方も凄い妖気」



観客席から雪菜はスクリーンに映し出されているAブロックの桑原、Bブロック棗の様子を心配そうに見守っていた。



――Aブロック



桑原・時雨(・・・)



桑原と時雨が対峙している。



黄泉によって魔界に飛ばされてから、桑原が最も世話になっていたのは、この時雨であった。



そして時雨は桑原にとっては剣術を学んだ師匠でもある。



いわば師弟関係となる二人が遂に魔界統一トーナメントの三回戦で刃を交える事となる。



桑原の右手には死々若丸から譲り受けた新型の試しの剣が握られていた。



そして時雨の手には愛刀である燐火円磔刀がしっかりと握り締められていた。



静かに試合開始の合図を待つ中で、時雨が桑原に話しかける。



時雨「桑原よ、闘う前に言っておくぞ。人間の身でありながら、よくぞここまで勝ち抜いてきた。二回戦の武威を倒した最後の一撃は見事だったぞ」



桑原「あの勝利は時雨、おめーが俺に剣術を教えてくれていなかったら絶対になかったもんだぜ。魔界に来てから、おめーには本当に世話になった。いくら感謝しても足りねーぐらいだ」



時雨「嬉しい事を言う。今の御主は大会に参加した頃とは比べ者にならないぐらいに強い。あの武威を倒した時に感じた御主の霊力は拙者の力を上回る程だった」



カチャッ



時雨は真剣な眼差しで燐火円磔刀を構える。



時雨「だが、拙者はそんな御主と闘うに当たって、師匠として弟子にむざむざと負けるつもりはない。この時雨、全力を持って御主を倒す。これが拙者が教える最後の修行だ。全力でかかってこい桑原!!」



桑原「時雨、俺はこの大会の本選にまで勝ち残って、最初に対戦の組み合わせを見た瞬間、直ぐに思ったぜ。勝ち進めば三回戦でおめーに当たるってな。分かった瞬間はマジで嬉しかったぜ」



ジジジ・・・



桑原は試しの剣を力強く握り締めると霊気を伝え始めた。



ギュンンンンン!!!!!


霊気を得て、試しの剣からは凄まじいエナジーを放出した霊剣が姿を現した。



スッ



桑原は時雨と同じ構えをする。



それは時雨の教えた剣術の構えであった。



(ニヤッ)
桑原「この試合は俺にとっては最終目的地。勝っても負けても悔いはねー。決勝戦と同じぐれーに価値がある試合だ!おめーから習った剣術の全てをぶつけて倒すぜ“師匠”」



時雨「フフフ、師匠か。ならば行くぞ!拙者にとっては初めての“人間の弟子よ”」



強力な能力がベールを脱ごうとしている新型の試しの剣。



そして桑原のこの試合にかける熱き想い。



その二つが融合して師である時雨に挑む。



――Bブロック



棗と鉄山が一定の距離を置いて対峙していた。



棗「鉄山と闘うのは本当に久しぶり。最後に闘ったのは随分と昔になるよ」



棗は目の前にいる男を1000年以上も前から知っている。



二人が知り合うきっかけとなったのは一人の妖怪の存在であった。



その妖怪の名は闘神・雷禅。



史上最強の魔族である。



妖怪という生き物が誕生してから気が遠くなる年月。


その妖怪の歴史の中でNo.1とも言える妖怪はこの雷禅であろう。それほど全盛期の雷禅は強かった。



その強さを聞き付けた者達が、最強の魔族を倒そうと一人、また一人と集まってきていた。



その中に棗や九浄、鉄山、煙鬼達はいた。



棗と鉄山はこの時に出会ったのだ。



誰も雷禅の圧倒的な強さの前に勝てる者はいなかった。



だが、雷禅は圧倒的な強さだけではなく非常に強いカリスマ性を持っていた。



闘いを挑む内に彼に惹かれて、いつしか一人、また一人と彼らは雷禅の良い喧嘩仲間となっていた。



雷禅を介して棗も鉄山も喧嘩仲間となり、頻繁に二人は闘っていた。



だが、喧嘩仲間達の中心にいた雷禅が人間を食べるのを止めて、喧嘩をしなくなってからというものの、彼らは闘う気力が薄れてしまい、喧嘩を止めて静かに暮らし始めた。



そして1000年以上の月日が過ぎていた・・・。



棗と鉄山の二人が闘うのはその時以来なのである。



鉄山「確かにそうだな。こうしてお前と闘うのは1000年ぶり以上だ。だが、もうお互いの手の内は分かっているな」



棗「そうね。手の内は知りつくしている。私達の“喧嘩”には小細工は無用。最初から真っ向勝負よ」



鉄山「いいだろう」



ブォォォォォ!!!!!



お互いに抑えていた妖気を一気に放出した。



棗(流石は鉄山。凄い妖気)


鉄山「前の大会では俺は早々に負けてしまったからな。今回は優勝を狙わせてもらうぞ」



棗「それは無理ね。この試合は私が勝つから」



スッ



棗はそう言うと戦闘態勢に入った。



棗(私はこの鉄山に勝たないと飛影とは四回戦で闘えない。彼に雪菜ちゃんの兄と名乗らす為にもここは絶対に負けるわけにはいかない闘い。でも・・・)



鉄山「フッ、相変わらず強気だな」



スッ



鉄山も構えて戦闘態勢に入る。



構えた鉄山を見ながら棗は小さな声で呟く。



棗《雪菜ちゃんごめんね》
(鉄山の妖気を間近で感じて血が騒ぐの。今は何もかも忘れて純粋に鉄山との喧嘩を楽しみたいと思う自分がいる事に気付いたの)



(ニヤッ)
鉄山「楽しい“喧嘩”になりそうだな棗」



(ニコッ)
棗「ええ」



お互いに久しぶりに闘える喜びを感じていた。



棗と鉄山。



二人は1000年の時を越えてぶつかる。



――Cブロック



Cブロックには棗の双子の兄である九浄と恋人である酎が対峙していた。



二人は対峙するなり直ぐに本題について語り始めた。


酎「九浄、お前さんに俺が勝ったら、棗さんとの結婚を素直に認めてもらうぜ」


九浄「ああ、それは賭けの約束だからな。いいぜ。だが、お前みたいなむさい男に可愛い妹をむざむざと渡す程、俺は弱くねーよ。完膚なきまで叩きのめしてやるぜ」



酎「そうはいかねー。お前さんに勝ったら俺のプロポーズを受けてくれるって棗さんは言ってくれたからな。この試合は絶対に負けられねー」



九浄「酎、棗が何と言おうとも、お前が負けたら妹の事は諦めてもらうぞ」



酎「もちろんだ。俺も男だ。負けたらスッパリと棗さんの事を諦めてやる」



(ニッ)
九浄「フッ、その言葉を忘れるなよ」



酎と九浄は互いに構えて戦闘態勢に入ったのだった。


九浄(棗と一緒になるなら、お前にはこれから俺の代わりに妹を守ってもらわないといけないからな。お前が妹をやるのにふさわしい男かどうか見させてもらうぞ酎)



元々は酎と棗の結婚を九浄が反対した事から始まった二人の賭け。



九浄の本当の賭けの真意は酎という男を見極める事。


妹である棗に対して、その想いがどれだけのものかを彼は知りたかったのだ。



酎は棗の双子の兄である九浄に妹の棗との結婚を認めてもらう為、そして棗にプロポーズを受けてもらう為に、未だかってない実力をこの試合で発揮する事となる。



兄の妹への想い。



恋人への愛。



二つの強い想いがぶつかる。



――Dブロック



蔵馬と梟が静かに対峙している。



蔵馬「倒させてもらうぞ梟」



梟「フッ、お前は俺には勝てない」



他のブロックの六人とは違った緊張感が二人の間に漂う。



――メイン会場



スクリーンに映し出されているDブロックの映像を観客席の目立たない場所から凝視する者が一人。



Dr.イチガキである。



イチガキ「ヒョヒョヒョ。蔵馬、暗黒武術会の時はお前をはじめ、浦飯チームの連中には大変世話になったからのう。この試合はワシにとってもあの“鴉”にとってもリベンジとなる」



強い敵対心の眼差し。



暗黒武術界の決勝戦で戸愚呂チームの先鋒として闘い、蔵馬との死闘の末に死んだ鴉。



梟はその鴉と瓜二つの姿だけではなくその能力も同じであった。



イチガキは暗黒武術会で死んだ者達の中から自分が気に入った者達の遺体を手に入れて冷凍保存していた。


梟はイチガキが不思議な力を持つ闇撫の技術力を得て始めた研究によって、鴉の記憶の一部と能力を新たな人工の肉体に移植した全く別の生命体であった。



戸愚呂(兄)の再生能力を持つだけでなく、蔵馬が危険な毒死草を使ってまで倒した電鳳を上回るその妖気。


イチガキの実験体となって新たに生まれ変わった鴉の今の名は梟。鴉であって鴉ではない存在。



イチガキが研究によって生み出した数体ある実験体の中では彼は最高傑作なのである。



イチガキ「梟という新たな生命体として生まれ変わった鴉。お前の力を蔵馬に見せつけてやるがいい」



――Dブロック



梟(この男は大会で見かけてからずっと引っかかる。もう少しで完全に思い出せそうだ)



梟は鴉の記憶の一部を受け継いではいるが、その記憶は若干不安定であった。



イチガキが実験体のテストとして参加させたこの大会で、彼は蔵馬の姿を大会で見かけてから、徐々に鴉としての記憶が戻り始めていた。



蔵馬「鈴木にしたお前の非道ともいえる行為。俺はお前を許さない」



梟「許せないのだったら私を倒してみせる事だな。二回戦のお前の戦いは見ていた。あの姿にはならないのか?」



妖狐・蔵馬「俺の戦いを見ていたのか。お前に言われるまでもない。見せてやるよ」



ブォォォォォ!!!!!!


蔵馬は全身に妖気を込め始めた。



南野秀一の姿から別の姿へとその身体が徐々に変貌していく。



そう、白魔装束を身に纏った銀髪の妖狐の姿へと。



梟(!)



パァァァァァ



間近で妖狐・蔵馬の姿を見た事で梟の脳裏に暗黒武術会の決勝の光景が次々と昨日の事の様によみがえっていく。



梟(フッ、なるほどな。思い出したぞ)



梟が妖狐・蔵馬に変貌した蔵馬に向かって言った最初の言葉。



それは・・・。



梟「暗黒武術会の借りは返すぞ蔵馬」



その言葉は梟に鴉としての記憶がハッキリと戻った証拠であった。



梟「蔵馬、今度こそ、その美しい顔を傷つけずに、頭だけを残して永遠に俺のものにする。お前の身体は綺麗に吹き飛ばしてやるよ」


妖狐・蔵馬「梟、やはりお前はあの鴉か。どうやって蘇ったのか知らないが、今度こそ二度と俺の前に現れないように・・・」



鋭い目つきで梟を見ながら妖狐・蔵馬は言い放つ。



妖狐・蔵馬「お前は殺すぞ」



(ニヤッ)
梟「死ぬのはお前だ」



暗黒武術会の決勝戦から数年の時を得て二人は再びぶつかる。



上空から各ブロックの審判が選手達を見つめる。



審判「始め!」



各ブロックの審判達の声が同時に闘場に響き渡った。


四つの激戦が繰り広げられ事となる三回戦の第一試合の始まりである。



そして四つの闘いの中から、まずはあのブロックの闘いから追いかける。



続く
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ