幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――魔界統一トーナメントBブロックの三回戦・第一試合



棗(なつめ)
×
鉄山(てつざん)



――Bブロック



スピードを鉄山の重力操作の能力によって奪われて劣勢だった棗。



しかし形成逆転となる関節技を鉄山にかける事に成功したのだった。



最初は棗の技を外そうと激しく抵抗していた鉄山であったが、突然抵抗を止めて棗の関節技による痛みに耐え始めたのだった。



鉄山(棗、もう少しで俺はお前の技から抜け出す。覚悟しろ)



鉄山の狙いとは?その沈黙が不気味であった。



棗(鉄山の奴、何を考えているの?)



抵抗を止めた鉄山に棗は不気味さを感じていた。



――選手達の休憩場



躯「棗の奴、あんな関節技を持っていたのか。俺と闘った時には使ってこなかったな」

(あいつと闘った時は殆ど肉弾戦だったしな…)



棗が予想外の関節技を持っている事に驚くと同時に感心していた。



躯(そういえば)



視線を休憩場内に移して辺りを見渡す。



躯(幽助に飛影、そして時雨との試合を終えて休憩場に戻って来ていた桑原の姿が消えているな)



先程まではスクリーンで試合を見ていた幽助と飛影と桑原の三人の姿が選手達の休憩場からいつの間にか消えていたのだった。



その頃、Cブロックの闘場を繋ぐ階段から酎と九浄が選手達の休憩場に戻ってきた。



二人共、激しい闘いを終えたばかりで身体中がボロボロの状態。



だが、二人の顔は全ての力を出し尽くして燃え尽きた様なスッキリとした表情をしていた。



二人は戻って来るなり直ぐにスクリーンに映し出されている、ある闘場に視線を移したのだった。



相手が鉄山なだけにBブロックの棗の試合がどうなったのか気になっていたからである。



九浄・酎「棗(さん)はどうなったんだ!」



同時に声を発する二人。



(!?)



お互いに顔を見合わせる



妹と恋人。二人は激しい激戦を闘いながら棗の事を心配していたのだ。



酎「九浄、棗さん達はまだ闘っているみたいだ」



九浄「ああ、そのようだな。棗が普段はあまり使わない関節技を使うとは珍しい」



酎(あれは??)



闘場に張られている黒い結界に気付いた。



酎「おい九浄、あれが何か分かるか?」



直ぐにスクリーンを指差して九浄に問い掛ける。



九浄「あれは結界だ。鉄山の能力の重力操作が発動した証。なるほどな。棗の奴が関節技まで出したところを見るとあの能力にかなり苦戦していたとみえる」



酎「結界!?しかも重力操作って…。という事はあの結界の中じゃあ重力が変化してるって事か」



九浄「ああ。あの能力は俺でも手を焼くからな。使われると厄介だ」



酎「大丈夫かよ棗さん…」



恋人を心配そうに見つめる。



九浄は酎の肩にそっと手を置く。



九浄「今はあいつの関節技が決まっているから大丈夫だ。おそらくはこのまま結界が消えるまでかけてるだろうぜ」



酎「そうか…。勝てよ棗さん…」



――Bブロック



棗に関節技をかけられて静かに沈黙を保っていた鉄山がついにその行動を起こそうとしていた。



鉄山「…流石に強烈な関節技だったな棗。だが、だいぶん痛みには慣れたぞ」



棗「慣れた!?」



鉄山の言葉に驚く棗。



鉄山「フン」



グググ…



全身にその巨大な力を込め始めた。



そして…。



フワー



棗(!?)



鉄山の背後で関節技をかけている棗の身体が少し宙に浮く。



鉄山「ウォォォォ!!!!!」



グググ…



関節技を完璧にかけて、鉄山の身体を締め付けている筈の棗の身体が徐々に鉄山の力によって持ち上げられていく。



棗「こ、この馬鹿力!」



鉄山「技の痛みに慣れてしまえばなんとでもなるぞ」


棗の関節技を外そうと抵抗していたのを途中で止めてそのまま耐えていたのは、その技を受ける事で伴う痛みに慣れる為だった。



鉄山「デャァァァァァ!!!!!」



鉄山は技をかけられた状態のままで棗の身体を持ち上げると、地面に背中から棗を叩きつけようとする。



棗(まずい…!)



スッ



咄嗟に鉄山にかけている関節技を解いてその場から逃れようとする棗。



だが、鉄山はその一瞬のタイミングを見逃さなかった。



鉄山「逃がさん」



ガシッ



20倍の重力の中で動きが鈍い棗の両足を簡単に捕まえた。



鉄山「関節技のお返しだァァァァァ!!!!!」



ブーーン!!



両足を掴み地面に向かって思いっきり叩きつけた。



ドガァァァ!!!!!



棗「うァァ…」



鉄山「フン」



地面に叩きつけた棗の身体を持ち上げた。



そして今度は……。



ブーーン!!ブーーン!!


そのパワーで棗の身体を勢いよくグルグルと振り回し始めた。



鉄山「オラァァァァァ!!!!!」



ビューーーーー!!!!!


そして思いっきり棗の身体を岩壁に向かって投げつけたのだった。



ドガァァァァァ!!!!!


叩きつけられる棗。



棗が岩壁に叩きつけられた衝撃で、辺りには凄まじいまでの砂煙が立ち込めていた。



棗「う……。私の技の痛みに慣れるなんて、本当に呆れた打たれ強さね…」



自身の身体に視線を向ける。



棗(このままでは本当に倒されてしまう。予想以上にダメージを受けている)



実際に地面と岩壁に叩きつけられた事で棗はかなりのダメージを受けていた。



それだけではない。長い時間、凄まじい破壊力の鉄山の攻撃を防御し続けていた為に蓄積されたダメージと消耗した体力。



結界が消えるまで鉄山の攻撃にこれ以上耐える事はもはや不可能に近い状況まで追い詰められていた。



この喧嘩で私は負けてしまうのか?



そう思った瞬間に棗の脳裏に浮かんだのは雪菜の顔だった。



棗(雪菜ちゃん…)



1000年以上の時を得ての鉄山との喧嘩。



何もかも忘れて純粋に鉄山との闘いに挑んだ棗であったが、敗北の予感を感じた事で、この試合が始まって初めて雪菜の為に飛影と交わした賭けの事が頭をよぎった。



この試合に勝てばその後に待ち受ける飛影との対決。


その闘いに勝てば飛影に雪菜の兄だと名乗らせる事が出来る。



その思いが棗に勝利へのより強い意欲を掻き立てたのだった。



棗「喧嘩を楽しんでいるばかりでは鉄山には勝てないわね…」

(この重力の中では決める事は出来ないかも知れない。でもこの状況から鉄山を退ける技はこれしかない)


スッ



棗は起き上がると目を閉じた。



そして軽く息を吐くと気を練り始めた。



気を練る棗の妖気がどんどん大きくなってくる。



棗(“彼女”に見られるかも知れないから、ここで使いたくはなかったけど、そうは言っていられない)



鉄山は岩壁の中から出て来て、巨大な妖気を放出する棗を見つめながら呟いた。


鉄山「今ので決まったと思ったが流石は棗だ」



視線をぐるりと動かしながら周囲を見渡した。



鉄山「そろそろ結界が消える頃合だ。結界が消えたら少々厄介だ。かなりのダメージは与えたと思うが、棗はしぶといからな」



そして視線を棗に向ける。


鉄山「悪いが今回の喧嘩は俺が勝つぞ棗」



ズキューン!!!!!



そう言うと棗の元に向かって走り出した。



勝負をここで決める為に……。



スッ



棗は両手の拳を強く握り締めて構えた。



棗(この技が当たればいくらタフな鉄山でも倒せる筈。後はこの20倍の重力の中で当てる事に集中する事を考えないと)



カーーー!!!!!



両手の拳が虹色に光輝く。


棗「躯を倒す為に編み出した私の封神拳を最初に受けるのは貴方よ鉄山」



ドォォォォォ!!!!!



気を練る棗の背中から妖気が噴出されていく。



噴出される妖気の形はまるで美しく虹色に輝く翼の様な形をしていた。



そして…。



ドーーーーーン!!!!!


妖気を噴出した勢いで棗は鉄山に向かってとんで行った。



(キッ)
棗「見せてあげるよ鉄山。私の封神拳をね!」



――選手達の休憩場



躯「美しい。まるで背中に翼が生えたようだ…」



棗の放出した妖気の美しさに目を奪われる躯。



酎「お〜!何だあの技は!?俺は初めて見るぞ!」



九浄「俺もあの技を見るのは初めてだ。棗、あんな技をいつの間に…」



――Bブロック



棗「ハァァァーーー!!!」


鉄山「何だあの技は!?この重力の中で凄いスピードだ」

(重力が20倍でなければ恐ろしい程の速さという事か)



妖気を噴出しながら向かって来る棗に一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに気を取り直して向かって来る棗に対して集中。



高速のスピードの二人がついにぶつかる。



――メイン会場



雪菜「棗さん!!!」



――選手達の休憩場



九浄・酎「棗(さん)!!」



痩傑「鉄山!!!」



才蔵「もしかしたらこれでこの喧嘩は終わるかもしれないぞ」



――Bブロック



勝負に出た二人に多くの者達が注目して見守る中、喧嘩仲間同士の対決はついにクライマックスを迎えるのか?



その答えは闘場の二人が持っている。



鉄山「ウォォォォォ!!!!!」



巨大なパワーを右手の拳に集中。この一撃で棗を倒しにかかる。



鉄山「どんな技か知らないが無駄だ。この一撃で俺の勝ちだ。昔の喧嘩で負けた借りはこれで返してやる」



ビューーン!!!!!



放たれた拳の行き先は棗の顔面。



棗「1000年ぶり以上となった貴方との喧嘩。悪いけど私は負けるわけにはいかない。勝つよ鉄山」



向かって来る鉄山に両手を突き出す。



棗「封神拳・壱式……」



鉄山「もらったァァァァ!!!!!」



鉄山の拳が棗の顔面に当たるかに見えた。



だが……。



ピッ!!



鉄山の拳はとらえていた棗の顔面には完全に当たらず頬をかすめただけであった。



棗の頬の皮は裂けて血が流れる。



鉄山「20倍の重力の中で俺の最大の一撃をかわした!?」



スッ



攻撃をかわした棗は鉄山の胸部に虹色に光輝く両手で触れた。



棗「鷹襲波ァァァァ!!!!



棗は気合いの入った声が闘場に響き渡った。



ドォォォォォ!!!!!!


その声と同時に一気に両手から妖気が噴出された。



噴出された妖気は鉄山の身体を吹き飛ばさずにその身体に流れ込んでいく。



そして鉄山の身体に流れ込んだ妖気はその身体から虹色の光を放ち始めた。



鉄山「グワァァァァァァ!!!!!」



大きな叫び声を上げる鉄山。



棗「貴方の身体に私の練り上げた妖気を流し込んだ。これは身体の外部ではなく内部を破壊する技よ…」



そして…。



ズンン!!!



鉄山の身体は仰向けに倒れた。



棗(ハァハァハァ)



苦しい表情で倒れた鉄山を見つめる棗。



(ニコッ)
棗「…流石に身体の外部は鍛えられても内部までは鍛えられないものね…」



棗は鉄山との喧嘩に勝利を確信していた。



だが…。



ムクッ



棗(!?)



胸部を手で抑えながらゆっくりと鉄山が立ち上がったのだ。



鉄山「ハァハァハァ、まだだ。まだ俺はやれるぞ…」


内部に妖気を流し込まれて、身体がボロボロになったのにも関わらず尚も立ち上がった鉄山。



かなりのダメージと体力の消耗。そしてもうすぐ消えるとはいえ重力に素早い動きを奪われている棗。



勝利の女神は果たしてどちらに微笑むのだろうか?



続く
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